白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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三神官編

夢の続き

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オットシャックが私たちを縛っていた鎖を解いたのは彼の何気ない一言であった。

「つーか、仮にそれが本当だったとしてもなんで全滅した奴の罪が加算されて、オレたちまで責任を負わなくちゃならねーんだ?オレたちのご先祖様が異形の怪物たちを全滅させたのと天使どもとの戦争は全く別の問題じゃねーか」

その言葉でクリスは泣き止み、私も心の中に引っ掛かっていたモヤモヤとした感覚が取れたのだから、何があるのかわかったものではない。
私はそれからベッドに入った。そのまま疲れを取るために寝ようと思った矢先に私はまたしても夢を見ることになった。

夢はあの時の続きだった。幼い頃、学習塾に行く前に乗ったバスの中ではぐれ、たった一人で泣いていた時だ。
正体不明の不気味なマスクや謎の青年が現れた。そして泣きじゃくる私に向かって青年は告げたのである。

前回の夢はそこから終わり、今回の夢はその続きから始まった。何か深い意味があるのだろう。私は青年が語った言葉に対して必死になって耳を傾けた。
私が必死になって耳を澄ませていると、青年はハッキリと言い放ったのである。

「お詫びにぼくの力を貸してあげるよ」

「力?」

「うん。お嬢ちゃんにぼくの力が必要になったら言ってよ。その時はぼくが嫌なやつを殺してやるからさ」

「でも、そんな力要らない…‥だって、人を傷付けるのが嫌だもん」

「そっか……でもね、ぼくは個人的にお嬢ちゃんが気に入ったんだ。あっ、勘違いしないで変な意味じゃないから……人間として気に入ったという意味でね。だから、このままお詫びができないのはぼくとしても辛いのさ」

青年はそれから優しい笑みを浮かべながら言った。
それから私の頭を撫でながら言った。

「そうだ。キミにぼく自身を与えよう。ちょうど、前の主がぼくに反逆を起こしちゃってね。神の奴と手を結んだもんだからぼくは用済みだと追い出されちゃったんだ。ひどい話だろ?だから、少しだけキミの体で休みたいんだ」

「……お、お兄さん人間じゃあないの?」

「うん。違うよ。そういえば自己紹介がまだだったね。ぼくの名前はルシフェル。神々が創りし大天使にして最悪の堕天使さ」

ルシフェルはそれから腰をしゃがんで子供の目線に合わせたかと思うと、そのまま私の額に自身の額を軽く押しあてる。
すると私の青年の体をしていたルシフェルの体が消滅し、私の体の中に溶け込む。
違和感はまるでなかった。ルシフェルとやらが体の中に溶け込んだというのに私の体は一つの拒否反応も起こさなかったのだ。

しかし、その後になって私は半ば夢遊病のように無人のバスの中を彷徨い歩いて、落ちていた不気味なマスクを抱えて眠っていた。
私が目を覚ましたのは塾の前だった。塾の前で私はテキストを持って立ちすくんでいたのだ。
私は塾の階段を上がり、その日の授業を受けた。帰る頃には昼間に体験した不思議な出来事などすっかりと忘れていた。

また、場面が変わる。映画のように。
次の場面は部屋だった。あの日、自由の道を求めて父に抗議の言葉を掛けた日に現れた例の不気味なマスクであった。マスクを拾い上げた私は思わず腰を抜かす。
私はこの時までバスの中での出会いを完全に忘れていたのだ。腰を抜かして泣く寸前の私の前に再び例の青年が姿を現して言った。

「酷いなぁ。あんな父親なんてぼくが殺してやるのに」

「あっ、ルシフェルさん……」

「『あっ』じゃあないよ。忘れるなんて酷いなぁ。そんな事よりも泣いていた理由を教えてくれないかな?」

ルシフェルの言葉を聞いて私は先程までの恐怖も忘れて父と何があったのかを説明していく。
全てを聞き終えたルシフェルは何かを悟ったような目を浮かべたかと思うと、腰を上げて言った。

「……なるほど、やっぱりあいつは殺した方がいいか」

「まっ、待ってよ!!」

私がルシフェルを呼び止めたところで私は目を覚ます。この続きは一体いつになれば見れるのだろう。そんなことを考えながら身支度を整えて朝食の席へと向かう。

朝食の席では昨日の戦勝ムードがまだ残っており、各々がどんな怪物が倒したのかを語っている。
その中でも一番の雄弁な語り手はあまり活躍していないオットシャックであった。
オットシャックは配られたジョッキで中に入った水を飲みながら自分がいかにして敵を倒していたのかを得意げに語っていく。

私は彼の語る自慢話に適当な相槌を打ちながらもそこまで活躍したのかという疑念を胸に抱きながらその姿を眺めていた。
その時だ。今度は私の頭に痛みが響いていく。
その瞬間に夢の中で見た青年であるルシフェルの姿が思い浮かぶ。

「痛ッ……そういえばあの後、どうなったのかな?お父さんが死んでいないのは確かな筈だけど……どうして止めたんだっけ?」

「お父さんって?」

お盆を両手で抱えたマリアが私に問い掛ける。 
「あぁ、ううん。前の世界のお父さんのことだよ。いや、心配になっちゃってね」

「そっか、仕方ないね。お父さんは大事な存在だもんね」

マリアの顔が曇る。マリアはかつての父親のことを思い返しているのだろうか。
もし、そうだとすれば悪いことをしてしまったかもしれない。
私が自責の念に駆られていた時だ。オットシャックが姿を現して、マリアの前にニコニコとした朗らかな笑みを浮かべながら現れた。

「よぉ、マリア!オレたちのアイドルがしけた顔をするなよ!」 
「別にしけた顔なんてしてないし、そんな事よりもあんたもう自慢話は終わったの?」

「お前にはまだ語ってないだろ?それを語ってオレがすごい奴だと思ってくれや。それがわかったらデートしようぜ」

「結構ですッ!」

マリアは勢いよく机を叩いて、オットシャックを自分たちの前から追いやった。

「あー、ったくなんなのあいつ?」

「ハハッ、面倒臭いよね」

私は適当に相槌を打つ。平穏な日だ。今日は訓練だけで終わってくれればいいのだが……。
そんなことを考えていた時だ。ブレードが慌てた様子で食堂に姿を見せた。

「悪いけど、みんな今から武装して森まで行ってくれないかい!?」

「森?どうしてそんなところに?」

「エンジェリオンが出たのさ」

「エンジェリオンが!?昨日、あんな激戦が出たっていうのにまたオレたちが戦わなくちゃあいけないのかよ!」

オットシャックが激情に駆られながら叫ぶ。その姿を見てブレードは残念そうな表情を浮かべて首を振ったが、すぐに顔を上げてリーダーらしい毅然とした表情を浮かべて言った。

「それがぼくたちの宿命なのさ……準備を終えたらすぐに来てくれないかい?」

私たちはブレードの言葉に黙って首を縦に動かした。

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