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三神官編

ブレード王子爆誕!?

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結果的に私は解放されることになった。ブレードの白き翼の勇者の伝承を交えての答弁が機能したのだ。
私はブレードと共に馬に乗り、孤児院のある場所にまで戻っていく。
馬に揺られている時のブレードの背中が妙に大きく感じた。

そういえば最初にこの世界に訪れた時に最初に頼り甲斐を感じたのはブレードだった。
そういえば私はブレードに餌にされたのだ。ならば少し意地悪をしても罰は当たらないだろう。
私はいつもよりも強くブレードの背中を強く握り締めていく。

「おっ、いっ、痛いよ……」

「私を餌にしたんだし、これくらいは受け入れてよ」

「ハハッ、ハルは厳しいな」

ブレードは苦笑しながら答えた。その顔が輝いて見えた。「みんなのお兄さん」に相応しい明るくて朗らかな笑顔だ。

私を餌にした罰だというのならばもう少し意地悪をしてもいいのではないだろうか。
そんな思いが頭をよぎったが、これ以上の悪戯は馬を移動させる際に影響が出るだろう。
私は断念せざるを得なかった。代わりにブレードには思いっきり甘えた。

今夜だけでも、いいや孤児院に着くまでの間だけでいい。今だけは「私だけのお兄さん」でいてほしい。
ブレードに背中を掴んでいると私はまたしても眠っていたらしい。

夢の中でまたしても幽体になっていた私は贅を尽くした寝室の中で言い争いを行う国王と王女の姿を見つめていた。

「どうして……どうしてよッ!どうしてそんなことを言うの!?」

「決まっているでしょう?お前一人だけで即位するよりもお二人を王族に戻し、お前の判断をさせた方がいいと判断したからです」

王冠を脱いでローブだけの姿になった国王は焦る様子で父親を説得しようとする娘を冷静に見つめていた。

「ホルスタイン家なんて昔パパと兄弟だったってだけの話じゃあない!私一人で女王をするというのがそんなに不安なの!?」

「……確かに直系重視が我が王国の方針です。それを変えるつもりも今のところはありません。ですが、今回の戦いで私は判断した。ホルスタイン親子……とりわけブレードがいた方がいいと思いまして」

「ブレード!?産まれた時は平民なのよ!そんな奴が王家の門をくぐるというの!?」

王女は声を荒げたが、国王はそれに対してあくまでも諭すような冷静な口調で言葉を返す。

「知らない仲ではないでしょう?」

「そうだけど、あいつは孤児院の討伐隊の隊長に過ぎないのよ!そんな奴がいきなり王族になれなんて……あり得ないわ!」

「落ち着きなさい。私は何も次の国王をノーブにするとか、ブレードを王太子に迎えるだなんて一言も言っていませんよ。あくまでもお前の補佐としてーー」

「補佐なんていらないッ!第一、平民たちが納得しないわ!彼らからしたらノーブやブレードは可憐なお姫様から王位を奪い取ろうとする悪役よ!」

「王家のことに国民が口出しする権利はありませんよ。それにあなたのいう噂なんてすぐに立ち消えますよ」

国王の言葉は冷静なままだった。あくまでも静かな声で娘の反論を一つ一つ潰していったのだ。
国王の言葉を聞いた私は言葉を失っていた。その娘に向かって国王が死刑宣告にも等しい一言を語ったのはその後であった。

「……言いたくはありませんでしたが、これ以上、あなたが王族にとって相応しくない態度や行動を繰り返すのであれば、あなたから王位継承権を剥奪しなくてはならないかもしれません」

「な、何よ、それ!!なんで私が王位を継げずに一般人が王位を継げるのよ!そんなのおかしいわ!」

王女はそのまま我を忘れて部屋を後にした。国王は王女が出ていった扉をしばらくの間見つめていたが、やがて大きな溜息を吐いてから部屋の中に置いてあった小さな瓶の中に入った酒に口を付けた。
そこで私は目を覚ましたのだ。眠い目を擦ると、馬は既に孤児院の前に着いていた。それでもまだぼんやりとしている私の頭を優しくポンっと優しく触りながら言った。

「フフッ、もう着いたよ」

「あっ、そうなの?」

「うん。ずっと眠ってたからね。大丈夫?降りれるかな?」

「大丈夫」

私はなんとか自分の力で馬を降りようとしたが、降りる際に上手く降りれずに体がズレてしまう。
馬から落ちそうになる私の体をブレードが優しく受け止めた。

「大丈夫かな?お姫様」

冗談めかして笑うブレード。彼からこんな冗談を聞いたのは久し振りであったので思わず苦笑してしまう。
地面の上に優しく降ろされた後に私は自室へと戻ることになった。
ブレードとは私の部屋の前で別れた。私は寝巻きに着替えてベッドの上で先程、見た夢のことについて思い返す。

もし、ブレードが王族になればもう二度と彼とあんな風なやり取りをすることは不可能だろう。それに第一、ブレードには会えなくなるだろう。一介の討伐隊の隊員と王子とでは身分が違う。
身分違いの恋が人を幸せにしないということは私も知っていた。

そんなことを考えながら眠りについたが、向こう側で新たな動きがなかったのか、ベッドの上では夢を見ることがなかった。

翌日からは二週間の怠けを解消するために鍛錬に夢中になった。
木剣を懸命に振るい、格闘技術に熱を入れ、座学に耳を傾ける。
座学ではマリアが休んでいた分のノートを見せてくれたのがありがたかった。

鍛錬や勉学の合間の食事休憩では二週間ぶりに出会った仲間たちと久しぶりの交流を深めていく。

「えっ、マジかよ?お前もとうとうあの『炎獄の魔神』読んだのか?」

オットシャックが興味津々な表情を浮かべて私の会話に入ってきた。

「うん。面白かったよ。まさか、主人公の正体がーー」

「うわっ!やめろよ!つーか、おれネタバレってのが嫌いなんだ。そういうのはちゃんと確認してから言えよな」

「アハハ、ごめん。ごめん。今度から気をつけるね」

「本当かよ?」

訝しげな目を向けるオットシャック。今度からはちゃんと配慮して話そう、そう考えていた時だ。不意にマリアが顔を近付けて私に尋ねた。

「そういえばさ、今日は遅れを取り戻すんだって、すごく張り切ってたけど、昨日は謁見の間で激しい戦いを繰り広げていたよね?だったら、あんなに張り切る必要はないんじゃあないの?」

「でも、あれは私の魔法も込みだから……素の力は落ちていたと思うんだ」

私のその言葉を聞いてマリアは納得した表情を浮かべていた。

「確かにね、いつまた昨日の怪物みたいな得体の知れない奴が現れるかもわからないし」

「そうだよ!」

私が勢いよく答えると、勢いよく答える様が面白かったのか、マリアもそれに釣られて笑う。
私とマリアの笑い声が食堂の中に響き渡っていった。
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