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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』
デッドエンド・バビロニアーその23
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「う、嘘だッ!」
「嘘じゃあない」
「ゆ、夢だ!夢に決まってる!」
「ところが、残念な事に、夢じゃない。現実だ」
孝太郎は大樹寺の口から飛び交う言葉を次々と自らの言葉で斬り伏せていく。
大樹寺は恐る恐る靴の踵でコンクリートの上を踏み、そのたびにコンクリートの上に革靴がぶつかる音が響いていく。
大樹寺は人形を飛ばすものの、それはもはや、勝負にはならない。
一体の人形は孝太郎の刀の一振りで地面に叩き落とされていく。
最早、どこをどう見ても、大樹寺の敗北は決定していた。
大樹寺が顔から冷や汗を垂らしながら、背後へ背後へと後ずさっていると、不意に足場がない事に気が付き、足が浮く。
それに気付いたか、彼女は慌てて踵を戻して両足を揃える。
孝太郎は冷静な顔で拳銃を突き付けながら、彼女に現実を突き付けていく。
「残念だったな。その後ろは海だ。生憎と、泳げる距離じゃあないだろ?大人しく、投降しろ」
「そ、そんな脅しが通用するとでも?」
「これは脅しじゃあない。お前が、オレの信条の事を知りたいんだったら、代わりに、今、ここで告げてやるが、オレはあの時から躊躇いはなくなっているんだぜ」
「あの時って?」
「あぁ、お前は眠りこけていたから、知らないだろうな。大坂城での戦いの時だよ。あの時にオレはーー」
「そんな出まかせを!あなたにそんな事が出来るとは到底、信じられない!」
彼女が発した言葉はうわずっており、普段の寡黙な様子が嘘の様に思える。
いや、現にこうしてこんな風に怯えている彼女こそが、その本性なのかもしれない。普段の寡黙な教祖という顔がその実、彼女の仮面なのかもしれない。
孝太郎がそう考えていると、彼女は諦めが悪く、両手で銃を握って孝太郎を迎え撃つ。
「撃つよ!本当に撃つよ!」
「撃つ?お前の様なお嬢ちゃんに撃てるのか?いいだろう。やってみろ」
孝太郎は眉一つ動かす事なく言った。声にも動揺の色は一切見えない。
大樹寺はその時点で言葉を失ってしまう。ここまでくれば、もう誰にも敵うはずがないだろう。
大人しく、銃を下ろそうとした時だ。孝太郎の背後に駆け付けた警察官たちが向かって来ていた。恐らく、自分を捕らえるつもりだろう。
大樹寺は何万匹もの苦虫をすり潰し、その忌々しい状況を眺めていた。
最早、観念する時だろう。大樹寺は拳銃を地面に落とし、代わりに懐から一つの瓶を取り出す。
そうして、額に手を当てて大きな声で笑いながら、
「アッハッハッ、ねぇ、孝太郎さんさぁ、さっき、あたしを昌原と同類だと言ったけれど、あたし自身は違うと思うよ!だって、昌原はこんな事をしなかったでしょう!」
大樹寺は例のロシア人から渡された仮死薬を突き付けて叫ぶ。その声はこの本拠地いっぱいに響くほどの大きな声であった。
自分の大きな声に周囲が固まっている事を機に、大樹寺は最後の大演説を述べていく。
「いい!?わたしは今から死ぬ!それもただの死ではない!この教団の教祖として、そして全ての人類の救世主として死ぬのだ!そして、わたしはいつの日にか再び、復活を遂げるだろう!それまで、教義を忘れず!神への御心を忘れるではない!」
大樹寺はそれから、一旦、呼吸を落ち着けると、孝太郎に向かって告げる。
「ねぇ、孝太郎さん。プロイセンのフリードリヒ三世は敵に囲まれた際にいつでも毒をあおげるように、瓶の中に毒を入れていたんだってね?わたしもそれに倣ったんだ。まぁ、見ててよ」
と、彼女は不敵な笑みを浮かべて瓶の中身を一気に飲み干す。
たちまちのうちに彼女は顔色を悪くし、苦しみ出した後に倒れ込む。
それを見た警察官たちは慌てて駆け寄ったものの、大樹寺はもう目を覚さない。
孝太郎は完全な勝ち逃げをさせた事を悔しがり、銃を握る力を強めていく。
万が一にもない事だが、もし、大樹寺ともう一度、対峙する機会があれば、もう一度、彼女に手錠をかけたい。
孝太郎は心の底からそう誓った。
集まった警官たちにより、教祖の死亡が伝えられると、信者たちは一斉に武器を落とし、降伏の意思を見せ、警察官たちや共和国軍たちに投降していく。
次々と手錠をかけられる信者たちの中には凶暴な男の狂信者だけではなく、幼い子供や若い女性、年老いた老人の姿も目立った。
孝太郎は思い知らされる。カルト教団の恐ろしさを。そして、若い女という万人受けする象徴はここまで人を虜にするのか、と。
彼ら彼女らは大樹寺の説く『聖戦』を信じ込み、ここまで戦ったのだ。
まだ未来ある若い女性や少年少女、これまでの人生を努力してきた老人はたった一つの神輿を担いだばかりに、引くに引き返せない所まで来てしまったのだ。
大樹寺の運転するバスに乗る中、親しい人はバスから降りる様に、警告してくれただろう。
だが、それすらも無視し、この様な結末に至ったのだ。
孝太郎が後年、調査報告書に記したその文章は現在も、尚、高く評価されている。
報告書の記載によれば、孝太郎はこの後に、他の警官と共に家の中に残った信者の検挙にあたり、その一日を呉で過ごしていたという。
全ての後始末を終えて、ビッグ・トーキョーに向かったのは次の日の朝だった。
ビッグ・トーキョーに向かう最新鋭の汽車の中で孝太郎は一人だった。
いつもの仲間たちは怪我の治療のため居らず、疲れのため、浩輔と淳一はもう一泊を決めて、共に帰る事を拒否した。
共に帰る事を窓から見える微かに見える朝焼けの光が点滅していき、美しさを奏でていく。
長い夜は今、ここに終わったのだ。今から始まるのは朝。
人々を笑顔で包む、希望に満ちた朝だった。
孝太郎は僅かな時間で最新鋭の汽車から降り立つ。
孝太郎は駅に着くと同時に、思いっきり両腕を伸ばす。
そうして、自分の家に帰ると、畳の上で思いっきり、大の字になって寝転ぶ。
大きく口を開けて空気を吸い込むと、音も立てずに眠っていく。
だが、二、三時間ばかり寝息を立てていたかと思うと、彼は眠い目を擦りながら起きて、そのままの格好で警察署に向かう。
無論、事件の後始末をするためだ。孝太郎は疲れた体に鞭を打つと、顔一杯に元気な顔を浮かべて走っていく。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、躊躇う事なく、前へと向かっていく。
「嘘じゃあない」
「ゆ、夢だ!夢に決まってる!」
「ところが、残念な事に、夢じゃない。現実だ」
孝太郎は大樹寺の口から飛び交う言葉を次々と自らの言葉で斬り伏せていく。
大樹寺は恐る恐る靴の踵でコンクリートの上を踏み、そのたびにコンクリートの上に革靴がぶつかる音が響いていく。
大樹寺は人形を飛ばすものの、それはもはや、勝負にはならない。
一体の人形は孝太郎の刀の一振りで地面に叩き落とされていく。
最早、どこをどう見ても、大樹寺の敗北は決定していた。
大樹寺が顔から冷や汗を垂らしながら、背後へ背後へと後ずさっていると、不意に足場がない事に気が付き、足が浮く。
それに気付いたか、彼女は慌てて踵を戻して両足を揃える。
孝太郎は冷静な顔で拳銃を突き付けながら、彼女に現実を突き付けていく。
「残念だったな。その後ろは海だ。生憎と、泳げる距離じゃあないだろ?大人しく、投降しろ」
「そ、そんな脅しが通用するとでも?」
「これは脅しじゃあない。お前が、オレの信条の事を知りたいんだったら、代わりに、今、ここで告げてやるが、オレはあの時から躊躇いはなくなっているんだぜ」
「あの時って?」
「あぁ、お前は眠りこけていたから、知らないだろうな。大坂城での戦いの時だよ。あの時にオレはーー」
「そんな出まかせを!あなたにそんな事が出来るとは到底、信じられない!」
彼女が発した言葉はうわずっており、普段の寡黙な様子が嘘の様に思える。
いや、現にこうしてこんな風に怯えている彼女こそが、その本性なのかもしれない。普段の寡黙な教祖という顔がその実、彼女の仮面なのかもしれない。
孝太郎がそう考えていると、彼女は諦めが悪く、両手で銃を握って孝太郎を迎え撃つ。
「撃つよ!本当に撃つよ!」
「撃つ?お前の様なお嬢ちゃんに撃てるのか?いいだろう。やってみろ」
孝太郎は眉一つ動かす事なく言った。声にも動揺の色は一切見えない。
大樹寺はその時点で言葉を失ってしまう。ここまでくれば、もう誰にも敵うはずがないだろう。
大人しく、銃を下ろそうとした時だ。孝太郎の背後に駆け付けた警察官たちが向かって来ていた。恐らく、自分を捕らえるつもりだろう。
大樹寺は何万匹もの苦虫をすり潰し、その忌々しい状況を眺めていた。
最早、観念する時だろう。大樹寺は拳銃を地面に落とし、代わりに懐から一つの瓶を取り出す。
そうして、額に手を当てて大きな声で笑いながら、
「アッハッハッ、ねぇ、孝太郎さんさぁ、さっき、あたしを昌原と同類だと言ったけれど、あたし自身は違うと思うよ!だって、昌原はこんな事をしなかったでしょう!」
大樹寺は例のロシア人から渡された仮死薬を突き付けて叫ぶ。その声はこの本拠地いっぱいに響くほどの大きな声であった。
自分の大きな声に周囲が固まっている事を機に、大樹寺は最後の大演説を述べていく。
「いい!?わたしは今から死ぬ!それもただの死ではない!この教団の教祖として、そして全ての人類の救世主として死ぬのだ!そして、わたしはいつの日にか再び、復活を遂げるだろう!それまで、教義を忘れず!神への御心を忘れるではない!」
大樹寺はそれから、一旦、呼吸を落ち着けると、孝太郎に向かって告げる。
「ねぇ、孝太郎さん。プロイセンのフリードリヒ三世は敵に囲まれた際にいつでも毒をあおげるように、瓶の中に毒を入れていたんだってね?わたしもそれに倣ったんだ。まぁ、見ててよ」
と、彼女は不敵な笑みを浮かべて瓶の中身を一気に飲み干す。
たちまちのうちに彼女は顔色を悪くし、苦しみ出した後に倒れ込む。
それを見た警察官たちは慌てて駆け寄ったものの、大樹寺はもう目を覚さない。
孝太郎は完全な勝ち逃げをさせた事を悔しがり、銃を握る力を強めていく。
万が一にもない事だが、もし、大樹寺ともう一度、対峙する機会があれば、もう一度、彼女に手錠をかけたい。
孝太郎は心の底からそう誓った。
集まった警官たちにより、教祖の死亡が伝えられると、信者たちは一斉に武器を落とし、降伏の意思を見せ、警察官たちや共和国軍たちに投降していく。
次々と手錠をかけられる信者たちの中には凶暴な男の狂信者だけではなく、幼い子供や若い女性、年老いた老人の姿も目立った。
孝太郎は思い知らされる。カルト教団の恐ろしさを。そして、若い女という万人受けする象徴はここまで人を虜にするのか、と。
彼ら彼女らは大樹寺の説く『聖戦』を信じ込み、ここまで戦ったのだ。
まだ未来ある若い女性や少年少女、これまでの人生を努力してきた老人はたった一つの神輿を担いだばかりに、引くに引き返せない所まで来てしまったのだ。
大樹寺の運転するバスに乗る中、親しい人はバスから降りる様に、警告してくれただろう。
だが、それすらも無視し、この様な結末に至ったのだ。
孝太郎が後年、調査報告書に記したその文章は現在も、尚、高く評価されている。
報告書の記載によれば、孝太郎はこの後に、他の警官と共に家の中に残った信者の検挙にあたり、その一日を呉で過ごしていたという。
全ての後始末を終えて、ビッグ・トーキョーに向かったのは次の日の朝だった。
ビッグ・トーキョーに向かう最新鋭の汽車の中で孝太郎は一人だった。
いつもの仲間たちは怪我の治療のため居らず、疲れのため、浩輔と淳一はもう一泊を決めて、共に帰る事を拒否した。
共に帰る事を窓から見える微かに見える朝焼けの光が点滅していき、美しさを奏でていく。
長い夜は今、ここに終わったのだ。今から始まるのは朝。
人々を笑顔で包む、希望に満ちた朝だった。
孝太郎は僅かな時間で最新鋭の汽車から降り立つ。
孝太郎は駅に着くと同時に、思いっきり両腕を伸ばす。
そうして、自分の家に帰ると、畳の上で思いっきり、大の字になって寝転ぶ。
大きく口を開けて空気を吸い込むと、音も立てずに眠っていく。
だが、二、三時間ばかり寝息を立てていたかと思うと、彼は眠い目を擦りながら起きて、そのままの格好で警察署に向かう。
無論、事件の後始末をするためだ。孝太郎は疲れた体に鞭を打つと、顔一杯に元気な顔を浮かべて走っていく。
真っ直ぐ、真っ直ぐ、躊躇う事なく、前へと向かっていく。
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