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その場しのぎの泣き落としをしてしまった……

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思えば、『カーナボン』というファミリーネームはあれだ。恐らく、19世紀に、ツタンカーメン王の墓を見つけたカーナボン卿から名前を取ったんだろう。
しかし、なんでそんな方から苗字を取ったんだ。分からん。
俺は午後の授業中に腕を組みながら、うんうんと唸っていた。
頭の中で20世紀初頭の『ミイラ再生』とそのリメイクである99年の作品の事を考えていると、突然、目の前の机が叩かれて、俺は思わず体を震わせてしまう。
「ミス・ベンフォール!あなたは何をしているのですか!?授業中に何を考えていたんです!?」
と、鋭い目で俺を威嚇するのは午後の退屈な授業を担う若い女性教師。
「い、いやですわ。私はちゃーんと授業を聞いていましたわ。ヲーッホッホッ」
駄目だ。俺がやると、どうしてもあの金髪幼女になってしまう。
やはり、お姫様ではない人間にお姫様を演じるのは難しい。もっと、そこら辺の修行をした方がいいな。
だが、ここでそんな事を考えてしまったのは逆手であったらしい。
教師から更なる激しい追及を受けてしまう。
「ミス・ベンフォール!!あなたはさっきからずっーとぼんやりとしていますね!前学期から見ていましたが、あなたにはやる気というものが感じられません!」
「い、いえ、これには理由があるのです。実はですねーー」
俺はこの場を逃れるために、朝の出来事を教師に話していく。あの大きな騒動は教師にも伝わっていたのだろう。
彼女は神妙な顔をした後に、一人、頷いて、
「分かりました。やはり、あなたは朝の事を気にしているのですね」
「ええ、あの時も今もオリビア様が正しいのは分かっておりますわ。けれど、けれど、ですよ!サミュエル様は私を庇ってくださったのに、庇ってくださったのに……私はそれを助けるどころか、糾弾するなんて……本当に情けないんですわ!先生ッ!あなたにはわからんでしょうね!?」
昔、ショートーショートの神様が作った話の中で、ひたすら上手い言い訳を考えて、相手を丸め込む男の話があったが、今の俺の状況はまさにそれだ。自分が怒られるのを避けるために、全く関係のない出来事を利用し、泣き落としを試す。
しかも、授業中。ばっちりとその当事者も聞いておられる。
某有名ヤクザ映画の山の親分だってもっと上手く泣き落とすだろう。
確かに、この場は逃れられた。“この場”は。
だが、俺がこの問題を蒸し返した事で、絶対にまた余計なトラブルが起きるだろう。
俺が後ろを見つめると、そこには神妙な顔で俺を睨むサミュエル王子とオリビア嬢の姿があった。
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