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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

マフィアとヤクザと警察と

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中村孝太郎が事件の匂いを嗅ぎ付けたときにはもう既に抗争は終了していたらしい。
例の可愛らしい顔の少年が孝太郎の姿を見かけると、大きく手を振ってほどほどに雷で焼かれた革のジャケットを着た男たちを指差す。
「こいつらだな?お前の縄張りで暴れていたバイカーどもは?」
孝太郎は倒れたバイカーの一人に手錠を掛けながら、浩輔に向かって問い掛ける。
浩輔は首肯する。そして、そのまま桃屋弁護士を呼び、彼に事情を話させていく。
「成る程、ここ最近になってバイカーの奴らが活発になったのか……」
「あぁ、時期的にはちょうど、うちの組長がお友達と一緒に事件を追っ掛けた頃だよ。あの頃から水面下でこいつらとあんたの追うカルト教団の教祖と繋がっていたんじゃあないのか?」
桃屋弁護士の問い掛けに対して孝太郎は黙って首を横に振る。
「いいや、それはない。最初にこいつらが組んでいたのはあの教団とは縁もゆかりもない鷲峰の組だよ。鷲峰の死後に大樹寺が密貿易のルートを盗んだと考えるのが得策だろうな」
「成る程、そう言えば、密貿易で思い出したが、あんたがかつてのうちの組を殆ど、壊滅にまで追い込んだ例の事件ではロンバルディアのボルジア家が絡んでいたが、何の因果か今回もイタリア半島に由来するグループが絡んでいる可能性があるな」
桃屋弁護士の言葉には明らかに恨みがこもっていた。かつての組織をほぼ壊滅に追いやられた事を根に持っている事は確実だろう。
彼には注意が必要かもしれない。が、そんな事はどうでも良い。今はともかく、そのイタリアに由来するグループの詳細が聞きたくなった。
「そいつらは具体的にどういう風に関わってるんだ?教えてくれ」
孝太郎の問い掛けに桃屋総一郎は無言で地面の上に倒れているバイカーの革ジャケットの胸元から小さなビニール袋に入った薬を取り出す。
「こいつだよ。ユニオン帝国で製造された麻薬さ。恐らく出元はデトロイトを支配するマフィア組織カヴァリエーレ・ファミリー」
「そんなバカな!?」
この時に浩輔と孝太郎の両名の声が重なる。それを耳にした総一郎は思わず首を傾げたが、直ぐにいつもの弁護士に相応しいポーカーフェイスで事実を告げていく。
「驚く事はないだろう。カヴァリエーレはまだユニオン帝国がアメリカ合衆国と呼ばれていた時代から存在した犯罪組織の一つ、最も歴史の古いマフィアと言っても良いだろう。奴らは生き残るためならば、どんな手でもーー」
「違う!彼らはそんな事はしない!」
桃屋総一郎の意見を遮った孝太郎の声は思わず囀っていた。それくらい声を張って否定したつもりだ。
だが、総一郎は「それが楽しい」と言わんばかりの笑みを浮かべて話を続けていく。
「ところがだ。彼らは2010年代の後半にはアメリカで一大抗争を引きこ起こしている。それが、ファミリーの衰退に繋がっていき、今の様な麻薬に頼るだけの情けないファミリーにーー」
「いい加減な事を言うな!」
今度は孝太郎ではない。浩輔だった。彼は自身の顧問弁護士の話を大きな声をあげて遮る。
「カヴァリエーレ・ファミリーは今のぼくが目指す理想のファミリーなんだ。それを侮辱するのは許さないぞ」
総一郎はそれを聞くとクックッと笑って懐から煙草の箱とライターとを取り出して吸う。
険しい視線を向ける二人の若者を放って彼は夜の路地の上で煙草を噴かしていく。
その目は明らかに笑っている。嘲笑の目。
浩輔は不愉快そうに眉を顰めていたし、孝太郎に至っては今にも殴り掛かりそうだ。
このままでは不味い。一色触発の状態を防ぐためにも絵里子が二人の間に割って入っていく。
そして、憤りを感じる二人の代わりに総一郎と会話を続けていく。
総一郎は敵対関係にあるはずの絵里子と何故だか快活に話を進ませていく。
そして、両者の間で何やら話を終わらせた総一郎は床に煙草を落とすと、火元を靴で揉み消しながら彼自身の結論を吐き出す。
「浩輔くんが周以後に王朝を建てた歴代の中国の皇帝の様に薄明期のカヴァリエーレ・ファミリーに憧れる気持ちや、中村刑事がヴィトとやらを尊敬する気持ちも分かるが、それはあくまでも薄明期、古き良き時代と呼ばれた時代の話だ。後になり、悪い奴が現れて悪賢く帝国を維持していったんだ。だから、今も残っているカヴァリエーレ・ファミリーの事を分かりやすく言えば、こう教えたんじゃあないか。『悪い奴ほどよく生きる』とね」
彼が口走ったのは日本が生んだ世界的に有名な映画監督が作った有名映画の題名のパロディであった。
それでも、この場を収めるには十分過ぎたと言えるかもしれない。
二人はパロディで締められた総一郎の主張に反論ができずにいたのだから。
総一郎は悔しそうな顔の孝太郎を見てほくそ笑むと、新しい煙草を味わおうとしたのだが、その前に彼が親指と人差し指の間に挟んでいた煙草が切られて彼は煙草の箱を地面の上に落としてしまう。
総一郎が慌てて辺りを見渡すと、彼の目の前には両手に鎌を構えた一人の金髪の若い男が立っていた。
カマキリの様に二本の手に鎌を持った男はそのまま両手の鎌を振り下ろして総一郎を殺そうとしたが、その前に彼に向かって浩輔が雷を飛ばした事で彼は難を逃れる。
総一郎は武器保存ウェポン・セーブの中に隠していた拳銃を取り出して両手で握りながらあくまでも冷静な声で相手に向かって問う。
「何者だ?」
返答は返ってこない。それどころか、両手に鎌を持ったまま総一郎へと向かっていく。
総一郎は拳銃を構えて二発ほど発砲したが、効果はない。
それどころか、風の様な速さで迫る彼が相手では今度は浩輔の雷でさえ意味をなさないかもしれない。
総一郎が死を覚悟した時だ。端の方から孝太郎が叫ぶ声が聞こえた。
二本の鎌を持った男は孝太郎の声に気を取られ、そのまま桃屋弁護士から彼の方へと向かっていく。
彼は真っ直ぐに孝太郎の懐へと潜り込もうとしたのだが、その前に孝太郎は右手の掌を広げて破壊の魔法を使用する。
すると、風と同化していると思われた彼のスピードは急激に失われ、一人の若い金髪の髪の男が姿を表す。
孝太郎はそのまま自分に向かってくる男の頬に強烈な一撃を喰らわせる。
男は地面の上を転がっていくが、孝太郎は容赦する事なく倒れた男の元へと駆け寄っていく。
男の正体を確かめるために。
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