魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第六部『鬼麿神聖剣』

山の上の光

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孝太郎は真っ白な病室の中で目を覚ます。此処は彼がそれまで過ごしていた明治の頃の不衛生な病院では無い。掃除の行き届いた清潔な施設であった。
孝太郎はこの施設の中で目を覚ますのと同時に、思わず叫んでしまう。鬼麿様と。
すると、彼の顔を覗き込んでいた同じ赤い肌の女性が体を震わせた。
「ど、どうしたの?孝ちゃん?」
『孝ちゃん』孝太郎にとっては懐かしい単語であった。同時にあの時代に居た時からずっと聞きたかった単語でもあった。孝太郎は半ば衝動的に姉の体を強く抱き締め、両目から涙を流しながら再会を喜ぶ。
自分の体に抱き付く弟の背中を姉は優しく摩ってくれていた。
孝太郎は顔を涙で晴らしながら、彼女に抱き付きながら、これまでの事を語っていく。
孝太郎は泣き声を漏らしながら、感情的になりながら話を続けていく。
孝太郎の姉である絵里子はそんな弟を優しく抱き締めながら、これまでの彼の境遇を聞いていく。
そして、弟が無限城の話に差し掛かる頃には彼女自身も涙を浮かべていた。
そして、涙を流す弟の頭を優しく撫でて、
「大丈夫、もう安心よ。お姉ちゃんがずっと側にいるからね……」
その言葉は今の孝太郎にとってはどんな治療よりも癒されたに違いない。
と、ここで孝太郎の入院していた病室の中に多くの人間が詰め掛けている事に気が付く。
丸渕眼鏡の愛らしい顔の女性に、青い髪のボブヘアーの女性。小鹿のように庇護欲をそそられる美しい二人の少年。そして、その二人の友達である三人の男女の少年少女。
全員が両手に見舞いを持って孝太郎の元を訪れていた。
孝太郎は懐かしい仲間達の顔を見て、ようやく涙を引っ込め、それからは思い出話に花を咲かせた。
その中で、高知城での決戦後の話も聞きだしていく。
なんでも、あの後、警察隊の包囲網により、ユニオン帝国の兵士達の殆どは拿捕されたらしい。
どうも、高知警察署は約一名がその場から逃れた以外は好調な成果を挙げたらしい。
次に刈谷浩輔の親友の柿谷淳太は兄が目覚めるまでは彼の家で過ごすらしい。
更にもう一名加わるらしい。孝太郎は話の過程で二人の少年によって手招きされた少女を見て、思わず目を丸くしてしまう。
何故ならば、その少女はシリウスに家族を殺されたかどで彼の運転するパトカーの前に飛び出した少女だったからだ。
彼女はシリウスに家族を殺され、天涯孤独となったと思われたが、奇跡的に母親が生存しており、その母親に引き取られるとばかり思われていたが、事件後にその母親による虐待の事実が発覚し、彼女は浩輔や淳太と共に白籠市の刈谷組邸宅に住む事になったらしい。
積もる話もそろそろ尽きかけていた頃に、孝太郎は不意に口を開く。
「そう言えば、キャンドール・コーブの件はどうなった?」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
明美が空中に人差し指を押し付け、目の前に多くの情報を広げ、それを指でスライドしていく。
そして、目的のページに到着したと思われるや否やそのページをタップし、部屋一面に情報を広げていく。
「キャンドール・コーブの件ですが、一応は決着しました。ですが、この事件は海宮秀幸社長とシリウス・A・ペンドラゴン率いる反ユニオン帝国の反逆者グループによるだと見なされて、事件は終結しましたね」
明美の表情に暗い影を覆う。と、それに他の全員の表情にも陰りが見えた。
それはそうだろう。シリウスと海宮秀幸だけの犯行だったのならば、高知城に現れた大量の兵士達の説明かつかない。
シリウスの部下だとするのならば、部隊を率いていた男の説明が付かない。
だが、明美曰く大量の兵士達は全員が口を揃えて自分達はシリウスの部下だったと言い張っているらしい。
肝心のシリウスは明治の時代に死体となって転がっている。口を開かせるのは地球を逆方向に高速で回り、時間を巻き戻す事よりも難しいに違いない。
孝太郎は難しい表情を浮かべた後に、もう一度明るい顔を浮かべて、話題を変える。
「そう言えば、オレの退院はいつになるんだ?やはり、時間は掛かるのか?」
「ああ、その事ね」
絵里子は慌てて顔に微笑を貼り付け、孝太郎の今後の事を説明していく。
検査のために一週間程度は入院するらしいが、その後は退院し、刑事の仕事に復帰できるらしい。
姿を眩ませていたのが、前回の聖杯争奪戦後とは異なり、たったの一日であったために、復帰は容易らしい。
ましてや、今回は孝太郎の仲間達により証言もあるのだ。
孝太郎は安堵の溜息を吐き、そして、もう一度清潔なシーツの上で寝転ぶ。
孝太郎は病床の上で、ぼんやりと明治時代の出来事を思い返していく。
孝太郎がやがて眠りに着いたのを確認したのだろう。仲間達は微笑を浮かべて引き上げていく。
そんな中、絵里子はただ一人、静かに眠っている孝太郎の頭を撫でて、様子を見守っていた。
「安心して、今夜はずっとここにいてあげるから……三年間、あたしはずっとそうしてきたんだから、ね?孝ちゃん?」
孝太郎は聞いていたのか聞いていないのかか細い息を立てるばかりであった。











昭和20年、8月9日。満洲。
大勢の人々が悲鳴を上げて逃げ惑っていた。この時程、阿鼻叫喚という表現が似つかわしい事態は無いだろう。
鬼麿は日本式の家屋の隅でかつての刀を握り締めながら考えていた。
鬼麿は知っていた。この世から去るべき時が自身に訪れている事を。
だが、それは今、体を蝕んでいる病魔の事だと思っていた。過去に起きた三つの戦争全てに従軍し、功績を上げた勇士でも病魔に勝てない事は知っていたのだ。
だから、彼は晩年には満州に移り住み、平穏な日常を送っていたのだ。
そこで、家族を作り、愛する孫に囲まれた事を彼は後悔していない。
今、彼はその最愛の家族を守るために刀を手に取り、最後の戦いに赴く事を決めた。
彼は自身の息子に家族を連れて逃げるように指示を出し、最愛の妻の位牌と写真を彼に託し、自身の毛髪を切って、彼に渡すと、刀を抜き、黄金の光を全身に纏わせて、迫り来るソ連軍へと刀を振り上げていく。
時代の流れというのが仮にあるのならば、それに抗ったのが彼だと言ってもいいだろう。
彼は鬼気迫る剣幕と奇妙な光を纏った刀だけで、ソビエト連邦軍の兵士一万人を巻き添えに壮絶な戦死を遂げたのだった。
死ぬ間際、彼は頭の中で少年の日に対峙した悪鬼の事を思い返していく。
彼は未来人でありながら、未来を悲観し、過去ばかりに囚われ続けていた。
だからこそ、自分は彼のような未来人に対抗するようにがむしゃらに未来ばかりを見てきた。
結果として彼は六大路の陰謀により、三度も兵隊に取られ、清、ロシア、ドイツの三つの帝国を相手取った戦争で戦い続けてきた。
それでも、彼は明るい未来だけを信じて戦ってきたのだ。
だが、その結果がこれだ。それでも、彼は今、現在の自分を悔いてはいない。
家族を守るために死ねるのだ。後悔などしていない。
鬼麿は戦車の残骸とソビエト軍人の制服の転がる中で一人、静かに目を閉じた。
こうして、鬼麿は84歳の波乱に満ちた生涯を終えたのであった。












後書き
今回で『魔法刑事達の事件簿』はしばらくの間は休載させていただきます。最も、今回の話の中枢を担う明治編は殆どが『魔法忍法帖』という扱いでしたが(笑)
書いている間に山田風太郎先生の『魔界転生』などを参考に構想を膨らませていた事を思い出します。
鬼麿の最期は個人的にぐっとくるものがありました。
予定が終わったら、再開する予定ですので、楽しみにお待ち下されば幸いです(笑)
p.s.
最近は『ひぐらしの鳴く頃に』にハマっていまして、書いている途中でいつも竜宮レナちゃんが私の頭の中で『嘘だッ!』と叫んでおります(笑)
最も、忙しくて最近はそれすらロクに見れていませんが(笑)
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