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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

終わるのはお前か、オレかーその④

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「おい、降りろ」
氷上は車の中で目を覚ました刑事に向かって告げる。
刑事は降りずに氷上を睨み付けていたのだが、彼はそんな事を構いもせずに尻を蹴って車の外へと降ろす。
彼は隣の扉から降りた女性と共謀し、刑事に居場所が分からない様に目隠しを被せると監禁場所へと追い立てていく。
中村孝太郎は何もない部屋の中で痛む頭を右手で抑えながら、警察署で気絶させられてから、何時間経ったのかを計測していく。自分の勘が正しければ今は三時間くらいだろうか。
何せ、部屋に時計がない上に両者の携帯端末を覗こうにも奴らはそれを見せないように眺めているため確認は不可能。
部屋には窓もないために正確な時刻も分からない。扉もきっちりと閉められているためにおおよその推測も難しい。
孝太郎が何もない部屋の中で拘束され、椅子に座らされながら思案していると、突然、婦警の格好をした美女が孝太郎の元に向かって彼の目の前でペンチを取り出す。
彼女はその美貌に相応しい妖艶な香りを漂わせ、相応しい色のある声で彼の耳元で告げる。
「これで口も軽くなる筈よ。あんたの口を割らせるにはこれが充分だとは思わない?」
孝太郎はそれを見て思わずに冷や汗を垂らす。あの女は自分をあのペンチで拷問するつもりだろう。
だが、誇りまでも売り渡す気はない。例え爪を剥がされようとも泣き叫ぶつもりはない。
その様子に苛立ったのか、美しい顔の婦警の格好をした女が無理矢理孝太郎の爪を剥がそうと試みた時だ。
それを他ならぬ氷上が静止する。氷上は代わりに、爪と肉の間に一本の小さな針のような物を突き刺す。
孝太郎はそれが刺さるのと同時に言葉にならない悲鳴を上げる。
何もない打ちっぱなしのコンクリートだけが広がる部屋の中に孝太郎の絶叫が響き渡っていく。
「これで、口も軽くなるわよね?警察がどれだけの線を張っているのかを吐いてもらいましょうか?」
妖艶な香りを纏わせた美女は腕を組みながら孝太郎に問い掛ける。
「そうだぜ、今度のオレたちの計画にはそこが重要になるからな」
「……ッ、計画だと?」
孝太郎は涙を流しつつも、先程の姿勢を貫き両者を睨みながら問う。
「ええ、どうせ、あんたはここで始末するんだし、冥土の土産に教えてあげるわ。我がご主人様マイ・マスターは未だに計画を諦めていないわ」
それを聞いた孝太郎の顔に戦慄が走る。あのビル爆破事件の様な事件がまた起こるかもしれない。
それだけで彼を動揺させるのには十分であったらしい。
孝太郎は息を荒げながら作戦の詳細を問う。
「そうねぇ、我がご主人様マイ・マスターはこう企画していたかしら?確かーー」
美しい顔の女が言葉を言い終わるか、言い終わらない間に扉を叩く音が聞こえて二人は慌てて扉を開く。
すると、そこにはシンプルな白色のドレスを身に纏った長い白色の髪をした少女が太陽の光に照らされているためか、荘厳な雰囲気を纏わせて立っていた。
訝しげな視線を向ける二人に向かって少女は一礼をして、
「初めまして、我がご主人様マイ・マスターの使いでやって参りました。北大路美智子と申します」
「北大路ィィィィ~?そんな奴は聞いた事がないがな。本当に我がご主人様マイ・マスターの信徒か?お嬢ちゃん?」
氷上は隣に立っていた女以上に少女を怪しんでいたらしい。彼は仕込刀を今にも手に掛けんばかりの勢いで強く握りながら北大路に向かって問う。
だが、北大路美智子なる少女は氷上や氷上の相棒の女性の視線など気にする事なく、孝太郎の元へと進んでいき、彼を縛っていた縄をナイフで解いていく。
両者に抗議の声を出させる間も無く刑事を解放した美智子なる少女は孝太郎の手を引いて彼を外へと連れ出す。
孝太郎は彼女に引かれて外に出ると、彼はそこがかつてシリウスに閉じ込められた白籠市の両隣日織亜市外に存在する廃墟となったオフィスビル。
何という偶然だろう。まさか、またここに監禁される事になるとは。
孝太郎が感慨に耽っていると、突然、自分を助けてくれた女性は孝太郎の方を振り向いて一礼を行う。
そして、あの婦警の姿の女とは対照的な純粋な笑顔を向けて言った。
「初めまして、わたしの名前は六大路美千代。大日本帝国においては伯爵の称号を得ており、今でも尚、日本政治の中枢に君臨する女よ」
「待ってくれ、大日本帝国時代の人間なんて既に死んでいなければおかしい。でなければーー」
「でなければ何?人間じゃないって言いたいのかしら?」
長い金髪の髪をした少女は孝太郎に顔を近付けて問う。
彼女はわざと孝太郎の体に擦り寄り、わざと肌を密着させて彼の反応を伺う。
孝太郎は多少、顔を赤くはしていたもののその先に移ろうとはしないらしい。
彼女は気を悪くしたのか、可愛らしく頬を膨らませて孝太郎の側を離れていく。
少女はもう一度、孝太郎に向かって笑顔を向けると、
「ねぇ、あなたが幾らわたしを拒絶しようとも問題はないのだけれど、これだけは忘れないでね。ここでわたしがあなたを救わなければあなたはあの女に爪を剥がされて死んでいたわ」
満面の笑みのまま彼女は淡々と事実を孝太郎に突き付けていく。
孝太郎は先程の拷問の事を思い出す。同時に氷上に刺された人差し指の痛みが再び痛む。
それを見て彼女はサディスティクな笑みを浮かべる。
「痛いわよね?それもそうよ。人間が一番痛いのは常に先端の部分だから。足のつま先とか、あなたが今、押さえている指の箇所とかね」
得意げに人差し指を指す少女に孝太郎は人差し指をもう片方の手で抑えながら問う。
「あんたの目的は何だ?何のためにオレを助けた?」
彼女は孝太郎の問い掛けに対し、人差し指を顎の下に差したまま首を傾げて思案していく。
暫く畝った後に彼女は孝太郎に向き直って自身が出した結論を告げていく。
「面白いからよ」
今、何と言ったのだろう。孝太郎は彼女の言葉が信じられずにもう一度聞き返す。
だが、今度も帰ってくる返事は同じ。
思わず絶句する孝太郎を他所に目の前の少女は理由を説明していく。
「中村孝太郎。あなたはわたしにとって、いやこの世界にとっての重要人物。いうなれば、『キー』ね。私はねぇ、あなたの事件報告を読み続けてそう結論付けたのよ。なんて面白い人なの、と。いいや、事件の報告書なんてものじゃあないわ!あなたが産まれた時、あなたの魂が世界に降り立った時から私はそう思っていた!」
この少女はいや、六大路美千代という人物はどんな人物なのだろうか。
孝太郎は彼女の発する言葉が信じられずに小さな悲鳴を漏らしていく。
悲鳴を漏らす孝太郎の元に彼女は近付いて、耳元で囁く。
「大丈夫よ。あなたは殺させないわ」
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