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第六部『鬼麿神聖剣』

竜王城決戦ーその14

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神の力を借りた鬼麿と邪神の力を借りたシリウスとが激しく刀を打ち合う。
何度も何度も金属が響く音が聞こえてきた。
孝太郎は銃で狙いを定めようとしたが、シリウスも鬼麿も人を寄せ付けない程の勢いで戦っているのだから、狙いの定めようが無い。
いうなれば、人のより付ける戦いでは無いという事だ。
孝太郎は叫びたい気分であった。「このまま指を加えて見ていろというのか!」と。
だが、お萩はそれでも腕を離そうとはしない。彼女はわかっているのだ。今、ここに介入すれば、孝太郎など瞬く間に気が付かぬうちに踏み殺される蟻のようにいとも簡単に殺されてしまうだろうと。
それでも、彼は狙いを定めていく。拳銃の銃口がシリウスを捉えられれば良いのだが……。
人では無い者同士が斬り結び合う中で、孝太郎は二人の影が出てくる瞬間を狙う。
そして、一瞬、シリウスの影がはっきりと現れた瞬間に彼に向かって銃を発砲する。
乾いた音が部屋の中に鳴り響く。孝太郎はシリウスを仕留めたかと錯覚したが、それは大きな間違いであった。
腕を掠めた弾丸のために、鬼麿との勝負を中断せざるを得なかったシリウスはこちらに向き直り、手に持った刀を魔法と共に振る。
孝太郎は間一髪でその刀を避けたが、刀が振られた後に見た床には見覚えがあった。
それは、かつて異世界『オリバニア』にて対峙した竜王スメウルグの魔法そのものであった。
孝太郎は思わず大きな声で口に出す。
「ッ!分解魔法か……?」
「どうやら、貴様はこの魔法に見覚えがあるらしいな、貴様の言う通り、これは竜王スメウルグの力よ」
孝太郎はシリウスが竜王スメウルグを取り込んだという話を思い出す。
彼は鬼麿との勝負を邪魔した自分を殺すつもりなのだろう。
孝太郎は思わず目を瞑る。彼はここで死を覚悟した。墓碑銘の名さえ頭の中には思い浮かぶ。
『中村孝太郎。2329年生まれ、1873年死去』と。
そんな矛盾に満ちた墓碑銘を考え、思わず笑っていると、それが挑発と取られたらしい。シリウスは不愉快そうに眉を顰め、分解の魔法を放つ。
孝太郎はその分解魔法を自身の破壊の魔法で防ぎ、効果を相殺させる。
魔法同士の戦いだったのならば、負ける事は無い。単に生身の勝負ならば圧倒的な戦力差があるだけなのだ。
邪神と人間という最大のハンデが……。
シリウスはそれに気が付いたか、気付かぬかで舌を打ち、もう一度分解魔法を放とうとしたが、その前に鬼麿が彼の目の前に刀を突き付け、彼を脅す。
「オレとの決着がまだ付いていないようだが、そんなに孝太郎が目障りなのか?」
「……。上等だ。あの赤い肌のガキは後回しにしてやる。まずはお前からだッ!」
シリウスはそう言って鬼麿に向かって刀を振るう。
鬼麿はその刀を神術の宿った刀で防ぎ、叫び声を上げ、目の前の邪神に向かって刀を振っていく。
その度に、シリウスは鬼麿の刀に向かって刀を返していき、余裕のある表情を見せて、彼を嘲笑っていく。
互角の戦いが一方的な戦いになりかねないと孝太郎が危惧したのも無理は無い。
シリウスは本気で決着を付けようと試みていたのだ。
傍目から見ていた孝太郎とお萩にも鬼麿らしき影が徐々にシリウスらしき影に押されていくのを見た。先程のような人がより付けない戦いでは無い。鬼麿が披露しているためか、両目でも捉えられるものになっていた。
シリウスはその激しい力で鬼麿に向かって刀を振って、とうとう神々の加護を得た刀まで弾き飛ばしてしまう。
シリウスはそれを見て、口元を緩めて、嘲笑う表情で鬼麿を見下ろしていた。
「どうやら、終わりらしいな、思えば貴様と孝太郎は我が人生という名の道路の上に転がる空き缶のように邪魔な存在だった。だが、貴様はここでチェスでいう所のチェック・メイトに陥ったのだッ!貴様がどれだけ泣こうと叫ぼうと機会など来るものかッ!」
鬼麿には殆ど理解できない比喩表現を用いたシリウスは得意気な表情を浮かべて、刀を逆手に持ち、倒れている鬼麿の喉元へと突き付けようとした時だ。
咄嗟にお萩が自身の持っていた刀を持って、シリウスと鬼麿の元へと向かって行くのだった。
シリウスは咄嗟の事で対処できなかったに違いない。
彼女はシリウスに向かって星型の手裏剣を投げ、彼を怯ませてから、少年に向かって刀を放り投げる。
降魔霊蔵が使用していた大きな刀は鬼麿の腰を屈めてしまう程重かったが、それでも彼は彼女の意思を確認し、刀を投げてくれた彼女に礼を述べる。
お萩は両手でで刀の柄を握った彼に向かって微笑みかけたのも束の間の事であった。
手裏剣を取ったシリウスの手により、彼女は斬り殺されてしまったのだ。
あまりにも呆気ない最期だった。彼女は声を立てる間もなく、背後から斬られて弱々しく地面に倒れてしまう。
石ばかりの地面にはペンキをぶち撒けたかのような赤い液体が雨の日に出来た水たまりから溢れていく水のように地面を流れていく。
鬼麿はお萩が与えてくれた刀を構え、目の前の巨悪と対峙した。
これ以上の犠牲者を出さないために……。











お萩は鬼麿が刀を持って、シリウスと対峙する様子を眺めていた。彼女は薄れゆく意識の中で、夫に謝り続けていた。
夫は恐らく、自分には再婚して欲しかった筈だ。それが彼女の幸せだと信じていたに違いない。でなければ、最後に夫はこう言わなかっただろう。
「オレの事は忘れろ」等とは。
お萩は最後に優しい笑顔を向ける夫に向かって謝罪の言葉を述べながら両目を閉じた。
ふと、彼女が気が付くと、彼女の目の前には何処までも暗い空間が広がり、そんな彼女の目の前には死んだ筈の夫がいた。
お萩は両目から涙を零しながら、夫に向かって謝罪の言葉を述べた。
「あなた!ごめんなさい!だけれど、あたしは鬼麿を助けたくて……」
涙で謝罪の言葉を述べるお萩の髪を彼女の夫は優しく撫でて、
「気にする事は無い。お前が居なければ、鬼麿はあそこで殺されていたさ、お前はよくやったよ」
両目から涙を流すお萩を彼は優しく抱いて、それから優しく彼女の手を引く。
「さてと、行こうか」
「ええ、忍びの末路は決まっておりますもんね」
「言うな、お前と一緒ならば、オレは何処にだって行ってやる」
そう言って、二人は肩を並べて手を繋ぎ闇の中を歩いていく。
闇の先に見える業火に向かって……。
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