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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

終わるのはお前か、オレかーその15

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聡子の頭の中で孝太郎と合流するまでの松根陽一郎との戦いが何故か頭の中に流れ込む。松根は小型の爆弾を自由自在に作り出せるというとんでもない魔法の持ち主であり、彼の扱う爆弾が舞台の下に仕掛けられた爆弾にぶつかり会場が粉々に砕けてしまう可能性もなくはない。
いや、むしろ、その危険性の方が高い。聡子は懸命に銃と刀とを切り替えて爆弾魔に立ち向かい、多くの時間をその対策に費やしていたのだが、やはり一人の体では限界がある。
聡子の口から荒い息が吐き出た時に無言で交代を申し出たのは護衛の二人。
イベリアとCIAのジャニック・パーカー。
二人は無言で武器保存ウェポン・セーブからレーザーガンを取り出し、無言のうちに殺人光線で松根を狙っていく。
こうなっては狙われた松根側の落ち度。松根は得意の爆弾を発揮する間も無く懸命に殺人光線を交わし、合間に爆弾を放り投げるものの、殺人光線により小型爆弾は即座に宙で誰も傷付ける事がないまま粉々に砕け散っていく。
松根陽一郎は舌を打つと、今度は接近戦にやり方を変えたらしい。異空間の武器庫からククリナイフと呼ばれる大型の殺人ナイフを取り出して両者の元へと駆けていく。
だが、両者。特にイベリアは動じる事なくレーザーガンを正面から向かう松根に定めていく。
そして、少しばかり息を吸うと、そのままゆっくりと息を吐き出し、最新型のモデル、タッチレーダーを右手で構える。
タッチレーダーというのは前面の形が携帯端末にそっくりである事からそう名付けられた武器である。最も、銃の柄は通常のものと同じ。
前面は携帯端末。柄は通常の銃の柄という小洒落たデザインは見るものを高揚させるのだろうか。
聡子はそれまでの緊張も忘れてその銃と銃を構えるガタイの良い体格の男に見惚れていく。
イベリアは男が近付いてくるのと同時に、たった一言小さな声で呟く。
消去デリート」と。
同時に銃口から眩いばかりの光が発せられて松根陽一郎を真っ白な光で包み込む。僅かな悲鳴の音が聞こえたかと思われると男の姿はたちまちの内に消えてなくなってしまう。
聡子はその姿を見て思わず溢す。
「すげぇ」と。打算のある発言ではない。心からの賛辞。
だが、イベリアはそんな聡子の子供の様な無邪気な賞賛などには耳を貸す事もなく武器を異空間の中に戻すと、真っ直ぐにマリヤの元へと戻っていく。
そうして、彼は彼女の前に辿り着くと中世ヨーロッパの騎士が忠誠を誓うレディーを前にした時の様に恭しく頭を下げていく。
その様子を聡子がぼんやりと眺めていると、肩にいきなり手が置かれた事に気が付く。
聡子が背後を振り向くとそこにはCIAから派遣されたという礼の男の姿。
男は口を大きく開けて爽やかという雰囲気を全身に纏わせながら聡子に向かって言う。
「いやぁ、残念だったな。お嬢ちゃん。少しだけ絡んで分かったんだが、イベリアの奴はどうも、マリヤ大司教様一択らしいぜ」
「別にあたしはあいつを狙ってねーよ。ガキがヒーロー番組のヒーローを尊敬するみてーな目で見てるだけだ。今だって毎週楽しみに見てるし、問題はねーだろ?」
その言葉を聞いて興味深そうに両眉を上げるジャニック。彼は余った左手の親指と人差し指を使って顎の下を触りながら、感心した様な表情を浮かべて、
「ほぅ、ヒーロー番組を?やはり、きみは……」
「勘違いすんなよ!あたしは20超えてんだからな!」
顔を真っ赤にした言い放つ聡子に対して揶揄う様な表情のジャニック。
彼は興奮した聡子に対し、彼女の確信を付く言葉を告げる。
「そう言えば、きみの上司を助けに行かなくていいのか?もう手は空いたんだろ?」
それを聞いた聡子は刀を持って慌てて駆け出す。
それが今に至るまでの経緯。ここに至るまでの通過点。
だが、そんな事は目の前の氷上からすれば知った事ではないだろう。
彼は無言で仕込刀を構えて聡子と対峙していく。
聡子は無言で刀を振りかぶっていくが、男はそれを左に避けて交わす。
やけにあっさりと。余裕たっぷりの表情を浮かべて。
次に氷上は聡子の側面へと回り込む。そして、彼女の脇腹を狙って斬りに掛かる。
聡子は咄嗟に足首を使用して体を捻り、側面からの刀に応対していく。
刃物と刃物とがぶつかり合う音が聞こえて両者は互いに斬り合っていく。
彼女の刀が振り上げられたかと思うと、それを防ぐための金属音が聞こえ、氷上の仕込刀が振るわれ、刃物が綺麗に光ったかと思うと、そこに重なり合わされる刀の刀身。これもまた照明の光を浴びて綺麗に輝いている。
両者の戦いは平行線になるかと思われたその時だ。突然、氷上が悲鳴を上げて地面の上に膝を突く。
聡子や周りの警察官たちが一斉に彼へと視線を浴びせていく。
呻き声を上げる彼に対し、騒然とする周囲。どうしたのかと互いに顔を見合わせていると、その厳かな空気には似つかない口笛が轟き全員が口笛の方向を振り向く。
そこに立っているのはCIAのジャニック・パーカーの姿。
彼は右手に例の最新型のレーザーガン、タッチレーダーを構えて膝を抑えて自身を睨む氷上の元へと向かう。
「驚いたな。まさか、日本の警察がここまで手緩いとは……」
「だ、誰だァァ~テメェは?」
「おっと、言い遅れたな。私の名前はジャニック・パーカー。CIAの捜査官だ。皇帝陛下に仇なす、全ての不注意者を始末する役職の人間だ」
その言葉を聞いて氷上はギリギリと歯を鳴らしていく。まさか、CIAがこれ程までに残酷になれるとは。この時の彼の頭の中に思い浮かぶ言葉はたった一つを
リサーチ不足という言葉のみ。
氷上は自身の魔法を使用して逃げる事を試みた彼は懸命に異空間に穴を開けてその中へと入り込む。
まさしく命懸けの作業。死にもの狂いの勢いでの飛び込み。
それが功を奏したのか、彼はたちまちの内に姿をかき消してしまう。
聡子は慌てて刀を引っ提げて追跡に向かおうとしたが、ジャニックはそれを手で静止させる。
「待て、あんな魔法を使われた以上、あの男を捕らえる事は不可能だろう。それよりも、だ。三日後の警備も頼むぞ」
「三日後の警備!?三日後もまたやるのかよ!?」
驚愕する聡子に対し、ジャニックは当然とばかりに首を縦に動かす。
「勿論だ。マリヤ大司教の任務はまだ始まったばかりだからな」
当然の様に言い放つジャニックであったが、聡子は何処か納得ができない。
だが、孝太郎とは言えばリーダーであり、彼の姉が治してくれている。
これならば、三日後の警備にも差し支えはないだろうが。やはり、辺りの惨状を見てか、なんとなくヤキモキしてしまう。
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