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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

終わるのはお前か、オレかーその20

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「黙れ!さっきからその話を聞いていたが、全てお前のことじゃあないか!身勝手な理由でビルを爆破し、大勢の人を殺す……前世のお前と何ら変わらないじゃあないか!」
老婆の断崖にも雫は冷笑してみせる。必死な老婆を嘲笑う彼女の姿はマリヤには悪魔と重なって見えてしまう。
老婆は大きく目を見開き、その瞳に炎を宿しながら、絶対に手の届かない大樹寺に挑もうとしているのに、彼女は歯牙にもかけようとしない。
そんな態度が許せない。必死な人を嘲笑う悪魔が。
マリヤはいきり立って大樹寺に人差し指を突き付けて、
「外道!あなたは外道よ!必死に訴えかけるお婆さんに向かってそんな事をーー」
「必死?あなたは孫を失った悲しみをわたしにぶつけて八つ当たりしてるだけでしょ?逆恨みはやめて欲しいんだよね。威力業務妨害って知ってるかな?それに、爆破事件にわたしは関わっていないと何度言ったらーー」
「大樹寺教祖の指示なしで爆破は
中村孝太郎は拳銃を突き付けながら、たじろいだ様子の彼女に向かって言った。
孝太郎のその言葉を発した途端に聡明な若い教祖はそれまでの饒舌を失って言葉を失う。
それはかつての吉田稔の証言。彼は裁判であろう事かその様に証言してしまい、法廷に大きなざわめきを起こしたのはつい数日前の事。
言うなれば、大樹寺のアキレス腱。孝太郎はここを射抜いたのだ。彼女はたちまちのうちに苦悶の顔を浮かべて歯を鳴らしていく。
孝太郎はそれを見て得意そうな顔を浮かべて話を続けていく。
孝太郎から出る言葉は全て大樹寺の責任を追求する言葉ばかり。
いや、それだけではない。大樹寺雫こそが半年前のビル爆破事件並びにテロ未遂事件の首班である事を示す証言ばかりが次々と並べ立てられていく。
完璧な証拠と検証に言葉を失う大樹寺。
ここで忘れてはならない事。それはテレビカメラがまだ回っているという事実。
多くの人々が大樹寺雫の責任の検証を聞いていた。
顔を青ざめていく教祖と対比し、得意そうな顔で、余裕を持って証拠を突き付けていく若い刑事。
善悪の区別が好きな大衆はそれまでの意見を即座に捨て去り、一転して大樹寺雫の責任を問う声を高めていく。
テレビ局の無事な箇所には抗議の電話が鳴り響き、クレームの声が人々から届いていく。
加えて、決定的な証拠がスタジオに届けられていく。
突然、扉が開き、昨日のロシア人が手錠をかけた若い女性を突き飛ばす。
女性は突然、突き飛ばされた事により、バランスが取れなかったのか、靴を滑らせて地面の上に倒れ込む。
そして、同時に胸元から携帯端末を落とす。
地面の上を滑り、落とした人々に彼女が誰に電話を掛けようとしていたのかを声に出す事もなく説明していく。
顔を真っ青にし、冷や汗を滝の様に流す若い教祖を他所に、イベリアはこの女性の正体と捕まえた時の詳細を語っていく。
「こいつはジャネット=扈だ。有名な国際指名手配犯だが、こいつが持っていたのはなんだと思う?小型の核爆弾だよ。それを宇宙原子力センターに運び込もうとしていやがった。そして、その際にあんたに連絡を取ろうとしたんだろう。端末で連絡を取ろうとした所を逮捕したってわけさ」
ジャネット=扈はいや、扈三娘は上目遣いで教祖を見上げる。だが、教祖は何も言わずに見下ろすばかり。
せめてもの救いは目を背けたりしなかった事くらいだろうか。
それでも、もう彼女の中に存在する大樹寺の神秘性やカリスマ性といったものはその行動だけで吹き飛んでしまう。
失望という念が渦巻いていく。鳴門大橋の渦巻の様に激しく。
扈三娘は手錠を掛けられたままであるのにも関わらず、大樹寺を斬りかかろうとしたが、その前に仕込刀の男の前に前面を大きく斬られて地面の上に倒れ込む。
そればかりではない。倒れた彼女に向かって氷上は念入りに刀を突き刺していく。
大きく斬られた切断跡から血が流れ出し、彼女の倒れた地面の上を赤く染め上げ、一筋の赤い蛇となり地面の上を這っていく。
その様子を全員が眺めていたが、次第に仕込刀を振るった氷上に険しい視線が向けられていく。
「氷上麗央。ジャネット=扈の殺害容疑でお前を逮捕する」
「殺人容疑だと?ありゃあ、正当防衛だろ?」
「どうだろうな」
イベリアは煙草を片手に告げる。恐らく点けたばかりなのだろう。先端の炎が鮮明な輝きを見せて揺れていく。
彼は新鮮な煙草を吸って白い煙を吐き出して、人差し指を氷上に向かって指して、
「ジャネット=扈は武器を持っていなかった。殺意そのものはあったとしても、武器がなけりゃあ攻撃なんてできないだろう?加えて、あんたは仕込刀で一刀両断にして念入りに殺している。殺人とまではいかなくても、過剰防衛は十分に成立するんじゃあないのか?」
氷上はそれを言われて言葉に詰まってしまう。折角、ジャネット=扈の口封じに成功したというのにこのままではジリ貧ではないか。
氷上はやむを得ずに、自身の魔法を使用してこの場から撤退していく。
イベリアは暫く氷上が去った後に向かって例の銃を構えていたが、氷上には当たらないと察したのか、銃を下ろす。
「ふぅ、あの男は未だに逮捕できずか……」
「逮捕なんて甘っちょろい事を言うな。あんな男はこの場で射殺した方が良い。そうすれば、裁判の手間も執行の手間も省けるってもんだろう」
イベリアは肩を落とす孝太郎に声を震わせながら、告げると、中心の席で大樹寺雫の弾劾の姿勢を崩さない司教の元へと駆けていく。
彼と手を取り合うマリヤ。その顔には何処か安堵したものがあった。
恐らく、二人は相当に互いを信頼しているに違いない。微笑ましい事だ。
孝太郎がそう思って見守っていると、大樹寺が去ろうとしているので彼女の腕を乱暴に掴んで告げる。
「これで、あんたはまたしても大衆の敵に戻っちまったな。どうする?ビル爆破事件並びにテロ未遂事件の犯人さん」
「……わたしはやってないって言ったよね?吉田稔とその一派がわたしを騙したんだってば」
「へぇ、未だに言い逃れをする気か?」
「言い逃れじゃあない。事実を告げているだけ」
雫はそう言って踵を返して戻っていく。背後から老婆の罵声が聞こえたが、孝太郎としては構うところではない。
彼は来るべき強制捜査の日並びに大樹寺雫逮捕の日を楽しみに微笑みを浮かべ、両腕を組みながら、強がった顔の雫を見送っていく。
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