魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

ホワイト・ウルフの牙を取れ!後編

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「私のために王を殺せ、皇帝を皆殺しにしろ、そして、私こそが真の世界のただ一人の皇帝に相応しいという事を大々的に伝えるのだ。良いな?」
「勿論です!至高の御身!この世に現れたたった一人の救世主様!それが、貴方様です!」
「流石だ。ニルベル……やはり、お前こそ私の見込んだ女よ」
ニルベル・アウンゴールは敬愛する世界でただ一人の皇帝、シリウス・A・ペンドラゴンの宮殿(最も、単なる一軒家なのだが)に招かれ、彼の寵愛を受ける皇后、シャーロットの手料理を振る舞われた後にわざわざ黒のタキシードに着替えた彼の足元で跪き、彼にその長い黒色の髪を触られながら、恍惚の笑みを浮かべながら、そのやり取りを行なっていた。
シリウスは言葉を交わし終えると、そのままニルベルの頬を優しく撫でながら、彼女の首元を優しく吸う。
「あぁ、御身……至高にして偉大なるお方よ」
「ふふ、愛い奴よ」
シリウスはそう言うと更に彼女の髪を優しく撫でていく。ひとしきり愛撫を終えると、彼は彼の部屋の玉座に座り込む。
それから、煙草を取り出し、彼女にも勧める。
普段はニルベルは煙草などは吸わない。が、この時ばかりは別。
与えられた煙草を手に取り、口に咥える。
それに、わざわざシリウス本人が火を付けるというサービスまで付いたのだ。
彼女は喜ばずにはいられない。シリウスは彼女と共に煙草を吸うと、彼女の耳元でもう一度、呪文の様に囁く。
「私のために王を殺せ、皇帝を殺せ、私をただ一人の絶対的な権威にし、私をただ一人の絶対的な権力者にせよ」
ニルベルはその言葉を心の奥底に深く刻み込む。そして、一年後の今日に至るまで彼女は一字一句たりとて忘れていない。
ニルベルはそのためにこの一年の間、王や皇帝を狙い、気が付けば世界を騒がせる大テロリストになっていた。
が、結局のところ彼女の行動は意味をなしていない。
と、言うのも彼女は王や皇帝は殺すもののその一家には手を付けず、容易に次の王や皇帝を生み出させていたからだ。
そう、彼女の頭の中にあったのは王や皇帝だけ。
シリウスから『その一家や一族も皆殺しにしろ』と言われなかった事が幸運だった。
一方のニルベルはそんな事など構う事なく、この国の皇帝を殺すために衝撃波を何発も放っていく。
それに対抗する様にブーメランを飛ばす、トニー。
殺し屋とテロリストとが互いにぶつかり合い、銃を構えて相手の命を狙っていく。
ニルベルはすれ違い様にトニーの魔法をトニーの力の中で溢れさせようと試みたが、彼の魔法が発動し、その魔法は彼自身の体自身に放たれるのと同時に、殺されてしまう。
ニルベルが唇を噛み締めるのと、トニーが彼女の懐に突撃銃を突き付けるのは殆ど同じタイミングであった。
「ぐっ、くっ……」
「終わりだ。ミス・皇帝殺しエンペラー・スレイヤー。地獄でキミの不運を祈るんだな」
トニーが引き金を引こうとした時だ。ニルベルは衝撃波を作り出し、彼の懐に食らわせよう試みる。
異変に勘付いたトニーは咄嗟に地面を蹴り、その場を逃れる事に成功したが、ニルベル本人は逃がしてしまう。
「やれやれ、厄介な相手だ」
トニーは思わず愚痴をこぼす。が、彼はめげる事なく銃口を構える。
そして、ニルベルに向かって容赦なく銃を放っていく。
ニルベルはその場を素早く離れるのと同時に、橋の元へと急ぐ。
ついに彼女はトニーから逃げる事を選んだのだろう。
そうは言っても簡単にはいかない。何故ならば、橋の上にはまだ白籠市のアンタッチャブルが並んで彼女を待ち構えていたのだから。
孝太郎と絵里子は互いに銃を構えてニルベルを迎え撃つ。
ニルベルはそれを見るのと同時に、それまでの快進撃をやめ、橋の上で足を止める。
「そこを退け、今ならば至高の御身に命じて、貴様を殺すのはやめてやろう」
「至高の御身?わざわざ、明治の時代に殺されたあいつがか?本気であいつを信奉しているんなら、悪い事を言わないから、やめておきな。所詮、あいつは小物よ。小物」
それを聞くのと同時に、ニルベルの表情が変わる。血管が出て、顔を歪ませて孝太郎へと飛び掛かっていく。
許さない。楽に殺してやるものか。ニルベルは右手の掌を広げて、孝太郎と絵里子の両名に例の魔法を喰らわせようと試みたが、絵里子の方は咄嗟に孝太郎が突き飛ばしたために、攻撃を受けるのは孝太郎のみになってしまう。
このまま痛みに悶えて死ね。ニルベルはどうしようもない高揚感に襲われたが、その最中に足に痛みを感じて地面の上に落ちてしまう。
誰だろう?目の前を振り向くと、そこには突き飛ばされたはずの女がいた。
彼女は銃口を突き付けながらニルベルに向かって言った。
「残念ね、テロリストさん。孝ちゃんのあたしの弟が扱う魔法は破壊。ありとあらゆるものを破壊する最強の魔法よ」
「ば、バカな!?魔法が二つ使える奴がいるなんて……」
「私がそうなんだがね、まぁ、この世に魔法を二つ扱える人間は少なからず存在するよ。私や彼がそうだ」
ニルベルは歯をギリギリと鳴らしながら、背後を振り向く。
そこには銃を構えたトニーの姿。
「さてと、キミの死刑執行の時間が来たようだ。お嬢さん」
「ま、待て!わたしを殺せば、シリウス陛下の意思を継ぐ者が居なくなるぞ!」
「逆に聞くが、そんな事を遂行してほしい人間が何処にいるのかね?」
トニーの問い掛けを聞き、慌てて辺りを見渡すニルベル。
周囲には死体と物言わぬ四人の刑事の姿だけ。
ニルベルはやむを得ずに命乞いの方法を変える事にした。
「ま、待て!わたしを殺すのが法治国家のやり方か!?わたしには裁判を受ける権利がある!」
「このままキミを殺した方が良いと日本政府から言われているからねぇ。キミのテロの犠牲者は世界各地にいる。その誰もが自分の国の王や皇帝を殺され、怒っているからね。何処が引き取るかで絶対に揉めると思うんだ。だから、この場で殺した方が得策なんだよ」
トニーはそれだけ告げると、既に何も言わなくなっていたニルベルの頭に向かって引き金を引く。
ニルベルの頭は銃弾を喰らった直後には激しく動いたが、やがて橋の上に横たわっていく。
トニーはそれを見届けると、銃を異空間の武器庫に仕舞う。
そして、孝太郎たちに一礼して、その場を去ろうとしたが、その前に孝太郎から背後から呼び止められる。
「待て!今回はお前と共闘したが、許したわけじゃあないぞ!必ずお前を捕まえてやる!」
「その意気だ。流石は孝太郎くんだ」
トニーはそう言うと手を振ってその場から去っていく。
孝太郎はトニーが去っていくのを消えるまで黙って見届けていた。
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