白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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三神官編

彼女の下すその答えは不幸だった

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翌日、テザリアたちは帰っていった。未だにあの料理は舌の上に残っている。
カルパッチョにしろ、小エビの入ったパンにしろ、また食べたい料理ばかりである。
そんなことを考えていたから罰が当たったのだろう。私の頭に木剣が直撃する。頭がヒリヒリと痛む。
痛さに耐え切れずに転倒する私をポイゾが嫌味な顔を浮かべて見下ろしていた。

「キミ、またあの料理のことを考えていただろ?」

「う、うるさいなぁ……昨日はポイゾだって美味そうに食べてたんじゃん」

「キミと違って引き摺ってはいないだろ?」

ポイゾは嫌味っぽい口調で腰に手を当てながら問い掛けた。

「ぼくらとしては過ぎてしまった料理のことを考えるよりも目の前の訓練にしたいんだけどなぁ」

彼は木剣を掌にペチペチと当てながら私の元へと向かっていく。

「さて、続きだ。キミはオレの剣を交わしきれるかな?」

「来なよ。受け止めてあんたを負かしてやる」

ポイゾと格闘訓練を行っているのにも関わらず、私はあの日、自分の部屋の中で婦人から言われていた言葉を思い返していた。あの言葉が本当ならば天使たちは今まで手加減をしていたということなのだ。
彼らが本気を出せば簡単に蹂躙されてしまう存在。それが私たちなのだ。

天使。全能たる神の使い。人々に破滅をもたらす恐怖の使徒。驕れる人間に鉄槌を下す審判者たち。
そんな存在と今まで対等に戦えていたのは向こうがこれまで手加減をしていたからなのだろう。

もし、これ以上戦えば神々が本気を出し、今までとは比較にならないような天使たちが送り込まれてくるのだろうか。
そうなればこの世界は終わりだ。いくら私の力があったとしても天使たちによって世界が作り変えられてしまうだろう。

不安になってしまったのだろうか。今までは考えもしなかったことが私の心の中に押し寄せて、センチメンタルな気分になっていた時だ。私の体が宙に向かって大きく浮いていたのだ。どうやらポイゾに足を転ばされて一瞬の間、浮いてしまったらしい。

「どうしたんだ?今日は随分と弱いじゃあないか。そんな力で天使どもを片付けられるとでも思っているのか?」

「ごめん。少し考えごとをしてて」

「考えごと?呑気な奴だ。鍛錬の最中だというのに」

ポイゾは呆れたように言った。今回ばかりはポイゾには非がないので私も詫びを入れるしかなかった。

「まぁ、キミが上の空だというのだから何か理由があるんだろう。一体、今回はどんな夢を見たのかなぁ?」

ニヤニヤとした笑みを浮かべるポイゾ。やはり、前言は撤回だ。嫌な奴だ。
私が何も言わずに睨んでいるとポイゾが私の腕を無理やりに引っ張り上げたのであった。

「今日のキミは上の空だし、今回、ぼくが徹底的に叩き直してやるよ」

「……わかった。私も変な考えを抱くのはやめる。今日はあんたに一泡吹かせてやることに尽力するんだ」

私が木剣を構えた時だ。血相を変えたブレードが私たちの元に現れた。

「大変だッ!街に天使たちが現れたッ!」

その言葉を聞いて、私たちはそれまでの訓練を中断し、慌てて鎧を身に付け、腰に剣を下げ、馬に飛び乗ってエンジェリオンが現れたという場所に向かう。

エンジェリオンが現れた街は私たちが普段、通っている街とは違う山沿いにある田舎と都会が入り混じったような街であった。前の世界の言葉で例えるのならば『地方都市』とでもいうような場所であった。

しかし、不幸なことに私が到達した時には既に『地方都市』は半壊し尽くされ、住民が逃げ惑っている最中であった。
防衛に応じた自警団は壊滅の寸前であった。

私たちが剣を抜いて街を駆け抜いていくと、あの声が頭上から聞こえてきた。全員が顔を引き攣らせながら頭上を見上げるとそこには余裕のある笑みを浮かべたあの婦人の姿が見えた。

「久し振り……愚かな人間たち」

「やはり、こいつだったのかッ!」

ポイゾは乗っていた馬を竿立ちさせて、剣を振り回しながら婦人の命を狙っていたが、婦人は冷静な調子で両手から念動力派を放ち、馬ごとポイゾを地面の上に横転させた。

その後で再び地面の上に降り立ち、ポイゾの近くに立っていたオットシャックの腹を思いっきり蹴り付けたのであった。
オットシャックは馬の上から転倒し、地面の上を転がっていく。
地面から起き上がり、頭を抑えながら彼は叫ぶ。

「テメェ!!何をしやがる!」

「何って蹴りを喰らわせたんだけど」

「つーか、そんな話聞いてねーしッ!どうしてオレにこんな事をしたのかって聞いてんだよッ!」

「どうしてかだなんてわかるでしょ?キミが私たちの敵だから。簡単な話だよ」

オットシャックは乾いた笑いを出してその言葉を受け取っていた。シリアスな笑いというのは今のような状況のことを指していうのだろうか。
私が苦笑していた時だ。婦人が私の目の前に現れて私の体を掴み馬の上から引き摺り下ろす。
そして、そのまま地面の上に押し倒したのであった。

「あっ、あぁ……く、クソ」

「回復して何よりだけれど、私の言葉は覚えているよね?」

「言葉って?」

「その力を我々の元に返しなさいって言葉」

「……生憎だけれど覚えてないね」

私がそのまま惚けていた時だ。鎧の上から凄まじい衝撃が襲っていく。
思わぬ一撃に思わず弱い声が漏れる。しかし、婦人は容赦することはなかった。
私が痛がるのを幸いとばかりに鎧を踏む力をより一層強めていく。

「ガハッ、く、クソ……」

「まだ力を返す気にはなれないの?ルシフェル?」

そんな回答に言葉を返す気にはなれない。私は婦人に鎧を踏まれながら考えていた。その考えはポイゾとの訓練中に考えていたネガティブな思考とは対照的な考えであった。
それは自分に害をなし、人々を好き勝手に蹂躙する天使たちに対して芽生えた怒りとも呼べる感情であった。

天使は驕っている。自分たちの力こそが絶対的なものであり、人間はその下に屈服する愚かな存在である、と。
その愚かな存在には何をしてもいいとさえ考えているに違いない。そんな存在を恐怖していてはこちらが損するばかりである。

どうしても勝てない?向こうは絶対的な存在?それがどうしたというのだ。
攻めてきたのは向こうの方なのだ。この戦争で負けるということはすなわち敵の存在に膝を屈することになる。それだけはしてはいけないのだ。

例え敵が愚かなる存在に鉄槌を与えるという大義名分があろうとも、いかなる大軍勢を持ち合わせていようとも、未知なる武器を持っていようとも、悍ましい怪物を引き連れていようとも侵略者どもに負けるわけにはいかないのだ。

我が物顔で私を見下ろす天使を睨みながら私は決意を改めたのであった。
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