魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』

トライアングル・コネクション

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ジュリオ・カヴァリエーレは言うなれば三角の一番大きな場所を担ういわばコネクション内の中枢メンバーの一人であった。
本来ならば、彼は自身の薄暗くてもガラスの付いた立派な本棚に囲まれた執務室で気持ちよく仕事をしなければならない。が、彼は今はそれどころではないらしい。
と、言うのも他でもない。日本にてコネクションを担う人物の変更である。そうは言っても新しく取り扱う人物の人物自身に不満はない。問題はその組織。本業のマフィア組織ではなく、宗教団体なのである。
宗教団体が麻薬の一大コネクションの一端を担うなど聞いた事がない。
加えて、そのコネクションの大元である北京人民解放連盟のニコラス=呂までもがその宗教団体に入ってしまうとは。
ジュリオは両眉を顰めなが、引き出しの中にしまっていた葉巻を吸う。
両親から受け継いだ葉巻は彼の好物であった。彼は革張りの椅子に深く腰を掛け、葉巻を吸っていく。
そしてある程度、葉巻を吸い終わえて満足すると、口から白い煙を出していく。
葉巻を吸うのがジュリオの一日の楽しみであった。ジュリオは葉巻を吸い終わると、携帯端末を使用して部下を呼び出す。
通話に出なくても良い。バイブ音さえ鳴れば、部下はやってくる。
現れた黒色のツーピースのストライプスーツの男はジュリオに向かって用件を尋ねる。
ジュリオは一々喋らなければ、用件も分からない無能な部下に向かって言ってやる。
「日本の大樹寺雫について調べろ。こんな世間も知らないアルプスの少女みてーな純真そうなお嬢ちゃんに務まるのかがおれは不安でね」
ジュリオの指示を聞くと、部下の男は深々と頭を下げて部屋を後にしていく。
三日の時間が経った後に、部下の男はそのコネクションを担う人物についての情報を持って現れた。
大樹寺雫の情報が纏められた書類をジュリオに手渡し、ジュリオは写真が纏められた書類に目を通していく。
ジュリオは渡された書類を時に冷笑し、時に眉を顰めつつ読み終えていく。
読み終わった書類を机の上に置いて、彼自身の考えを部下に向かって告げる。
「な、し、だ。悪いが、今後の『トライアングル・コネクション』はおれじゃあなく、別の人物にやらせろ。あまりにもリスクが大きすぎる」
部下の男はボスの言う事が理解できずに聞き返す。
が、返答は同じ。やむを得ずに彼はボスに理由を問う。
ジュリオはそれに対して一言だけ告げる。
「勘だよ。こいつにだけはぁ、関わっちゃあならねぇって、おれの勘が告げてんだ。仕舞いにはおれのファミリーが貧乏籤を引いて、破滅しかねぇってな」
ジュリオの指示を聞き、部下の男はその決意をコミッションに伝える。
コミッションはジュリオが次々と力を付ける事に脅威を感じていた事もあり、それを素直に受け入れ、代わりにコミッションの有力マフィアのサラ・ザビアニを後任にあたらせようとしたのだが、その前にある一人の手を挙げた事により、それは頓挫してしまう。
手を挙げたのはジュリオ・カヴァリエーレの実の妹、コンスタンス・カヴァリエーレであった。
古臭いワンピースにボサボサの黒い髪の少女は到底、美人には見えない。
それでも、全員がこのコンスタンスには一目置いていたし、何より、彼女がしくじればそれを名目に勢力を伸ばしつつあるジュリオを叩き潰す事が出来る。
コミッションの見解は一致し、ジュリオの任を解く代わりに、彼女をその後任にあたらせたのだった。
ジュリオは彼女を阿呆と見下していたので、余計な手出しをする事なく彼女を独立させ、補佐だけを派遣させ、その任務を代行させる事で自身はその責任から逃れる事に成功した。
コンスタンスはそんな事も知らずに、日本における『トライアングル・コネクション』の新たなる責任者である大樹寺雫の元へと向かう。











「あの、あたしは試験の時のプレッシャーに弱いんですけれども、どうしたら良いでしょうか?」
「問題ない。わたしも試験ではそうだから。けれど、あなたが苦しむのは見ていられない。なので、わたしが良い方法を教えてあげよう」
雫は腹式呼吸を用いた深呼吸の方法とリラックスする時に連想する事を想像する事を教え、一般人である同い年の学生の質問に答えていく。
何故、こんな事をしているのかといえば、雫がテレビのバラエティ番組にゲスト出演し、テレビ番組に集まったゲストの人たちの質問に答えるというものであったからだ。ちなみにこの後にはコンスタンス・カヴァリエーレとの夕食会談が控えている。なので、延長はできないと局側にも伝えているので、余程の事がない限りは次の質問で終わりだろう。
雫はそう思いながら群衆の中に紛れた刑事を見やる。
あの刑事は相変わらずしつこい。どうしてやろう。雫が身構えそうになった時だ。肩を優しく叩かれて、
「いやぁ、流石だねぇ、天才少女は違うねぇ」
「そうそう、おじさんびっくりー。なんたって~」
と、バラエティ番組の司会を司る二人のお笑い芸人の男が雫を弄る。雫はそれに伴って年ごろの少女の様に恥ずかしそうに下に俯く。
当初は非難があったテレビ番組出演であったが、このテレビ番組が盛り上がる頃にはそんな非難の声も鳴りを潜め、このまま絶頂のままテレビ番組が終わるかと思われた時だ。
お笑い芸人の男が最後に一人の赤い肌をした青年を指した事により、雫の表情に翳りが見えた。
お笑い芸人に指された赤い肌の男は雫に向かって微笑むと、何も言う事なく質問を行う。
「おれは刑事であり、多くの人を犯罪から守る事を生き甲斐にしています。ですが、最近、それで迷っている事が増えまして」
「と、言うのは?」
お笑い芸人の問い掛けに孝太郎はひどく深刻そうな顔を浮かべて答えた。
「はい、あまりにも敵が強大過ぎるんです。奴らは魔法使いマジシャンであり、怪しげな超能力エスパーを用いて、人々を自らの手脚として使います。人々を怪しげな魔法で蝕む魔女を倒すのにはどうすれば良いのかをおれに教えて欲しいんです」
孝太郎はそう言って目の前に立っている雫を強く睨む。予想外の質問に困惑した笑顔を浮かべる司会二人。
このまま何も言わずにお通夜ムードになるかと思われたのだが、あろう事か雫はその質問に堂々と返す。
「……成る程、それは大変ですね。でも、わたしなら絶対に手を引きます。だって、あなたの言う魔女は本当はただの女なのですから。あなたからはそう見えるだけでしょう。まずは偏見に満ちた主観を捨てる事が先決だと思います」
「ありがとうございます。それを聞くと、おれはますます引けなくなりました。あと、偏見に満ちているかどうかは分かりません。所詮は他人から見た自分ですからね。自分の事は自分が一番よく知っていますから」
孝太郎はそう言うと丁寧に雫に向かって頭を下げる。
雫はそんな孝太郎を睨み返す。これはまさに、光と影の互いの宣戦布告の合図だった。
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