魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

デッドエンド・バビロニアーその⑨

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だが、その孝太郎の発言に対して良い感情を抱いていないものもいたらしい。それはかつての大国家の暗黒街を牛耳っていた大物にして現在は教団内で幹部を務める呂蔡京。彼は激昂し、止めようとする部下たちを跳ね飛ばし、孝太郎の元へと向かう。
彼は顔をタコの様に真っ赤にし、人差し指を震わせながら叫ぶ。
「貴様、恐れ多くも大樹寺教祖に向かってなんたる事を許せん!」
「……ほぅ、あんたが噂のニコラス=呂か。お目にかかれて光栄だよ」
孝太郎の言葉に周りに居た警察官たちが騒めく。当然だろう。目の前に国際指名手配犯がその姿を見せているのだから。
CIAのジャニックなどは直ぐにでも動こうかとしているのだが、何故か、イベリアは左腕を出して止める。
だが、孝太郎の仲間たちは孝太郎が発した言葉を聞いてその誘惑に抗えなかったのだろう。密かに背後に構えている警察官たちの元から抜け出して彼の元へと近付いていく。
だが、孝太郎は構う事なくニコラス=呂を睨み続けた。その甲斐があってか、元巨大シンジゲートのボスは孝太郎の思惑にも気が付かずに、ニコラス=呂は怒りという激情に駆られたまま自らの犯罪を公の場で自白していく。
「欲に塗れ、罪に塗れた私を救ってくださったのは他ならぬ大樹寺教祖なのだ!もし、あのお方と『トライアングル・コネクション』の中で出会わなければ、私はとうの昔に地獄へと堕ちていただろう!」
『トライアングル・コネクション』という単語を聞いて周りの警察官間の騒めきが更に増していく。それこそ嵐の様に。
自分たちが長い間探していた巨大な密貿易の裏付けが今、ようやく取れたのだ。
確固たる自白。これが捜査員たちを突き動かした。
武器や魔法を構えた警察官たちは一斉に大樹寺の逮捕に向かったが、その前に呂蔡京が立ち塞がり、右手を広げて叫ぶ。
「神に逆らう愚か者どもが!貴様ら、この場で始末してやろう!」
同時に呂蔡京の指輪から辺りが見えなくなるほどの真っ白な光が生じ、警察官たちの目を眩ませたかと思うと、たちまちのうちに呂蔡京の体が変化していく。
その姿はまさしく神話上に実在していたとされる竜。
猛々しい頭の上には鹿の様に整った角が生え、その胴体はまるで蛇。
そして、鋭く整った爪の生えた逞しい腕が見るものを圧倒させていた。
「お、おい、マフィアのボスが竜になっちまったぞ!」
ジャックの声に動揺の声が湧き上がる。当然だろう。彼ら彼女らの目の前に存在するのは比喩でもなんでもない、まごう事のない竜という怪物なのだから。
魔物と化した呂蔡京は雄叫びを上げて、その場にいた全員の耳を塞がせると、次に口から火炎を噴き出して大量の警察官たちを焼き尽くしていく。
生きながらにして多くの警察官や捜査員たちが焼き殺されていく。孝太郎は仲間達と共にその光景を眺めながら、かつて見た『地獄絵図』で地獄の業火で焼かれる亡者の姿を思い出す。
だが、本来ならばその業火で焼かれなければならないのは大樹寺を始めとするこの狂った宗教団体の教祖たちではないのか。
孝太郎がそんな思いで竜を睨んでいると、マリヤが孝太郎の裾を掴んでいる事に気が付く。その手はガタガタと震えて孝太郎にも彼女の恐怖が伝わってくるようであった。
孝太郎はマリヤを安心させるために、彼女の手を強く握ってやろうとした時だ。
孝太郎の前に突如、赤い髪をたなびかせた見た目麗しい女性が姿を表す。
彼女は腰に下げていた剣を取り出し、孝太郎に突き付けて言った。
「……久しいな。中村孝太郎。あの事件以来だ」
「……エリカ・スカーレットか。どうやら、あんたとはここで決着を付ける必要があるな」
孝太郎は“教団幹部”のエリカ・スカーレットを始末するために異空間の武器庫から仕舞っていた日本刀を取り出そうとしたのだが、その前に杖から刀を取り出したマリヤが彼女の剣を防ぐ。
マリヤは剣を防ぐと同時に、背後の孝太郎に向かって叫ぶ。
「この場はわたしが食い止めます!あなたは一刻も早く大樹寺を逮捕してこの惨劇を終わらせて!」
マリヤの言葉を聞いて孝太郎は炎の中を仲間と共に進む。
炎の中を進む中で三人の脳裏に過るのは三年前の記憶。
かつて、1959年のアメリカ合衆国に飛び、そのままこの世界とは異なる世界へと向かった時に対峙した竜王との戦いの時を三人は今、ほど鮮明に思い出した事はないだろう。いや、これが虫らの知らせという奴なのだろう。
この場にはいない倉本明美のあの時の事を病室のベッドの上で鮮明に思い出していた。
何の因果か、あの滅びの王を甦らせたのは今の教団と同じく宗教団体の事。
彼らがやろうとしていたのはタイムトラベル直前に解決した昌原のテロ未遂を大きく凌駕するものであった事。
全てが頭の中に浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
映画の様に頭の中に正確に1959年の古き良き街並みやそれと並行しての異世界の光景が。
そんな事を考えていると、彼女の前に一人の女性が現れる。スラリとした長身の白人女性。
彼女は異空間の武器庫からサーベルを取り出すと何故か歌い始めていく。
「メリキャット、お茶でもいかがとコニー姉さん。とんでもない毒入りでしょうと、メリキャット。メリキャット、おやすみなさいと、コニー姉さん。深さ10フィートのお墓の中で!」
彼女はそう言うと出産時に死亡したとされる自身の双子の姉を繰り出して三人を地面の上に拘束していく。
彼女は悪意のない笑顔で笑うと、履いていた黒色のハイヒールで孝太郎の手の甲を踏み付ける。ヒールの先端が手の甲へと突き刺さり、孝太郎は痛みに耐え切れずに悲鳴を上げていく。刃物で抉られているかの様な痛みには耐えきれなかったのだろう。
彼女は子供のような無邪気な笑顔で地面の上に倒れている孝太郎に向かって告げた。
「大樹寺教祖はねぇ、わたしを救ってくださったの。メリキャットを殺した哀れなわたしを。そんな大恩人を殺そうとするなんて許せない。許せないよね?」
それまでは屈託のない笑顔を浮かべていた彼女は瞳に炎を宿らせて孝太郎の手の甲を更にヒールで踏み付けていく。
言葉にもならない悲鳴を上げる孝太郎に対し、コンスタンスは憎しみのこもった表情でヒールを動かす。
痛みに耐えきれずに孝太郎が叫ぼうとした時だ。突如、炎の向こうから一人の男が現れて異空間の武器庫から取り出したと思われる刀を取り出して彼女へと斬りかかっていく。
彼女は慌てて体を逸らし、その剣を避ける。
彼は刀を突き付けて、
「CIAのジャニック・パーカーだ。悪いが、そのにいちゃんから手を引いてもらおうか」
「嫌だと言ったらどうするの?」
「力付くでも引いてもらう」
彼は剣を突き付けながら言った。その目に躊躇いは見えない。両者は見えない火花を散らしながら睨み合っていく。
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