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腹黒王子の恐ろしさを改めて知りました。けど、俺はなんで、逃げる羽目になったの?

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休日が終わり、学校が始まると、俺は学園内に漂う異様な雰囲気を目の当たりにする。
休みの前はあれだけ、陰口を叩いていた令嬢の方々が口を閉ざし、あろう事か、少し前まで、エリアーナ嬢におべっかを使っていた令嬢は次々に俺におべっかを使い始めた。
どういう事だろう。俺が首を傾げていると、俺の目の前に手を挙げて、俺を迎えるサミュエル王子の姿。
サミュエル王子は俺と合流すると、したり顔で告げた。
「おはようございます。グレース。あなたやオリビア、そして、クロエに陰口を叩いた令嬢たちは昨晩帰るのと同時に、“厳重な警告”を施して置いておきましたから」
令嬢たちからしたら、王子の使者が訪れて、警告を家の人から受け取る光景は地獄でしかないだろう。
俺が生前好きだったループ系漫画の悪役で例えたら、夜眠っている最中にいきなり、ほっぺたを叩かれ、包丁を持った昔の友人にそれを突きつけられるある悪女と同じ思いであったのだろう。
あの令嬢方は顔を涙で歪めて怯えた表情で「来ないでぇぇぇぇ~」とでも言いたい気持ちであったに違いない。
そう考えると、この腹黒王子の毒牙にかかった令嬢たちが少しばかり可哀想に思えてくる。
まぁ、今後は言葉に気を付けてもらえれば大丈夫だろう。
あの腹黒王子も反省し、何もしない令嬢方にそこまではやるまい。
俺が安堵の溜息を吐くと、そのまま教場へと入っていく。
教室で退屈な授業を聞き、大好きな歴史の授業を終えると、そのまま昼食に向かおうとした時だ。
俺の目の前に金髪の令嬢が現れて、俺を睨む。
「よくも、よくも、殿下に余計な事を吹き込まれましたわね。卑しい男爵家の娘のくせに……」
不味い。このままでは、俺がこの人に刺されかねない。というか、実際に刺しそうだ。
それ程までにギラギラとした視線を俺に見せていた。
「や、やめてくださいませんか?わ、私は別にチクったわけではーー」
「あなたが告げ口したに違いありませんわ!許せない、許せない、お前も……殺してやる」
完全に、某有名タイムリープニートが悪女に告げた台詞だ。思わず背筋が凍ってしまう。
だが、不幸中の幸い。ここは夜でもなければ、密室のマンションでもない。
だから、俺が「なんのよ!なんのよ!もう!」とか叫ぶ必要もない。
なら、この場合、俺が逃げなければ、犯人不明のまま、食堂に死体が転がる事になって処理されてしまうのだろうか。
いや、それもない。衆人環視の環境だ。仮に、あいつが刺したとしても、迷宮入りになる事はない。
従って、蝶ネクタイを掛けた小学生とか、旅行に行くたびに人が死んだり、親友が犯人になったりする名探偵の孫の出番などは必要ないだろう。
と、すると、俺が出来る事はこの場から逃げ出す事だけだろう。
俺はすぐさま、椅子を立つと、その場から全力で逃げ出す。
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