白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
76 / 120
三神官編

陰謀渦巻く王宮で

しおりを挟む
その日、結局二人は帰ってこなかった。その場に居合わせた誰もが重い気分を抱えていた。私もスープを口にしようとしたが、スプーンが妙に重い。
口元に持っていこうというのにスープ皿の底に沈んだままである。パンを食べようとしても手がパンの上に張り付いて動こうとしない。なんとか食べようとしたが、手が動かないのだ。

ここでようやく理解した。国王の存在は私にとっても大きいものであったのだ。
その事を理解した瞬間に私の両目から涙を流していく。透明の液体がこぼれ落ちていく。
そんな私を気遣ってか、マリアが私の背中を優しく摩っていく。
マリアの優しさが胸に沁みた。そのまま済ませる事を済ませてから私は部屋のベッドで眠ることになった。

だが、なかなか寝付けない。当たり前だろう。今日、起きた出来事はそれだけ大きかったのだ。その余韻を引きずっているうちは眠ることができない。
私がベッドの上でゴロゴロと動いていると、頭の中にあることが思い浮かぶ。

それはどうして、昨晩に国王暗殺の場面を夢で見なかったというのことである。
今までの私ならばこうした大事な局面であるのならば夢を見ていたに違いない。
私たちに無関係であるのならばともかく、国王は私たちにとっても大きな存在であるはずだ。

その暗殺者の夢を見かかったということは何か意味があるのだろうか。
例えばこの国王の暗殺が人と天使との戦争に大きな転換点となり、その重要性のために国王の暗殺の場面が見られないということなのだろうか。

だが、考えていても結論は出なかった。私が色々と考えていると意識を失ってしまったらしく、またしても私は幽体となって知らない場所に立っていた。
いや、知らない場所とは記したものの、目の前に他ならぬ国王の死体が安置されていることからそこが死体安置所であることがわかった。
周りには王女や有力貴族の他にノーブとブレードの姿が見えた。

「昨夜、何があった?私の兄に何があったのかを聞きたい」

「陛下は賊に狙われました。賊は捕らえております。成人男性です」

「我が国の国王を狙った動機というのは?」

「……動機は国策への反発です。軍の者が海軍や討伐隊ばかりに力を入れ、陸軍を蔑ろにする陛下を疎ましく感じ、一部の若い将校たちが陛下を殺害したのです」

話を聞くに国王が暗殺という憂き目にあった理由は軍隊の派閥争いが由来であるらしい。
デストリアという巨大財閥の陰謀でもなければ、天使たちによるテロでもない。純粋な政治闘争による死だったのだ。

悲痛の表情で死亡した国王を見つめるノーブ。しばらくの間は信じられないと言わんばかりに立ち尽くしていたのだが、両目から溢れんばかりの涙を零していく。
普段のノーブからは信じられない程の涙が両目から溢れていく。その背中を優しく摩るブレード。
二人にとっても国王の存在は大きいものであったのだろう。

しばらくの間、ノーブは大きな涙を零しながら国王の遺体の前に泣き縋っていた。
一通り泣き終えたところで不愉快な表情で二人を見下ろす王女が声を掛けた。

「もう茶番はいいでしょ?真犯人はあなたたちでしょ?」

「はっ?」

「惚けないでよ。あんたたちが適当な殺し屋か何かに金を与えて、パパを殺したんでしょ?そうすれば自分たちが王族に戻れるとでも思ったんでしょ?」

その言葉を聞いてノーブは拳を震わせていた。私ならば殴り付けているような光景であった。それでもノーブは王女を殴るのを我慢していた。
もし、仮に王女を殴ったとしたら大問題になるからというのが本音だからであろうが、我慢ができたのだろう。

ブレードも父親と同様の反応を見せていた。唇を噛み締め、憎悪に満ち溢れたような瞳で王女を睨みつつも何も言わずに耐えていた。
王女はそれをいいことに得意げな顔で二人に対する罵倒を強めていく。

「何を黙ってんのよ!人殺し!惚けていてもその汚らしい出自は誤魔化せないわ!なんとか言ってごらんなさいよ!」

二人は王女を黙って睨んでいたが、最後の最後で理性が勝利を収めたのだろう。
王女を殴る代わりに周りに残された人々に告げた。

「悪いが、わしらは先に失礼させてもらうよ。部屋にいるからまた何かあったら呼んでくれ」

「いこう。父さん」

連れ添ってその場を立ち去ろうとする二人の背後から王女は罵倒を続けた。

「もう呼ぶことなんてないからッ!自惚れないことねッ!平民ッ!あんたらはとっととボロ屋に帰って身の丈にあった暮らしでもしていなさいよ!」

静かに去っていく二人の姿は本当に立派であった。何も言わずに堪えて王女の罵声をやり過ごす姿は本当に大人であった。
用意された部屋の中に入ると、二人は疲れたように椅子とベッドの上に腰を掛ける。
しばらくの間、親子で沈黙が続いたが、ブレードが声を出したことでようやく重い沈黙が取り払われた。

「ねぇ、父さん……次の国王なんだけれど、本当にあの人が女王になってもいいのかな?」

「……王家は直系を重視しているからな。当然だろう」

「……ぼくは納得がいかないねッ!今までぼくらを散々、苦しめてきた末に父さんやぼくにあの態度……堪忍袋の尾も切れたよッ!」

「ブレードッ!やめないかッ!」

ノーブが立ち上がってブレードの頬を叩く。叩かれてもブレードは納得がいかないという目でノーブを見つめていた。
しばらく親子の間で無言の睨み合いを続けていたが、やがてノーブが口を閉ざし、ブレードに続きを喋ることを許した。

「……ねぇ、父さん。ぼくが国王になっちゃダメかな?」

「……何を馬鹿なことを……」

「だってそうじゃあないか!父さんは確かに王族としての地位を返上したけれど、剥奪されたわけじゃあない、当然、復帰は許されるはずだよ!!その父さんを支えながら将来はぼくが国王になるというのも可能なはずだよッ!」

「馬鹿なことを言うな。私は臣下としてこの国を治めていこうと決めて……」

「あれが!?あんな奴に国を治める資格があるとでも!?ぼくは納得がいかない……ともかく、ぼくは他の人たちに訴え掛けてーー」

ブレードがそのまま熱弁を振い続けようとした時だった。扉を叩く音が聞こえたので、ブレードが扉を開けに向かう。
すると、そこには有力貴族の一人が姿を現した。

「こんばんは。私の名前はマルコ・スタークスと申します。以後、お見知り置きを」

「スタークス?あのスタークス公爵家の御当主様がどうして?」

「えぇ、陛下の御前であのバカ王女に辱められるお二方を不憫に思いましてね。実は我々、貴族の間でもあのバカ王女を嫌っている人間は多く……あなた方に王位を継いでもらいたいという意見が多いのですよ」

「それは光栄なご意見です。閣下……しかし、私は王族としての身分は剥奪されており、ブレードはこれまでの生涯を平民たちの中で過ごしてきております。今更復帰などーー」

「そうでしょうか?ご子息は復帰に前向きなようでしたが」

先程の会話が聞こえていたのだ。二人の顔が硬直していく。
顔を青ざめる二人にマルコは下衆びた笑顔を浮かべながら言った。

「まぁ、私も入って話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

二人は青ざめた顔を浮かべながらマルコを招き入れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

【完結】真実の愛はおいしいですか?

ゆうぎり
恋愛
とある国では初代王が妖精の女王と作り上げたのが国の成り立ちだと言い伝えられてきました。 稀に幼い貴族の娘は妖精を見ることができるといいます。 王族の婚約者には妖精たちが見えている者がなる決まりがありました。 お姉様は幼い頃妖精たちが見えていたので王子様の婚約者でした。 でも、今は大きくなったので見えません。 ―――そんな国の妖精たちと貴族の女の子と家族の物語 ※童話として書いています。 ※「婚約破棄」の内容が入るとカテゴリーエラーになってしまう為童話→恋愛に変更しています。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】私のことが大好きな婚約者さま

咲雪
恋愛
 私は、リアーナ・ムスカ侯爵令嬢。第二王子アレンディオ・ルーデンス殿下の婚約者です。アレンディオ殿下の5歳上の第一王子が病に倒れて3年経ちました。アレンディオ殿下を王太子にと推す声が大きくなってきました。王子妃として嫁ぐつもりで婚約したのに、王太子妃なんて聞いてません。悩ましく、鬱鬱した日々。私は一体どうなるの? ・sideリアーナは、王太子妃なんて聞いてない!と悩むところから始まります。 ・sideアレンディオは、とにかくアレンディオが頑張る話です。 ※番外編含め全28話完結、予約投稿済みです。 ※ご都合展開ありです。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

処理中です...