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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

ホワイト・ウルフ〜伝説のテロリスト、日本に現る〜

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「申し訳ございません!教祖様にあの様なご無礼を……この呂蔡京ッ!死んでも死に切れません!何卒、私めの組織をあなた様の信者に……」
「構わない。私は別に気にしていないから」
雫の言葉は本当だった。彼女は元より、呂蔡京を気に入っていた。彼が接触してきたのはコネクションの一端を彼女の教団が担ってからである。
当初、彼は雫と雫の教義を嫌い道教を用いて彼女に論戦を挑んできた。
だが、雫は彼が挑んできた論点の一つ一つを論破し、困惑する彼に自身の教義を説いたところ、彼は瞳から涙を溢し、教団に信者として入団したのだった。
彼は出家を希望したが、雫がそれを押し留めた。トライアングル・コネクションを利用して“聖戦”の資金を稼ぐ間は在家に留まる様に指示を出したのだ。
彼は敬愛する教祖のいう事を受け、在家のまま教義を学ぶ選択を取った。
こうして、呂蔡京は中華大陸の裏社会を牛耳るマフィア組織のボスにし、バプテスト・アナベル教の最も熱心な在家信者と化したのである。
それはコンスタンス・カヴァリエーレも同じ。
コンスタンスは幼い頃に双子の妹を亡くしていたらしく、それをずっと気にしているのだという。
彼女の発動した魔法『業と罰ゴースト・リテンプション』は妹の死を切っ掛けに習得したのだという。
雫は携帯翻訳機を扱いながら、この会談の最中に自身の教義を説いていく。
コンスタンスは彼女の教義を聞くうちに、すっかり教義の虜となり、感涙の涙を咽び泣く。
そして、雫の手を握り、教団への入団を決意したのだった。
結果としてこの日、彼女は命を狙われ、いつものしつこい刑事に睨まれるという不運もあったものの、コネクションの両端を担う二大組織のボスを懐柔させ、自らに有利なルートを通す事に成功したのだった。
それどころか、呂蔡京とコンスタンス・カヴァリエーレの両名は本国での布教を約束した。
いずれ、雫も本国に呼ぶつもりでさえあるという。
更に雫に嬉しい誤算が起きた。両名は教祖を手ぶらで帰すのは悪いと、教団に多額の寄付金を渡し、帰国していったのだった。
寄付金は両者合わせて日本円で一億円は下らない。
早速、雫はその金を教団の拡大に利用していく。
教典の出版に講演のための施設の賃貸料、武器開発や建物開発にそれらの金は消えていく。
それだけではなく、雫は教団を売り込むためにもその金を使った。
世間での誤解を解くために、彼女はテレビ局やインターネット界に自身を売り込ませ、『悲劇のヒロイン』である事を大々的に宣伝させた。
それは莫大な効果を生み、僅か一ヶ月の間で彼女はかつての人気を取り戻していく。
その間にもトライアングル・コネクションの利益は入るから、雫にもはや怖いものなど何もないという。
いや、一つ気がかりな事はある。それは、あのテレビ局での接触以来、姿を見せないあの刑事の事だった。
思えば、あのルートを巡って彼女が衝突するのは常に日本の暴力団。
日本の警察と事を構える事は少なかった。それが、彼女には不安だった。
そんな時だ。教団内において新しく幹部に就任した横尾中也という人間がもたらした情報は彼女を驚かせた。
「警察がスパイを?」
「ええ、あくまでも噂の段階ですが……」
雫はそれを聞くと執務室の机の上で腕を組んで思案していく。
猜疑心を持ってかかるべきか、一蹴するべきか。
だが、スパイの噂はどちらに転んでも失敗に終わり、教団の瓦解に繋がるリスクが高いという事だろう。
ここで雫は戦国時代の名将、毛利元就に倣う事にした。
彼女は『ホワイト・ウルフ』と呼ばれる匿名のテロリストを利用し、彼もしくは彼女が自分たちと手を組んでテロを起こすという偽の情報を流し、今週末に渡るアメリカ渡航の邪魔をさせないための情報を流すという作戦だった。
実際に『ホワイト・ウルフ』は酷く馬鹿げた理由で日本に上陸するのだから嘘ではあるまい。
『ホワイト・ウルフ』は匿名のテロリストであり、一年前に出没して以来、世界各地の皇帝や王を狙ってテロを起こしていたという。
日本の伊勢皇国に住む皇族を狙い、上陸するという情報を教団に流したのはコンスタンスの部下であった。
彼女はその情報をどう利用しようかと悩んでいたのだが、良い使い道を思い付いた。
早速、テロリストと組んでの聖戦というデマを教団内に流す様に伝える。
これで、警察や孝太郎の目は『ホワイト・ウルフ』に行き着く筈だ。
雫は口元を僅かに緩めた。












「ホワイト・ウルフと奴らが手を組む可能性があるのか?」
孝太郎は署内に存在する自分たちの部署の部屋の中で教団に潜入した友人であり、スパイである竹宮慎太郎と連絡を取り合っていた。
彼が言うには、国際テロリスト、ホワイト・ウルフとバプテスト・アナベル教が手を組んで伊勢皇国でテロを起こすという事らしい。
孝太郎は慎太郎から聞いた情報に少し引っかかるものを感じながらも、伊勢皇国への防備を固める様に上に提案する。
流石の警視庁も教団内に侵入した勇気あるスパイの言葉は信用するに値するらしい。
伊勢皇国に侵入するための道路はたちまちのうちに封鎖され、厳重な警備が敷かれた。
皇国警察の力も借り、ネズミ一匹通さない程であったが、それでも不安は残る。
上空には警視庁のヘリが飛び回り、地上には機動隊さえ待機していた。
何の不安があるというのだ。これ程までに厳重だというのに。
孝太郎と仲間たち三人は伊勢皇国に侵入する正面の道路を守る場所に配置されていた。
このまま何も起きない。そう願っていたのだが、ついにその時は訪れた。
目の前に全身を黒色のアーマーで覆い、顔に同じく黒色の防毒マスクを纏った性別不明、国籍不明の人間が現れた。
正体不明の人間は呆然としている警官たちに向かって軽機関銃を手にし、彼ら彼女らに銃弾の雨を浴びせていく。
仲間たちは孝太郎が文字通り、自身を鎧で固める魔法を使用して身を挺して守っていたので、犠牲にはならなかったが、他の警官たちは何も言わずに地面に倒れていく。
国籍不明の人間は死体の山には目をもくれずに、今度は自動拳銃を取り出し、孝太郎に向かってそれを放つ。
孝太郎はそれに対抗する様に、武器保存ウェポン・セーブから同じ様に自動拳銃を取り出し、テロリストを迎え撃つ。
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