白き翼の天使が支配するーーanother story〜女神の力を受け継ぎし天使はいかにして世界の救済を図るかーー

アンジェロ岩井

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聖戦士編

私の身に起きた出来事

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今の私は一体、どういう状況なのだろうか。どうして私の視界が遮られてしまっているのだろうか。
理解ができない。しかし、今の私にはパワーが抑えきれんばかりに溢れてくる。
ポイゾが何を思おうが、今の私には関係ない。私は溢れ出る力を武器に変えて、目の前のガマガエルに向かって執拗な攻撃を繰り出す。

私が剣を振り上げていくたびに火花が飛ぶ。それと同時にガマガエルから悲鳴が上がる。
このまま上手くいけばガマガエルを始末できるだろう。
いよいよあと一撃でガマガエルを始末できるというところで、なぜかポイゾが私に向かって剣を振り上げた。

彼の剣には毒が含まれているので、それが当たればただでは済まないだろう。
私は慌ててそのことを告げたが、彼は無視して攻撃を繰り出す。
短剣二つで彼の剣を防ぎ、そのまま彼の剣を弾き返した上に両肩から彼に向かって強烈な一撃を喰らわせていく。彼の顔が苦痛で歪んでいく姿が見えた。

「クソ……この薄汚い天使め、おれの手で殺してやるぞ」

「何を言っているの?」

「惚けるなッ!その兜はどう説明するんだッ!」

彼は憎悪に満ちた表情で叫ぶ。歯が剥き出しになり、白眼を剥き出しにして怒鳴る姿が私にはひどく醜悪に見えた。
ポイゾが更なる攻撃を私に加えようとした時だ。彼の背後から巨大な斧が黒く輝く。
それを見て私が指摘の言葉を述べたものの、ポイゾは気にすることなく剣を振っていく。

この時の私は大いに困惑していた。
というのも、本当ならば戦うべき相手は天使たちであるというのに現在はポイゾと戦端を切り拓いているからだ。
その状況に困惑していると、背後から攻撃を仕掛けられてポイゾがその場に倒れ込む。
私の忠告を聞き入れなかったせいだ。こういう場合は彼に同情してもいいのだろうか。私にはわからない。

ただ、今わかるのは私の目の前から迫る敵を始末するだけである。
私が短剣を構えて二体の敵を相手にしようと構えた時だ。不意に蠍の怪物が武器を引っ込めたかと思うと、背中に鳥のように真っ白な翼を生やして空を飛び、その場を去っていく。

私たちは慌てて追い掛けようとしたが、ガマガエルの怪物や残った一般の天使たちが討伐隊を掻き回したので彼の追跡は不可能になってしまった。
せめてもの贖罪としてこのガマガエルだけを始末させてもらおうではないか。
私は負傷したポイゾを除いた討伐隊の仲間たちと天使たちを片付け、最後にガマガエルの首を弾き飛ばし、勝利を収めた。
胴から離れたガマガエルの首を掴んで、その首を高く掲げた時だ。

先程とは対照的に私の視界が一気に開けていく。先程まで霧の街の中に立っていたのに一気に霧が開いたかのような爽快な気分を味わうのと同時に私はまたしても困惑することになった。
というのも、今までは私の意思で鎧や武器を解除しており、このような事態に陥ってしまったことは初めてであったからだ。
私が複雑な思いで元に戻っていく自身の体を見つめていると、ブレードや仲間たちが警戒するような視線が注がれていることに気がつく。
私が慌てて辺りを見渡すと、私の周りを囲むかのように討伐隊の面々が立っていた。

「……ねぇ、ハル。今きみが被っていた“もの”はなんだい?」

「えっ、“もの”って?」

「あの気味の悪い笑顔のことだよ。覚えていないかな?」

ブレードが必死の形相で尋ねる。彼の手と声の両方がひどく震えている様子から彼の動揺する姿が目に見えてわかった。

「ハル、あなた、あの兜を被った瞬間にすごい興奮してたよね。あのガマガエルを執拗に痛めつけていたような思うけど、それに関しては覚えていないかな?」

マリアが優しい口調で尋ねた。だが、無理をしているのか、その声はどこか固く感じられた。

「……覚えてるけど、どうしてそんなことを尋ねられなくてはいけないの?」

「……それはね、今回の戦いでぼくは危惧したのさ。キミが力を抑えきれなくなる日がくるんじゃあないかなと」

ブレードは低い声で言った。頭の中で考えて喋っているのだろうか。ひどくゆっくりとした調子だった。

「待って!確かに、あの兜を纏っている時には気分が高揚しましたが、それはあくまでもエンジェリオンに向けての敵意に留まってるからッ!問題はないはずだよ!?」

「確かに、今回はエンジェリオンに対してのみ敵意を向けられた。しかし、今後のことについてはどうかな?いつ、その標的が天使たちから人類に変わるともしれないじゃあないか」

「この世界の人類を襲うつもりならばとっくにそうしてるよッ!」

「どうかな?」

声がした方向を振り向くと、剣を杖の代わりにしてこちらに近付くポイゾの姿が見えた。

「ぼくにはキミが人間の仮面を取り払って、あの天使どもの本性を露わにしたように見えたなぁ」

ポイゾは荒い息を吐きながら、私の元へと近付いてこようとしたが、途中で力尽きたのか剣から手を離して大きく転倒してしまう。

「あっ、ポイゾくん!」

クリスが慌ててポイゾを抱き抱える。彼はクリスの肩を借りることになったが、背負われる間際までも私に嫌味を加えていた。
ポイゾの負傷から詳しい事情は後日に聞かされることになった。

ブレードが特別に父親に頼み込んで、翌日に時間を設けてくれるらしい。
その日、私は自室に戻って、外に出ないようにと厳命を下される。
どうやら、あの時の状態というのは自身の一日の自由を奪われるまでであったということに思わず恐怖感を覚えてしまった。

自室のベッドの上で、私は一人今日のことを振り返っていた。
ベッドの上で寝転ぶ私の頭の中に思い浮かぶのは前までとは違う狭くなってしまった視界。それにあの高揚感だ。
あの時の自分の体の中から限界というものが取り払われてしまったことについて、どこまでも暴れ回れるかもしれないという不思議な感覚を味わった。
今思い返せばあれは危険ドラッグなどの覚醒剤を常用した人の特徴に近い。
危険ドラッグは一度接種してしまえば、自分が持っている以上の力を引き出してしまうとされ、昔は角界で常用されていたと聞く。

私は昔、父からこの話を聞かされた時には恐怖したものだ。
その時の自分はまさか、そちらの側にいってしまうとは想像もしなかっただろう。
危険ドラッグの服用とは異なるとはいえ状況としては似たようなものである。
私は一人、反省して大きな溜息を吐く。
今後、私はどうなってしまうのだろう。

不安と憔悴に駆られながらも、私の意識は微睡の中へと落ちていった。
無意識の中で、私はまたしても夢を見た。といっても、ビレニアの時のように今後の私の危機を警告するものではない。
それとは対照的な私の過去の話であった。しかも、今回は私自身ではなく、第三者の視点から過去を見つめているのだ。
私の姿は存在しているが、過去の私や家族には見えていないのか、無視して自宅の居間で話を続けていた。
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