魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

テロリストとカルト教団の対決

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それは僅かな時間、僅かな隙を突いて行われたものであった。
直前までその事件の登場人物は数分後の自分の行動を予想だにしていなかったに違いない。
中村孝太郎は教団の近くの宿泊施設で書類仕事を行っていたし、大樹寺雫は外遊の疲れを見せる暇もなく信者に的確な指示を送っていく。
いつも通り、膠着した状態が続く様に思われた。その時だ。
突如、大きな音が轟き、同時に大地を揺れ動かしていく。
誰もが地震かと疑ったのだが、それ以後は揺れる事がなく地面は安定していた。
焦った人々が状況を把握すると、どうやら爆発が起きたらしい。
先程の衝撃や音はそれが要因であったらしい。
その上、爆心地は教団の本部。孝太郎は旅館から仲間を伴って飛び出すのと同時に、近隣の警察署に呼び掛ける。
「早く応援を呼んでください!このままあの女にまた人を殺させていいんですか!?」
ただならぬ表情の孝太郎に察するものがあったのだろう。近隣を通り掛かった中年の警官が慌てて銀色の自転車を蹴り、警察署へと戻っていく。
孝太郎は応援を呼ぶ暇も待ち遠しいとばかりに仲間だけを連れて教団の本部へと向かう。
大樹寺雫の手に手錠をかけるために。











「教祖!我がご主人様マイ・マスターご無事ですか!?」
大樹寺雫は突然の事に頭の処理が追い付いていない。何故、自分が瓦礫の下に埋もれ、自分の王国が木っ端微塵に砕かれているのか、今の彼女には理解できなかった。
この瞬間ばかりは瓦礫の下から弱々しく手を伸ばし、助けに現れた藩金蓮に縋るより他ない。
瓦礫の下から助け起こされた雫は焦げ跡のついた服を着る藩金蓮に状況を問う。
藩金蓮は深刻な顔で雫の問い掛けに答える。
「残念ながら、ここは壊滅状態です。今、現在は生き残った信者たちが瓦礫の除去作業にあたっています」
「……分かった。わたしも信者たちを救おう」
爆破の時に付いたと思われる焦げ跡や建物の下敷きになった際に付いた傷の目立つセーラー服のまま雫は救助活動に向かおうとしたが、足が言う事を聞かない。
前へ前へと動かそうとしても、何故かつま先が地面の上に倒れてしまう。
いや、つま先ばかりではない。体全体が脳の言う事を聞かずに地面の上に倒れ込む。
それを慌てて支える藩金蓮。雫は自らを支える敬虔たる信者の姿を垣間見る。
思えば、藩金蓮は服こそ焦げ付いているものの、目立った外傷はない。
だから、携帯翻訳機も壊れずにこうして会話が交わせているのだろう。
雫は彼女に抱き抱えながら、優しく地面の上に降ろされる。
その後に彼女は背中の痛みに耐え切れず、藩金蓮に背中を確認してもらう。
すると、どうだろう。彼女の背中に小さな壁の破片が突き刺さっていたのだ。
藩金蓮は彼女をそのままうつ伏せに寝かせていく。
24世紀の今日においても刃物の大量出血を防ぐのはこの方法が一番的確であるらしい。
彼女は横になれた事にホッとして頭を抑えると妙に頭が生温かい事に気が付く。
雫が恐る恐る手を離すと、そこに付いているのは血液。
まごう事なき雫の血だった。彼女は思わず目を丸くしたが、直ぐにその手を地面の上に置き、地面をティッシュペーパー代わりに血を拭いてから、大樹寺雫とは思えない程の弱々しい声で藩金蓮に指示を出す。
「いい、今はあなたがわたしの名代。あなたの口から出る言葉は全てわたしの命令……いい?」
「勿論です。我がご主人様マイ・マスター
「ならいい、それを踏まえた上であなたは救助作業にあたりなさい。一人でも救える信徒を救える様に」
藩金蓮が頭を下げてその場から立ち去ろうとした時だ。
「随分と弱っているじゃあないか、大樹寺雫」
「孝太郎!?」
雫はいつもとは違う低い声で応対したものの、その直後に傷に染みたのか痛そうな素振りで体を動かす。
「なんだ、今日はいつもの余裕はなしか?最も、そのボロボロの状態では余裕も抵抗する気力もなさそうだがな」
「……へん、あんたこそ何様よ。ずっとあたしをつけ狙って気持ち悪いったらありゃしないわ!」
「本性を表したのか?まぁ、仕方ないさ。今回のテロは前のよりお粗末だからな」
「ゴホッ、ゴホッ、黙れ、今回の事件はわたしは何も関与していない」
雫は演技ではなく本当に口から血を吐き出しながら否定したが、生憎、突然の来訪者はそれを演技と捉えたらしい。
孝太郎は冷ややかな視線で地面に横たわる教祖を見下ろしながら、
「お前は昌原とは違うと思っていたが、多少買い被っていたらしいな。自分の犯した罪を否定するとは」
「黙れ!ゴホッ、ゴホゴホ」
雫は血反吐を盛大に地面の上に撒き散らし、地面の上に突っ伏す。
藩金蓮はのっぴきならぬ事態と判断し、彼女の代わりに孝太郎に向き直る。
「あなたが誰なのかは知りませんが、これ以上、我が指導者にいらぬ中傷を浴びせる様ならば、あたしが許しません」
藩金蓮は鋭い眼光で孝太郎を睨む。
だが、孝太郎は怯むどころか、それを鼻で笑って、
「許さない?許さないならばどうするつもりだ?オレに武器を向ければ、その時点でーー」
孝太郎の挑発は藩金蓮が勝手に動き、弱った教祖を両手に抱えて勝手にその場から立ち去る事により潰えてしまう。
孝太郎が疑問に感じ、背後を振り向くとそこには全身黒いアーマーに身を包み、突撃拳銃を持った二人組の男が立っていたのだから。
孝太郎は二人組に気が付いて慌ててその場を離れた。
銃弾は先程まで孝太郎が立っていた場所に雨霰の様にめり込んでいく。
孝太郎は銃を避けながらも、この二人組の持つ武器を見抜く。
武器は恐らくロマノフ帝国製の突撃銃。防備は北京製のアーマーなのは間違いあるまい。
まるで、かつての日本人民解放連合軍の様だ。
日本人民解放連合軍。今より50年前の日本に存在した過激派組織。
シリウスの様に皇帝や王を憎悪し、嫌悪し、日本のみならず世界各地でテロを引き起こしたテロリスト界の大物。
だが、今や各国の連携によりその姿は完全に潰えたと思われたが……。
「生きていたのか」
推論を成り立たせるのと同時に、孝太郎は無意識のうちに言った。
と、彼は即座に武器保存ウェポン・セーブから銃口を向けながら二人組の男に向かって問い掛ける。
男二人は返答の代わりに、孝太郎に向かって銃弾を浴びせていく。
孝太郎は慌ててその場から去り、彼らの足元に向かって銃を放つ。

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