13 / 43
婚約を結ぶに至っての条件……
しおりを挟む
父はもう一度、空咳をすると、改めて、誠太郎さんを見つめていく。
それから、礼儀正しい姿勢を崩す事なく、父は座布団の上で頭を下げ、自身の名前を名乗っていく。
いや、自身の名前だけではない。自己紹介をしたくない、他の家族の紹介までも。
一通り、紹介が済むと、父は私にお茶を入れるように言い付けた。
その目は真剣そのものだ。どうやら、何か深刻な話があるらしい。
それも、私を遠ざけておきたい話題であるらしい。
だから、茶を入れるように指示を出したのだろう。
私は躊躇う事なく立ち上がり、台所へと向かう。
台所。普段は母の根城であり、たまに私もそこを利用して菓子や料理を作ったりする場所。そして、家族と共に食事を摂る場所。
入れるお茶は紅茶が良いだろうか、それとも、日本茶いわゆる緑茶の類が良いだろうか。
そんな事を考えていると、大広間の方から長兄の幸樹の怒声が飛ぶ。
同時に、母や弟の怒声も。余程、激しく言い争っているのだろう。
誠太郎さんと私を含む家族全員分のお茶を用意し、それをお盆に載せて運ぶ。
茶組人形よろしく、お茶を持ちながら、大広間に向かうと、そこにはピリピリとした空気が伝わってくる。
張り詰め過ぎるほどに張り詰めた空気に、私は思わず両肩を竦ませてしまう。
だが、それに怯えるわけにはいくまい。
私は勇気を出し、大広間に居るみんなにお茶を配っていく。
だが、気まずい空気が流れる中でも、誠太郎さんは私からお茶を運ばれると、微かな笑みを浮かべて、礼を言う。
その姿が見ていて、とてもいじらしい。
このまま二人で笑い合いたかったのだが、それは元樹の机を叩く音でそれは呆気なく遮られてしまう。
「話はまだ途中でしょ?取り敢えず、さっきまでの事を纏めようよ」
元樹曰く、私がお茶を淹れている間に、壮絶な言い合いがあったらしい。
お互いがお互いに条件を突きつけ合い、議論は平行線をいくかと思われた。
だが、父はここで妥協した。なんと、私と誠太郎さんの入籍を認め、同じ屋根の下に住む事も許したのだ。
これには他の家族、特に母と弟は大反対したのだが、その二人に代わりの案を提案した。
それは、必ず週に一度、私を家に戻すか、弟の元樹が向こうの家で過ごすというもの。
中々に難しい提案だが、誠太郎さんはその条件をあっさりと飲み込む。
こうして、一応は合意を得たので、私と誠太郎さんとは結婚ができるようになった。
続いては、誠太郎さんのご家族、つまり、私の元彼の方だが、それは今日の夜に紹介する事になるらしい。
かくして、私はその日は一日中、嬉しさと気まずさと一杯になりながら、過ごしたのだった。
それから、礼儀正しい姿勢を崩す事なく、父は座布団の上で頭を下げ、自身の名前を名乗っていく。
いや、自身の名前だけではない。自己紹介をしたくない、他の家族の紹介までも。
一通り、紹介が済むと、父は私にお茶を入れるように言い付けた。
その目は真剣そのものだ。どうやら、何か深刻な話があるらしい。
それも、私を遠ざけておきたい話題であるらしい。
だから、茶を入れるように指示を出したのだろう。
私は躊躇う事なく立ち上がり、台所へと向かう。
台所。普段は母の根城であり、たまに私もそこを利用して菓子や料理を作ったりする場所。そして、家族と共に食事を摂る場所。
入れるお茶は紅茶が良いだろうか、それとも、日本茶いわゆる緑茶の類が良いだろうか。
そんな事を考えていると、大広間の方から長兄の幸樹の怒声が飛ぶ。
同時に、母や弟の怒声も。余程、激しく言い争っているのだろう。
誠太郎さんと私を含む家族全員分のお茶を用意し、それをお盆に載せて運ぶ。
茶組人形よろしく、お茶を持ちながら、大広間に向かうと、そこにはピリピリとした空気が伝わってくる。
張り詰め過ぎるほどに張り詰めた空気に、私は思わず両肩を竦ませてしまう。
だが、それに怯えるわけにはいくまい。
私は勇気を出し、大広間に居るみんなにお茶を配っていく。
だが、気まずい空気が流れる中でも、誠太郎さんは私からお茶を運ばれると、微かな笑みを浮かべて、礼を言う。
その姿が見ていて、とてもいじらしい。
このまま二人で笑い合いたかったのだが、それは元樹の机を叩く音でそれは呆気なく遮られてしまう。
「話はまだ途中でしょ?取り敢えず、さっきまでの事を纏めようよ」
元樹曰く、私がお茶を淹れている間に、壮絶な言い合いがあったらしい。
お互いがお互いに条件を突きつけ合い、議論は平行線をいくかと思われた。
だが、父はここで妥協した。なんと、私と誠太郎さんの入籍を認め、同じ屋根の下に住む事も許したのだ。
これには他の家族、特に母と弟は大反対したのだが、その二人に代わりの案を提案した。
それは、必ず週に一度、私を家に戻すか、弟の元樹が向こうの家で過ごすというもの。
中々に難しい提案だが、誠太郎さんはその条件をあっさりと飲み込む。
こうして、一応は合意を得たので、私と誠太郎さんとは結婚ができるようになった。
続いては、誠太郎さんのご家族、つまり、私の元彼の方だが、それは今日の夜に紹介する事になるらしい。
かくして、私はその日は一日中、嬉しさと気まずさと一杯になりながら、過ごしたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。
「また会おうね」と手を振る君は、なぜか泣いていた
たこす
恋愛
大学に通う電車の中で、一人の女性に一目惚れをした僕。
なんとか声をかけたいものの、臆病な僕はただ見つめることしかできなかった。
彼女との恋が始まった時、世界は甘く包まれる。
けれども、彼女には大きな秘密があった。
甘々&ちょっと切ないラブストーリーに挑戦しました。
最後はハッピーエンドです。
美月 ~芸能界の物語~
鎌倉結希
恋愛
**下に、『第1-3章のストーリーの要約』があります。この小説はどんな話か読めます。**
一見、文庫風の恋愛小説ですが、実はサイト1の大規模な『ハーレム』ストーリーと言えるかもしれません。
現実に基づき、感情を中心に描き、一話目からすぐ展開のある娯楽作ではありませんが、ストーリーの関係性の基礎として、続けて読んでいただけると深く楽しめると思います。違うタイプであれば他を探せますが、文芸的な『ハーレム』はこの作品しかありません。
島根の田舎から始まるこの小説の背景は芸能界です。ハラハラするだけではなく、裏側や闇もたっぷりあるストーリーなので、ゆっくりとした風景は深海に沈む前だけです。
カクヨムにも投稿しています。ユーザーの『近況ノート』にイラストもアップしています。
表紙のイメージ作成: waifulabs.com
痛みは教えてくれない
河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。
マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。
別サイトにも掲載しております。
私と彼の恋愛攻防戦
真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。
「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。
でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。
だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。
彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。
天道史奈は恋を知らない
瀬口恭介
恋愛
人と関わらずに学校生活を過ごしてきた御子柴束紗は、世間一般的に言う『ボッチ』だった。
そんな束紗はある日姉の友人で学校の人気者、完璧超人の天道史奈に目を付けられてしまう。
平穏な日々を送るはずだった束紗の学校生活は一変、一人の時間は天道史奈に埋め尽くされてしまった。
そんな状況を束紗は少しずつ受け入れるようになる。が、お互いに恋を知らず、好きという気持ちがどういうものなのか分からないまま仲が深まっていた。
これは、恋を知らない少年と少女が本物の恋愛を求める物語。
・この作品は小説家になろう様でも投稿しております。
・毎日二話ずつ更新します。
・ハッピーエンド予定です。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる