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グレースは不安よな。悪役令嬢動きます

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「どういう表現でしょうか?サミュエル王太子殿下?こちらの御令嬢とダンスを楽しんでいるだけのぼくを邪魔するとは?」
「ダンスを楽しんでいる?そうは見えませんでした。あからさまに口付けを交わそうとしていましたが……」
「やだなぁ、それを実行には写そうとしていませんでしたよ」
「でも、ぼくが止めなければ、そうしようとしていましたよ」
二人の言い争いに貴族の方々も無視できなくなっていたらしく、音楽だけがなんとか鳴っているという状況である。
騒動の中心地には二人の王子と男爵家令嬢の俺。
不味い。これはひょっとしなくてもゲー○・オ○・スロー○ズ的な流れになるやつだ。
このままでは、卒業パーティーを待たずに断罪ではないか。
俺は慌てて、
「だ、大丈夫ですよ!殿下!私は別に嫌な思いなどしておりませんし、ただただ踊っていただけですわ!」
だが、それを聞いても尚、サミュエルは訝しげに俺を見つめる。
それを横でニコニコと見つめるロバート。
やめろ、『そら、見ろ』と言わんばかりのドヤ顔でサミュエルを見るのはやめろ。
俺はそう念を送るのだが、ロバートは腕を組んで、サミュエルを見下ろすのをやめようとしない。
サミュエルはずっと睨んでいるが、常にそれを嘲笑うロバートも中々のものである。
どうしようもない状況に俺が困惑していると、ようやく、そこに救世主が現れる。
振り返ると、そこには悪役令嬢の姿。
両眉をピクピクと動かした彼女は俺の元に近寄ると、いつも通りに俺の頭を扇子で強く叩く。
両手で頭を抑える俺を放置し、彼女はロバートに向かって頭を下げる。
「殿下、申し訳ありませんわ。この女が妙な事をしたみたいで……私の方からよく叱っておきますので、どうか、お目溢し頂けると幸いですわ」
「妙な事だなんて、とんでもない、これはぼくのーー」
「いいえ、どうせ、この子が変な事をしたに違いありませんわ!今日のところは失礼して、これで、引き取らせていただきます!今日はお越し頂きありがとうございますわ!」
そう言うと、オリビア嬢は俺を引き連れて舞踏会の会場を後にする。
彼女はずっと不機嫌な様子で俺を城の外に連れ回すと、自分の馬車の中に俺を無理矢理に押し込む。
「あんたバカァ!」
と、彼女は世界的有名ロボットアニメのツンデレキャラの様に、俺に人差し指を突き付けると、そのまま人差し指で俺のこめかみを詰っていく。
「あんた、あのままだと大変な事になってたよ!良かったわ。今日は私がいて……」
「でも、姿は見えませんでしたわよね?何処におりましたの?」
「今日はご来賓の方々との挨拶で忙しかったの!それで、ちょっと来るのが遅れたら、このザマよ……」
彼女は『やれやれ』と言わんばかりに肩をすくませると、溜息を吐く。
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