魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

運命は決した

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決死の覚悟を決めた孝太郎は強かった。男の腕から回転式拳銃を奪い取り、そのまま男を地面の上に押し倒す。
指から垂れた血で赤く染まった拳で明峯の顔を叩いていく。彼は美形である事に一種の誇りを持っていたのだろう。
顔を殴られるたびに発狂せんばかりの悲鳴を上げていた。孝太郎はこのまま明峯に手錠を掛けようとしたのだが、彼はその腕を掴み、呆気に取られた表情の孝太郎を強く拳で叩く。
孝太郎はそのまま倒れるかと思われたが、何とか体を押し留め、そのまま彼の体に馬乗りになり、彼の顔を何度も殴打していく。
そして、明峯の顔が何箇所も晴れた所を見計らい、彼の右腕を掴む。
後は手錠を掛けるだけ……。そう思われたのだが、明峯は残った左手で光太郎の脇腹を叩く。
だが、孝太郎は怯まない。野獣の咆哮の様な雄叫びを上げ、明峯が怯んだ隙を見計らい彼の右腕に手錠を掛ける。
そして、最後に大きな声を張り上げて明峯の顔に強烈な右ストレートを喰らわせる。
それを正面から喰らった明峯は悲鳴を上げる間もなく地面の上に倒れ込む。
孝太郎はそれを見ると息を荒げながら、右腕と同じ様に彼の左腕に手錠を掛ける。
同時に孝太郎も明峯の上に倒れ込む。二人の体が重なるのを見て絵里子は慌てて弟の元へと駆け寄っていく。
だが、それをあの鎌を持った男が阻む。
男は両手に持った鎌をカマキリの様に振り上げて絵里子を襲う。
どうやら、浩輔が動けない所を見ると、彼は足を傷付けられているらしい。彼の足から少なくない血が流れている事に気が付く。
絵里子は残り一発しかない拳銃を向けたのだが、彼は銃口の口に鎌を当てて銃口を防ぐ。
「なぁ、あんた、日本の英雄、豊臣秀吉の子孫なんだってな?」
「そうよ。それがどうかしたの?」
「豊臣秀吉って太閤検地ってのをやらかして、農民の一揆を起こさせたあの猿の祖父だよな?鎌は農民の象徴の様なモノ……豊臣政権はその農民の手によって革命でひっくり返された。そうだよな?」
「……色々と間違ってるよ。少なくともあたしと弟が豊臣秀吉の子孫って事と太閤検地っていう単語ワード以外は全部ね」
「そうか、オレはからそう聞いたんだが」
絵里子はその言葉を聞いて思わず耳を疑う。そして、もう一度目の前の男に向かって聞き返す。
「何度も言わせるな。シリウス隊長だよ。オレはあのお方の部下だった」
彼が言うには彼は表向きは行方不明となった元ユニオン帝国竜騎兵隊の隊長、シリウス・A・ペンドラゴンの部下であったらしい。
日本における聖杯争奪作戦の時には何人かの別働隊と共に本国で留守を言い渡されていたらしい。
それが命運を分けたのは言うまでもないだろう。
シリウスは明治の時代に少年の剣士に斬られて殺された筈なのだが、絵里子はそれは間違いに思えてならない。
シリウスは今、尚も生きており、かつての部下や同志を差し向ける事でこうして宿敵となった弟を殺そうとしているのだ。
幸いにも目の前の亡霊は自分の目の前に立っている。この状況ならば予備の拳銃を召喚して倒せるのではないのか。
絵里子がそう思って異空間の武器庫から武器を取り出そうとした時だ。
亡霊の男は鎌の一本を地面に置き、絵里子の肩を掴んで笑いながら告げる。
「無駄だ。あんたはこのままオレの鎌の餌食になってもらう。そしてその後で傷を負ったあのガキとあんたの大事な弟を殺す。なるべく面白いやり方で殺してやるさ」
「……あんたって本当にど畜生ね、生憎だけれども弟を殺させはしないわ」
「へん、口では何とでもーー」
だが、男の言葉が最後まで発せられる事はなかった。彼は乾いた音が彼の会話を遮るのと同時に口から血反吐を吐き地面の上に倒れてしまったからだ。
絵里子は慌てて背後を振り向く。背後に立っていたのは銃を構えた刈谷組の顧問弁護士、桃屋総一郎の姿。
総一郎は銃を異空間の武器庫の中に仕舞うと絵里子に寄り掛かって倒れていた男を引き離し、彼の死体を見下ろしながら告げる。
「これは忠告だが、相手を甘く見ない事だ。弱い魔法しか使えないと思って相手を見下ろすのは戦いにおいてはご法度だ」
総一郎はそう言うと絵里子の右肩を触り、男が吐いた血を拭き取る。
血塗れの手を見て笑う姿に絵里子は一抹の恐怖を覚えた。やはり、この男は創成期から刈谷組と付き合っている男。
彼の本音はやはり、阿里耶とその二人の弟が猛威を振るっていた以前の刈谷組の復活。
絵里子はこの弁護士を秘密裏に殺そうかと試み、背後で血塗れの左手を眺めている総一郎に恐る恐る銃口を向けようとしたが、彼は慌てて銃を持ったまま背後を振り向く。
「私が怖いかね?それとも、私の影があるものが怖いかね?」
彼は抑揚のない声で尋ねる。
「ええ、そうよ。あなたが背負っているかつての刈谷組の幻影が怖い」
「きみとは三年来の付き合いだ。だが、それは悪い意味でだがね。この三年の間にきみやきみの弟は私の大事なビジネスパートナーを次々と追い込み、一度は組を壊滅させた。私が恨みに思っていても不思議ではないだろう?そして、その恨みを晴らすためにかつての刈谷組を取り戻したいと考えていても不思議ではないだろう?」
銃を突き付き合いながら互いに尋問を行なっていく。一歩間違えればどちらかが引き金を引きかねない。
いや、もうどちらかが引いてもおかしくはない。
そんな一色触発の状態を防いだのは右足に負った傷を両手で懸命に抑えていた浩輔の怒声。
温和で可愛らしく普段は優しい彼の怒鳴る声で両者ともにようやく互いに銃を引っ込めていく。
そして、絵里子が携帯端末を取り出し、救急車と警察を呼ぶ。
すると、十数分で両方が駆け付け、傷を負った三名と撃ち殺された一名、それに気絶したバイカーたちを担架で運び、駆け付けた制服の警察官が二人に事情を尋ねる。
二人は互いにこの一連の騒ぎを報告する。
時刻が時刻であったために、二人の事情聴取は明日へと持ち越される事になったが、絵里子はこの一件以来、刈谷組の顧問弁護士桃屋総一郎に警戒を抱く様になった。
刈谷組と対峙し続けていた彼女にとっては刈谷阿里耶その下の二人の弟、秘書の久方綾香と並ぶ悪党なのは変わらないからだ。
それは弟も同じだろう。目が覚めたのならば伝えてやらなくてはなるまい。
そう考えて絵里子は自宅へと向かう。
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