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第六部『鬼麿神聖剣』

竜王城決戦ーその15

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「しつこい」
シリウスは鬼麿を前に吐き捨てるように言った。
彼は刀を持った右腕を大きく広げながら話を続けていく。
「お前達、甲賀の忍びども程、しつこい存在は見た事が無い。大体、親の仇だの、兄弟の仇だの、夫の仇だの、それが何だというのだ?お前達は生き残った。それで充分ではないのか?」
「お前何を言っているんだ?」
鬼麿は両眉を顰めながら尋ねる。
「良いか、私は勝者なのだ。敗者が勝者に言える事は何も無いのだ。敗者は敗者らしく大人しく家で本でも読んでいれば良いのだ」
シリウスは高慢な調子で胸を張りながら、話を続けていく。
「考えてもみてみろ、勝者は万能の存在なのだ。たとえ間違っているのが自分達であっても、勝者であったのなら、都合の良い事実をでっち上げられる。お前達の国の言葉にもあったな『勝てば官軍、負ければ賊軍』という素晴らしい言葉が……これ程、素晴らしい言葉がありながら、どうしてお前達は勝者の言いなりになろうとしない?」
「勝者だからといって、何をやっても良い訳じゃあないだろう!?」
鬼麿は刀を震わせながら、目の前の異形の生物に向かって叫ぶ。
それに対し、シリウスは呆れたような顔を浮かべながら、大きな溜息を吐きながら、刀を空振りする。
シリウスの刀が空を切る音が鬼麿の耳にも響く。
シリウスは刀を宙に向かって振りながら、話を続けていく。
「分からないのか?勝者は全てを決する事ができる。その後の敗者の待遇、その者の未来、大切な物を奪い取る権利……それが、勝者にはあるのだ。私はそれを行使しただけだ。なのに、どうしてお前達はを言って、わたしを追い回す?折角、救われた命なのだ。そんな無駄な事に一生を費やさずに、映画でも見ていたら良かったのに……いや、失礼、この時代には映画なんて影も形も無かったな!」
シリウスが最後に叫んだ冗談こそ理解できなかったものの、それ以前の話で鬼麿は確信を得た。目の前の異形の怪物はこの世にいてはいけない存在であると。
鬼麿はシリウスに呼応するかのように、自身も大きな刀を振って空を切り、鋭い視線でシリウスを睨む。
「勝者が歴史を決める?確かに、お前のその持論は正しいのかもしれん……だけどな、一つだけ言っておくぞ!お前はまだこの勝負に勝ってすらいないッ!お前のこれまでの輝かしい勝利はこの敗北によって拭い取られてしまうんだッ!」
鬼麿は刀を大きく振って、シリウスに向かって斬りかかっていく。
シリウスは鬼麿が向かって来る前に、上段を放ったが、鬼麿の強靭な精神力と八百万の神々の加護があったためだろうか、簡単に跳ね除ける。
シリウスは次に印術の上の段を使用し、鬼麿の体を殴り飛ばそうと試みたが、どうやら意味を為さなかったらしい。
鬼麿は大きく刀を振り上げると同時に、地面から振り上げられた拳を破壊し、彼の元へと現れたのだった。
鬼麿はシリウスの前に現れるのと同時に、彼の左斜め下から刀を振り上げようと試みていたが、シリウスはその刀を自らの左手で防ぎ、鬼麿に向かって右手で刀を振り上げようとしたが、その右手に大きな衝撃を受けたのを感じた。不運というのは一度発動すれば、ずっと発動していくものらしい。シリウスは手に持っていた刀を落としてしまったのだ。
彼の持っていた刀が地面の上を転がっていく。
異形の化物が化物らしい鳴き声を上げ、その衝撃がした方向を向くのと同時に、彼はそちらに激しい殺意を抱く。
「……ッ!中村ァァァァァ~!!!」
「鬼麿にばかり夢中になったのが、運の尽きだったらしいな、オレの存在をすっかり忘れていたらしい」
「クソ、殺してやるッ!」
シリウスは左腕を大きく振って、刀ごと鬼麿を弾き、全速力で孝太郎の元へと向かう。
自らの魔法、征服王の計測ザ・ルーラーを使用し、大勢の時間の中に現れた孝太郎を見出し、今から五秒後の孝太郎の頭に向かって異形の腕を振り下ろそうとしたが、背後から大きな痛覚を帯びて、その計画は残念せざるを得なかった。
背後には鬼麿が伊賀同心に伝わる大きな刀を持って、男と対峙していた。
シリウスは少年の刀から赤い液体が溢れている事に気が付き、少年が自分を斬り殺した事に気が付いた。
彼は即座に、鬼麿に向かって攻撃を仕掛けたが、神聖なる神々の力を帯びた刀で鬼麿はシリウスの右手の攻撃を防ぐ。そして、無防備なシリウスの胴体に向かって刀の刃先を突き立てた。
天照大神と八百万の神々の意思があったのだろうか、シリウスの体に鬼麿の刀が突き刺さる際に、黄金の輝きのような綺麗な輝きが溢れ出た。
シリウスは悲鳴を上げ、つんざけて地面の上に寝転ぶ。
と、同時にそれまでの真っ白な空間は消え去り、目の前には戦闘によって生じた傷により、大部分が損壊した無限城の玉座の間が広がっていた。
シリウスは腹から溢れ出る血などものともせずに、落ちていた刀の前に急いでいく。
当然、鬼麿も孝太郎も黙っていかせはしない。孝太郎は銃口を向け、鬼麿は刀を構える事で彼が刀を拾い上げようとするのを防ごうとしたが、シリウスが腕を振って分解魔法を放つのと同時に、彼らはそれを避ける事や防ぐ事に集中しなければならず、彼に近付く事はできなかった。
そうして、シリウスは邪魔が入らないうちに刀を拾い上げると、最後の攻撃を仕掛けた。シリウスは異形の腕を宙へと向かって突き上げると、分解の魔法を放ち、無限城にヒビを入れていく。
そう、彼は自らの城である無限城を破壊する事によって、孝太郎達を外の空間へと放り出したのだ。
城から空へと放り出された孝太郎と右手に強く刀を握り締めた鬼麿は互いを抱き締めながら、地上へと落ちていく。
通常ならば落下時の衝撃によって、二人は地面の上で死んでいたのかもしれない。
だが、二人が落ちたのは山であり、尚且つ多くの木々の上であった。多くの枝に引っかかったために二人は大小の傷を負ったものの、命は助かり、後に繋がるような後遺症も負わずに済んだのだった。
孝太郎は先に木の下に降り、自分の主人に手を貸し、木から下ろす。
「大丈夫ですか?鬼麿様?」
孝太郎の問い掛けに鬼麿は首肯する。
「良かった。ですが、あの男の正体が掴めない今は用心に越した事はありません、即座にここをーー」
「ここをどうするって?」
孝太郎が背後を振り向くと、そこにシリウスが現れ、孝太郎の右肩を目掛けて刀を振るったのだった。
落下時の衝撃により、銃を落としてしまったためだろうか、今は大した事は無いだろうが、それでも用心に越した事は無い。
だからこそ、シリウスは孝太郎の右肩を切り、彼が何かを振るう事を阻止したのだった。
それから、シリウスは鬼麿を見据えて言った。
「城も、部下も何もかも役に立たなかった。こうなれば、私の魔法で直々に仕留め、必ず私の妹の仇を討ってやる。私はまだ敗者では無いのだからなッ!」
シリウスは鬼麿に負わされた腹の傷を抑えながら言った。
「やれるものなら、やってみろ」
鬼麿は刀を両手で大きな刀を握り締めながら言った。
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