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婚約を結ぶに至っての条件……

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父はもう一度、空咳をすると、改めて、誠太郎さんを見つめていく。
それから、礼儀正しい姿勢を崩す事なく、父は座布団の上で頭を下げ、自身の名前を名乗っていく。
いや、自身の名前だけではない。自己紹介をしたくない、他の家族の紹介までも。

一通り、紹介が済むと、父は私にお茶を入れるように言い付けた。
その目は真剣そのものだ。どうやら、何か深刻な話があるらしい。
それも、私を遠ざけておきたい話題であるらしい。

だから、茶を入れるように指示を出したのだろう。
私は躊躇う事なく立ち上がり、台所へと向かう。
台所。普段は母の根城であり、たまに私もそこを利用して菓子や料理を作ったりする場所。そして、家族と共に食事を摂る場所。

入れるお茶は紅茶が良いだろうか、それとも、日本茶いわゆる緑茶の類が良いだろうか。
そんな事を考えていると、大広間の方から長兄の幸樹の怒声が飛ぶ。
同時に、母や弟の怒声も。余程、激しく言い争っているのだろう。

誠太郎さんと私を含む家族全員分のお茶を用意し、それをお盆に載せて運ぶ。
茶組人形よろしく、お茶を持ちながら、大広間に向かうと、そこにはピリピリとした空気が伝わってくる。

張り詰め過ぎるほどに張り詰めた空気に、私は思わず両肩を竦ませてしまう。
だが、それに怯えるわけにはいくまい。
私は勇気を出し、大広間に居るみんなにお茶を配っていく。

だが、気まずい空気が流れる中でも、誠太郎さんは私からお茶を運ばれると、微かな笑みを浮かべて、礼を言う。
その姿が見ていて、とてもいじらしい。

このまま二人で笑い合いたかったのだが、それは元樹の机を叩く音でそれは呆気なく遮られてしまう。

「話はまだ途中でしょ?取り敢えず、さっきまでの事を纏めようよ」

元樹曰く、私がお茶を淹れている間に、壮絶な言い合いがあったらしい。
お互いがお互いに条件を突きつけ合い、議論は平行線をいくかと思われた。

だが、父はここで妥協した。なんと、私と誠太郎さんの入籍を認め、同じ屋根の下に住む事も許したのだ。

これには他の家族、特に母と弟は大反対したのだが、その二人に代わりの案を提案した。
それは、必ず週に一度、私を家に戻すか、弟の元樹が向こうの家で過ごすというもの。
中々に難しい提案だが、誠太郎さんはその条件をあっさりと飲み込む。

こうして、一応は合意を得たので、私と誠太郎さんとは結婚ができるようになった。
続いては、誠太郎さんのご家族、つまり、私の元彼の方だが、それは今日の夜に紹介する事になるらしい。

かくして、私はその日は一日中、嬉しさと気まずさと一杯になりながら、過ごしたのだった。
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