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第七部『エイジェント・オブ・クリミナル』
コネクションの新たなる一端
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「納得がいきません!」
中村孝太郎は本庁の警視総監に直訴を行なっていた。本来ならば、一警察署の刑事ごときが面談をして良い相手ではない。
だが、孝太郎はそれを「警視総監に会わせるか、オレを殺すかしろ!」と必死の直訴を行なったために、彼は何とかして面会にこぎつけたのだ。
だが、当然、警視総監の態度は芳しくない。
彼は目の前の若い肌の刑事に詰め寄られたとしても、慌てる様子を見せる事もなくただ、漠然とした様子で彼を見下ろしていた。
「何回も言っているだろう。大樹寺雫は不起訴だ。彼女がテロを行なっていたという明確な証拠はないからな。状況証拠だけで有罪にする難しさは刑事のキミが一番知っている筈だろう?」
「ですが、オレはあいつのビルに招かれ、そこでテロの計画をーー」
「証言だけではねぇ、日本は原則として証拠の提示が優先されるんだ。紅林の件で嫌という程ーー」
「そんな事を言って、責任から逃れたいだけなんじゃないですか!」
孝太郎は激昂して机を叩き付けたが、老齢の警視総監は眉一つ動かさない。
流石は現、警視総監。伊達に一代でここまで成り上がってはいない筈だ。これ程の堂々とした神経がなければここまで上り詰めるのは不可能だろう。
だが、ここで引いてはいけない。孝太郎は下の唇を噛み締め、警視総監にもう一度、大樹寺雫の捜査を行う様に叫ぶ。
だが、警視総監は首を横に振って、
「いいや、それは無理だ。大樹寺雫はビルの爆破とは無関係。あれは周りの信者たちが勝手にやった事だという証言も取れている。証拠も揃っているんだ。見るかね?」
孝太郎は首を横に振る。そんな証拠などどうせ、後から改竄したものに違いないからだ。
孝太郎は悔しい想いを抱えながら、頭を下げてその場を後にしていく。
孝太郎は扉を引いて警視総監の部屋から立ち去ろうとしたが、その前に背後から声を掛けられた。
「待ちたまえ!キミらが今後、大樹寺雫とその教団に関わる事は許さん!」
孝太郎はそれを聞くと扉の引き出から手を離し、再び警視総監に向き合う。
「どういう事ですか?」
「話の通りだ。バプテスト・アナベル教とその教祖、大樹寺雫には今後、関わるなと言っておるのだ!」
「何故です?」
孝太郎は怒りを押し殺し、努めて冷静な声色で尋ねた。
「これはさる高貴なお方からのご命令でね。警察が関われば、話が拗れてしまうそうだからな。キミは野党の大物政治家の息子だからな。多少はお父上の便宜で命は免れるかもしれないが、これ以上関われば、お父上の便宜もーー」
「父には縁を切られています。なので、その父が便宜を図る事はあり得ません」
孝太郎はそう言うと黙って扉を閉め、警視総監の部屋を後にした。続いて、彼は警察庁、連邦捜査局など次々と国内の警察機関をあちこち巡っていったのだが、大した成果は見られない。
どこのトップも『さる高貴なお方の命令』としか言わない。
孝太郎はそれを聞いて思わず拳を強く握り締める。
ふざけるな。あの女の身勝手なテロにより殺された人たちの命よりもその女の都合の方が大事なのか?
孝太郎は思わずそう叫んでしまいたい衝動に駆られた。が、彼は理性でそれを抑えて目の前へと進む。
今度こそ、あの狂った教団を捕まえるために。
「わたし達は路線を変更しようと思う」
大樹寺雫は自身の座る円卓の机の周りに幹部を集めるて座らせると、そう告げた。
教祖の予想外の発言を全員が耳に挟むのと同時に、幹部たちの視線が一斉に雫へと突き刺さっていく。
中には目を大きく見開いている者さえいた。雫はそんな彼ら彼女らのやり方を見越してか、淡々とした様子で肝心の言葉を紡ぐ。
「『大和民族浄化計画』……これ自身は変更しない。ただやり方を少し変えるだけ……」
「教祖、やり方というと?」
新たに幹部として上げられた富高総馬が尋ねる。富高は教祖には及ばないものの、若い年齢の幹部であり、元来から新しい物好き、アニメ好きという事もあり、その発想は従来の年老いた幹部よりも柔軟であった。
「テレビに出たり、わたし自身がバラエティに出たり、政治の世界に出馬したりするという言うなれば柔軟路線……前の強行路線では意味がないからね」
「教祖、ですが、邪魔者は……」
「安心して、それは今まで通り、我々に逆らう者は全て人形に捧げればいい……」
雫は教団における殺人の隠語を口にする。『人形に捧げる』というのは教団における敵を排除するために彼女が生み出した単語であり、それはかつて宇宙究明学会が殺人を『宇宙に返す』という言葉で誤魔化したものにインスパイアされたものであった。
「了解です。教祖、邪魔者は次々と人形に捧げましょう。我々、教団のために」
富高の言葉に集まった幹部一同が同じ言葉を次々と口にしていく。
それから、雫は机の上から立ち上がって机の下に隠してあった扉を開けるスイッチを押す。
教祖がスイッチを押すのと同時に、シャッターが上がり、全員の前に紫色の中国風の着物を着た禿げた頭の男が現れた。
「紹介する。今後、我らが教団に資金を提供してくれる事になった百目竜のニコラス=呂さん。みんな、これからはこの人を呂大人とお呼びする様に」
が、全員が百目竜という言葉を聞いて騒めきたつ。と、言うのも百目竜は有名なマフィア組織であり、それと組むというのは教団が非合法な組織と認める事に他ならないからだ。
百目竜というだけでも衝撃は大きいのに、禿げ男は更なる衝撃を口に出す。
「私は既にバプテスト・アナベル教の洗礼を受けております。私も皆様と同様に、神への聖戦を誓う戦士。何を躊躇う事がありましょう」
禿げた頭の男は凍り付く幹部たちに向かって右手を差し伸べる。
何人かが躊躇していると、自分たちにとっての最高権威であり、最高権力者である教祖が指示を出す。
「ほら、何をやっているの?彼も我々の戦士なんだよ。認めないつもりなの?」
その言葉を聞いては彼ら彼女らも逆らえない。ぎごちない笑顔を浮かべて禿頭の大陸の人間と握手を交わす。
全員と握手を交わし終えると、呂大人は改めて雫の前に跪き言った。
「教祖、我々は同志……共に大帝国を築き上げましょう」
「ええ、必ず我々の待つ未来は黄金に輝いている筈。ソロモン王が隠した黄金の財産よりも眩しい未来が、ね……」
中村孝太郎は本庁の警視総監に直訴を行なっていた。本来ならば、一警察署の刑事ごときが面談をして良い相手ではない。
だが、孝太郎はそれを「警視総監に会わせるか、オレを殺すかしろ!」と必死の直訴を行なったために、彼は何とかして面会にこぎつけたのだ。
だが、当然、警視総監の態度は芳しくない。
彼は目の前の若い肌の刑事に詰め寄られたとしても、慌てる様子を見せる事もなくただ、漠然とした様子で彼を見下ろしていた。
「何回も言っているだろう。大樹寺雫は不起訴だ。彼女がテロを行なっていたという明確な証拠はないからな。状況証拠だけで有罪にする難しさは刑事のキミが一番知っている筈だろう?」
「ですが、オレはあいつのビルに招かれ、そこでテロの計画をーー」
「証言だけではねぇ、日本は原則として証拠の提示が優先されるんだ。紅林の件で嫌という程ーー」
「そんな事を言って、責任から逃れたいだけなんじゃないですか!」
孝太郎は激昂して机を叩き付けたが、老齢の警視総監は眉一つ動かさない。
流石は現、警視総監。伊達に一代でここまで成り上がってはいない筈だ。これ程の堂々とした神経がなければここまで上り詰めるのは不可能だろう。
だが、ここで引いてはいけない。孝太郎は下の唇を噛み締め、警視総監にもう一度、大樹寺雫の捜査を行う様に叫ぶ。
だが、警視総監は首を横に振って、
「いいや、それは無理だ。大樹寺雫はビルの爆破とは無関係。あれは周りの信者たちが勝手にやった事だという証言も取れている。証拠も揃っているんだ。見るかね?」
孝太郎は首を横に振る。そんな証拠などどうせ、後から改竄したものに違いないからだ。
孝太郎は悔しい想いを抱えながら、頭を下げてその場を後にしていく。
孝太郎は扉を引いて警視総監の部屋から立ち去ろうとしたが、その前に背後から声を掛けられた。
「待ちたまえ!キミらが今後、大樹寺雫とその教団に関わる事は許さん!」
孝太郎はそれを聞くと扉の引き出から手を離し、再び警視総監に向き合う。
「どういう事ですか?」
「話の通りだ。バプテスト・アナベル教とその教祖、大樹寺雫には今後、関わるなと言っておるのだ!」
「何故です?」
孝太郎は怒りを押し殺し、努めて冷静な声色で尋ねた。
「これはさる高貴なお方からのご命令でね。警察が関われば、話が拗れてしまうそうだからな。キミは野党の大物政治家の息子だからな。多少はお父上の便宜で命は免れるかもしれないが、これ以上関われば、お父上の便宜もーー」
「父には縁を切られています。なので、その父が便宜を図る事はあり得ません」
孝太郎はそう言うと黙って扉を閉め、警視総監の部屋を後にした。続いて、彼は警察庁、連邦捜査局など次々と国内の警察機関をあちこち巡っていったのだが、大した成果は見られない。
どこのトップも『さる高貴なお方の命令』としか言わない。
孝太郎はそれを聞いて思わず拳を強く握り締める。
ふざけるな。あの女の身勝手なテロにより殺された人たちの命よりもその女の都合の方が大事なのか?
孝太郎は思わずそう叫んでしまいたい衝動に駆られた。が、彼は理性でそれを抑えて目の前へと進む。
今度こそ、あの狂った教団を捕まえるために。
「わたし達は路線を変更しようと思う」
大樹寺雫は自身の座る円卓の机の周りに幹部を集めるて座らせると、そう告げた。
教祖の予想外の発言を全員が耳に挟むのと同時に、幹部たちの視線が一斉に雫へと突き刺さっていく。
中には目を大きく見開いている者さえいた。雫はそんな彼ら彼女らのやり方を見越してか、淡々とした様子で肝心の言葉を紡ぐ。
「『大和民族浄化計画』……これ自身は変更しない。ただやり方を少し変えるだけ……」
「教祖、やり方というと?」
新たに幹部として上げられた富高総馬が尋ねる。富高は教祖には及ばないものの、若い年齢の幹部であり、元来から新しい物好き、アニメ好きという事もあり、その発想は従来の年老いた幹部よりも柔軟であった。
「テレビに出たり、わたし自身がバラエティに出たり、政治の世界に出馬したりするという言うなれば柔軟路線……前の強行路線では意味がないからね」
「教祖、ですが、邪魔者は……」
「安心して、それは今まで通り、我々に逆らう者は全て人形に捧げればいい……」
雫は教団における殺人の隠語を口にする。『人形に捧げる』というのは教団における敵を排除するために彼女が生み出した単語であり、それはかつて宇宙究明学会が殺人を『宇宙に返す』という言葉で誤魔化したものにインスパイアされたものであった。
「了解です。教祖、邪魔者は次々と人形に捧げましょう。我々、教団のために」
富高の言葉に集まった幹部一同が同じ言葉を次々と口にしていく。
それから、雫は机の上から立ち上がって机の下に隠してあった扉を開けるスイッチを押す。
教祖がスイッチを押すのと同時に、シャッターが上がり、全員の前に紫色の中国風の着物を着た禿げた頭の男が現れた。
「紹介する。今後、我らが教団に資金を提供してくれる事になった百目竜のニコラス=呂さん。みんな、これからはこの人を呂大人とお呼びする様に」
が、全員が百目竜という言葉を聞いて騒めきたつ。と、言うのも百目竜は有名なマフィア組織であり、それと組むというのは教団が非合法な組織と認める事に他ならないからだ。
百目竜というだけでも衝撃は大きいのに、禿げ男は更なる衝撃を口に出す。
「私は既にバプテスト・アナベル教の洗礼を受けております。私も皆様と同様に、神への聖戦を誓う戦士。何を躊躇う事がありましょう」
禿げた頭の男は凍り付く幹部たちに向かって右手を差し伸べる。
何人かが躊躇していると、自分たちにとっての最高権威であり、最高権力者である教祖が指示を出す。
「ほら、何をやっているの?彼も我々の戦士なんだよ。認めないつもりなの?」
その言葉を聞いては彼ら彼女らも逆らえない。ぎごちない笑顔を浮かべて禿頭の大陸の人間と握手を交わす。
全員と握手を交わし終えると、呂大人は改めて雫の前に跪き言った。
「教祖、我々は同志……共に大帝国を築き上げましょう」
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