よくある悪役令嬢ものの性悪ヒロインのポジにTS転生してしまったので、前世で培った知識を活用して、破滅フラグを回避しようと思います！

どうやってここから逃れるべきだろうか、そして、彼は大丈夫なのだろうか。

執事の男とはいえば、先程からしきりに俺の料理を勧める男の姿を見れば、さぞかしガブリエルは怒るに違いない。
この場合はサミュエルくんも怒ったりするのだろうか。
前の舞踏会の時の様子からして、その可能性は高いが……。
俺が両目を瞑り、唸り声を上げていると、目の前にフォークに突き刺さった料理が見えた。
「どうぞ、お嬢様」
と、こう、目の前に突き出されれば、食べるほかあるまい。
俺はフォークに刺さった肉を口に入れる。俺が口に入れた肉は良い肉を使っており、良質な味がした。
噛んで飲み込んだものの、未だにその味は舌の上に残っている。
それ程までに印象深いものであった。前世であるならば、これでテレビでも見ながら、食事を取れれば最適なのだが、あまり我儘も言っていられない。
俺がそう考えていると、執事はもう一度俺の顔を覗き込む。
俺が思わず悲鳴を上げると、彼は悪戯っぽく笑って、
「失礼しました。あまりにも可愛らしくお食べになるのでね。それよりも、どうでしょう？あなた様さえ良ければ、あなた様の従者とご対面させようと考えておりますが……」
その言葉で俺は自分の御者の存在について聞く機会を得たので、彼にたたみかけていく。
すると、彼はクスクスと笑って、
「大丈夫ですよ。お嬢様の従者は丁寧に、お預かりしておりますから」
と、彼は台車の上に置いてあったベルを鳴らす。
同時に部屋の扉が開かれて、俺の元にペーターが飛び込む。
彼は泣きじゃくり、鼻を啜りながら、俺の胸で泣く。
それを俺が優しく撫でるという有様である。ひとしきり、俺の胸で泣いた後に、ペーターはエミリオを睨んで、
「貴様、お嬢様に変な事をしていないだろうなぁ？もし、変な事をしたら、許さないぞ！」
「まさか、まだ変な事はしていませんよ」
「まだ？まだだとォォォォォ～！！貴様ァァァァァァ～！！」
ペーターはそれこそ、般若の形相を浮かべると、エミリオの胸元を掴む。
だが、迫られたとしても、エミリオは余裕の表情を崩さない。あくまでも冷静に彼の腕を払い除ける。
そして、ペーターの手首を掴むと、それに力を込めると言った。
「言葉に気を付けてもらいたい。忘れるな、キミたちの生殺与奪の権は我々が握っていると……」
彼は何処ぞの柱の様な事を言うと、ペーターを押し倒す。
それから、慌てて駆け寄ろうとする俺を静止して、
「怖いところをお見せして申し訳ありません。あ、このベルは御入用の時や、ペーターに会いたい時などに使用してください」
と、満面の笑みを浮かべて、俺に金色に輝くベルを差し出す。
それから、彼はペーターを起こすと、そのまま部屋を去っていく。