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宿題の山に埋もれ、宿題の山に心壊れ、傷付いた時には、オレの心にはすきま風が吹くかもしれない

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「あー、俺は大変だよ。親父の不正も辞めさせなくちゃあいけないわ、断罪の時に祝福の歌を歌わなければいかんわ、おまけにあと少しで魔法学園が再開するわで、もー、てんてこまいよ」
「みー、グレースはかわいそ、かわいそなのです。だから、こうして、魔法学園に行ってないボクが宿題を手伝ってあげてるじゃないですか。にぱー」
現在、俺とロージーは大量の宿題の山に身を埋めながら、その辛い気分を誤魔化すために某有名ゲームの掛け合いをしているのだ。
俺はロージーにばかり手伝わせるわけにはいかないから、なんとか自分でも解けそうな問題を片付けているのだ。
だが、難しい。手が止まる。そうでなければ、男爵令嬢であるのに、唇の上に筆を載せたりしないだろう。
いけないと思い、真っ白な宿題に取り掛かろうとするのだが、このミミズのくった様な大量の文字を見た瞬間に頭が拒絶反応を起こし、「眠れ」と囁く。
そして、その誘惑に負け、暫くの間は夢の世界へと旅立つのですが、寝た所にロージー嬢が放つペンが直撃されるので、いやでも現実の世界に引き戻されてしまう。
ロージー嬢は某有名リープ作品に登場するロリ巫女の口調のまま眉間に眉を寄せた笑顔で俺に忠告の言葉を告げるから、怖くてたまらない。
だから、俺は慌てて宿題に取り掛かるのだ。
面倒臭くてたまらないが、あの顔と口調で凄まれるよりはマシだと自分を言い聞かせ、課題に取り掛かるのだが、また眠気に襲われて、筆を投げられてが繰り返される。
それの繰り返しで、なんとか宿題を終える事ができた。
まさに血反吐を吐く思いで、仕上げた作品である。正直に言うと、提出するのが勿体ない。
感涙の涙を両目からこぼす俺の肩をロージーは優しく叩いて、
「お疲れ様」と優しく声をかけた。
その後は何処かの海賊漫画の様に「宴だー」で終わりを告げた。
もっとも、机の上に出たのは海賊漫画の主人公が好きな骨付き肉などではなく、紅茶と茶請けの菓子といういつも通りのメニューであったが……。
だが、二人とも、その後はずっとアメリカの歴代の大統領について楽しく語り合えたのだから、よしとしよう。
アメリカ史が終わり、イギリス史の話に入り、いよいよ盛り上がろうという時に、ロージーは父に帰宅を促されて帰ってしまう。
去るロージーの姿に一抹の寂しさを覚えたものの、なんとかして自分を奮い立たせ、魔法学園一年の後期を終えようという決意を固めさせた。
だが、不安な所もあるので、木枯らしの吹く朝に寂しい思いをしたら、自分の背中を見せて、連れて行ってくれる様な人が現れて欲しいとも願った。
悪役令嬢転生ものの作品にそんな任侠的、時代劇的な人物が現れるわけもないと考えて、その日は眠りについた。
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