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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

ザ・テロリアンーその③

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聡子は目の前の未来版の宮本武蔵とも言える男を前にどうして対処しようかと真剣に考えていた。恐らく目の前の男はあの自信に満ちた様子から二本の刀を手足の様に自在に動かせるに違いない。
加えてそれは普通の刀ではない。ライトセイバーと魔法により精製された光の剣である。
それに対し、自身が握っているのは単なる刀。戦うには些か不利かもしれない。
なので、聡子は久し振りに自身の魔法を使う事にした。
彼女は自身を例の幕で自身を覆うと、そのまま男に立ち向かっていく。
これを纏わせていれば、あの男のライトセイバーや光の剣にむざむざと斬られる事はあるまい。
聡子はそう確信していた。むしろ、男の攻撃が強まれば強まるほどに聡子自身の攻撃力が増すので聡子にとってはそちらの方が有り難い。
聡子はまず、日本刀を両手に握り、正嗣の前に刀を振るう。
正嗣はそれを背後に体を逸らして避け、代わりに一本を左斜め下に、もう一本を聡子の首元に目掛けて振るう。
聡子は慌てて背後へと飛び、それを交わす。
間一髪でかわせたかと思ったその時だ。
が、正嗣は彼女を逃がさない。そのまま二本の光の刀を聡子へと向かって喰らわせていく。
今回はたまたま正面から突いてきたので刀一本で防ぐ事は余裕だった。
聡子の持つ刀に大きな火花が散る。そればかりではない。刀を持つ両手に大きな負担が掛かっていく。
思わずに悲鳴を上げたくなるほどに痛いものである。
聡子の表情を見たのか、正嗣は勝ち誇った様な表情を浮かべながら、二本の光の剣を振っていく。
「どうした!?どうした!?さっきまでの勢いは!?オレを逮捕するんじゃあなかったのか!?」
「うるせぇな、今、それをやろうとしてんだろうが!」
聡子はそう言って目の前から刀を振りかぶっていく。大きな刃が空を切りながら、正嗣の目の前に降り掛かっていく。
が、正嗣はそれすらも二本の刀を用いて防ぐ。顔に浮かぶのは余裕。
まるで、テレビゲームで既に勝ちが確定しているかの様な、テストの難問を難なく解き明かした優等生の様な笑みだ。
聡子が思わずその表情を恐れていると、彼は懸命の思いで二本の刀を防いでいる聡子の足を蹴り、彼女のバランスを崩す。
バランスが崩れて地面の上に倒れそうになる聡子の頭上にテロリストの男はライトセイバーの剣先を突き付けていく。
このまま死ぬのかと聡子が目を瞑った時だ。不意に聡子の体は宙に飛び、地面の上を転がっていく。
一瞬、聡子は首を傾げたが、先程まで自分が立っていた場所を見ると、自身は蹴られたのだと理解した。
そればかりではない、代理の人間が亀岡正嗣と対峙している事も。
聡子は居ても立っても居られずに代理の人物の名前を叫ぶ。
「明美!やめろ!無茶するな!」
そう、彼女の友人にして会計係の倉本明美ある。彼女は手周辺のバリアーで亀岡の剣を防ぎ、殺されそうになった聡子を救出したのだった。
が、彼女は聡子や孝太郎の様に犯罪者と戦うタイプの人間ではない。
それに、もしもの事があれば……。聡子はもう一度、彼女の元へと駆けていく。
文字通りに、手を震わせながら剣を防ぐ明美を押し除け、聡子は刀を振るう。
なんとか、亀岡の剣を弾き、明美に向き合う。
「明美!?無事か!?」
「あ、あたしは大丈夫だよ。それよりも聡子ちゃん!あなたこそ大丈夫なの!?」
「あたしを甘く見るなよ。これくらいの敵はチョチョイのチョイでやっつけてやるぜ」
「ほぅ、そいつは光栄だッ!」
剣を弾かれて一瞬は反り返っていたものの、途中で踏み止まったのだろう。
亀岡は今度は聡子へと剣を向けていた。
そればかりではない。それまでは控えていた筈の光線までも両者に向かって浴びせていく。
明美はそれを手を利用して作り出す小さなバリケードで防ぎ、聡子はそれを利用して彼女と共に光線を交わす。
亀岡を舌を打ち、聡子にもう一度光線を喰らわせていく。
だが、聡子はその光線が何処から来るかと予測していたかの様に華麗に身をかわしていく。
そして、そのまま亀岡の懐へと踏み込む。
一方で、彼も剣には自信のある人間。光線を避けられた事には衝撃を受けたものの、それで動揺して剣の腕を落とすほどではない。
彼は二本の剣で聡子の剣を防ぎ、このまま逸れようとしていた。
だが、聡子はそれを許さない。彼女は直前で刃を峰に変え、真っ直ぐに振り上げていた刀を下げ、横一直線に彼の腹にそれを喰らわせる。
亀岡正嗣は慌てて腹を守ろうとしたが、時既に遅しというやつだろう。
彼は刀を喰らってそのまま地面の上に倒れ込む。
聡子はそれを見て地面の上で伸びているテロリストの剣豪に向かって告げる。
「あんたは確かに強い。けどね、咄嗟の判断に弱いのは剣士として致命的だよなぁ、あんたは良い腕と精神力を持っていたんだから、それを活かさないとサ」
聡子はそう言うと刀を武器保存ウェポン・セーブの中に仕舞う。
それから、心配そうな顔で見守っている明美に向かって手を振る。
そして、互いに無事を確認し合って抱擁を求める。
「良かったぁ、聡子ちゃんが無事で」
「あぁ、心配かけたな」
その姿は美しかった。聡子はさながらの御伽噺の王子様で、明美は囚われのお姫様或いは通り道でチンピラに絡まれていた少女という所なのだろうか。
孝太郎と絵里子の姉弟もそう感じたのか、顔に微笑を浮かべながら手を叩く。
それを聞いてようやく聡子は明美を離し、孝太郎に向き合う。
「孝太郎さん、あたしようやく倒したよ!」
「あぁ、よくやったな。聡子」
孝太郎は彼女に向かって微笑んでから、地面の上に倒れる両者を見ていく。
片方は死に、片方は気絶。やはり、自分が関わるのは良くないのだろうか。
孝太郎がそう考えていた時だ。彼の元にある人物が現れる。
その顔は忘れられない。そう、バプテスト・アナベル教の幹部、藩金蓮の姿。
孝太郎は嫌悪の色を隠す事もなく藩金蓮へと向き合う。
「何の用だ?」
「この事件を引き起こしたのはあなた達でしょ?」
孝太郎はその問い掛けに対して思わず首を傾げる。
「……質問の意味が計りかねる。どうして、急にそんな事を言い始めた?」
「惚けないでよ!この爆破を仕掛けたのはあなた達警察と被害者の会だと言っているのよ!」
「言いがかりはやめてもらおう」
孝太郎はそう一蹴したが、藩金蓮が引き下がる様子は見えない。
どうやら、持久戦になりそうだ。
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