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ステータス確認。そして、絶望

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グレース・ベンフォール。それは、悪役令嬢もののアンソロジー漫画に登場する性悪ヒロインの一人。
よくある乙女ゲームの主人公であり、本来ならば、オリビアにいびられて、そこをこの国の王子であるサミュエル・ラングドーアに見出され、オリビアを卒業記念パーティーで断罪するというものだ。
と、ここまでが俺が死ぬ直前に買った漫画の一エピソードのあらすじ。
そこに性悪馬鹿女がヒロインに取り憑き、下手な言い訳をして、不正をしていた親父もろとも牢獄にぶち込まれるというのが一連の流れだ。
正直に言おう、俺は牢獄などに入りたくはない!
俺は両腕を組みながら、両目を開いて、心の中で叫ぶ。
まるで、誰にともなく話している漫画の主人公の様に部屋で一人で。
俺は天蓋付きの部屋の中央に敷かれた赤色のコンファーターの上に寝転び、両腕を頭の後ろに回し、天井を眺めながら、今後の事を考えていく。
だが、やがて、ショッ○ーに囚われた仮面ライ○ーよろしく、両腕をベッドの上に伸ばして両目を閉じる。
俺の意識は深い深い微睡の中へと落ちていく。
かくして、俺はしばらくの間、惰眠を貪り喰っていたのだが、大きく体を揺すられて不機嫌な声を上げながら目を覚ます。
俺が目を擦りながら、両目を開けると、そこには心配そうな顔で俺を見下ろす絶世の美男子。いや、王子の姿が見えた。
王子は心配そうな声を出して、
「どうしたのですか、グレース。ボクはキミの事を酷く心配していたのですよ。大丈夫だと言っていましたが、寝込んでいたとあなたのメイドに聞き、こうして、駆け付けたのですよ」
心配したというのは本当らしい。俺の部屋の机の上に見舞いの品が置かれていた。
別にそんな物もらわんでも困る事はないが、別段、断る理由もないので大人しく貰っておく。
そして、暫く、王子と談笑した後に俺はもう一度、ベッドの上に寝転ぶ。
喉が渇いたのと、考え事のためにメイドを外にやると、俺はベッドの上で体を起こし、体育座りをして膝の中に顔を埋める。
あの、王子、絶対、親父の不正を調査にしに来ただろう。間違いない。そうでなかったら、こんなに長時間、居座ったりはしないだろうからな。
不味いぞ、親父の不正の証拠が見つかれば、俺は親父共々投獄。一生を刑務所に過ごす事になる。
それだけは避けなければならんのに。俺が頭を抱えて悶々としていると、部屋の扉を叩く音が聞こえ、お盆の上に水を載せたメイドが現れて、俺に水を手渡す。
俺が礼を言って、水を飲むと、彼女は淡々とした声で告げる。
「そうそう、明日、ご友人のロージー・アントレニセス様がお見えになりますので、ご準備をなさってくださいね」
「はーい」
俺は気返事をし、そのまま寝転ぼうとしたが、彼女はそれを許さない。ベッドの上に座ったままの俺を器用にドレスからネクジェに換え、頭を下げると、部屋を出た。
取り敢えず、友人はいいのだが、現状を変えない事にはどうしようもない。
この世界に新宿の種馬がいるのなら、『XYZ』と掲示板に書いて、依頼したいものだ。
俺はこの世にはいない、凄腕のスイパーに思いを馳せ、その日は床に着いた。
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