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第六部『鬼麿神聖剣』

竜王城決戦ーその12

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鬼麿は何度も何度も大きな刀で周りに集まって来る同じような人物を斬り結んでいくが、意味は為さないらしい。自身の周りを囲む同じような人物は無尽蔵に湧き出ているかのように思われた。
鬼麿は何とか、残像ではなく、本体に攻撃を加えられないかを考えた。
彼の理想としてはあの短い金色の髪の男が孝太郎を襲っている間に、鬼麿が刀を振るう事であった。
もし、彼が武士の子であるのならば、間違い無くこんなな考えは思い浮かばなかっただろう。
だが、彼は山奥の育ちであり、忍びの技を身に付けさせられた少年だ。彼の目に迷いは無い。
どうにか彼が隙を見せないのかを伺い、彼の背後から刀若しくは懐に隠していた一本のクナイのどちらかを突き立てようとしていた。
刀は終始、目の前の男達を引きつけておくために必要であろうから、孝太郎を襲っている男に使う事は難しいだろう。
と、すると、クナイか……。
鬼麿は懐の中に隠していたクナイを放つタイミングを見極める事にしていた。
シリウスは孝太郎と刀を打ち合う事に夢中になっており、こちらを見ようともしない。
やはり、彼の隙を突いてクナイで心の臓を突くのは一瞬の作業だろう。
運が良ければ、あの男を殺されるかもしれない。
鬼麿は一抹の望みをかけ、目の前の男達の攻撃を防ぎながら、シリウスが自身の前から完全に背中を向ける時期を伺う。
鬼麿はピストルやら刀やらで自分を殺そうとする残像の群れを相手取りながら、シリウスが完全に背後を振り向く時を見た。
無限とも思える時間が流れた後に、シリウスが刀を振り上げて、孝太郎の喉元に刃を突き立てようとする瞬間を目撃した。
背中は孝太郎の方を向いており、意識は少しも向いていないらしい。
鬼麿は残像が何かするよりも前に、クナイを放つ。
50メートルも離れた場所に投げるのは至難の技であると言えたが、鬼麿は意識を集中し、持っているクナイが日本に邪気を齎さんとする悪鬼の背に当たるように天照大神に願いを込める。
と、少年の願いを偉大なる太陽の神は聞き届けたのだろうか、彼のクナイは五十メートルの距離をものともせずに彼の背中に直撃した。
大きな悲鳴が聞こえ、男が苦しむのが鬼麿の耳にも届いた。
鬼麿はもう一度刀を天に掲げて、神術の力で包囲している残像どもを斬って、男にトドメを刺すべく向かって行く。
鬼麿がその場に辿り着くと、短い金色の髪の男は何が起こったのか分からずに、室町の時代の九条河原に巣食う乞食のような悲痛を叫び、助けを求めるように右腕を宙に掲げていた。
鬼麿はクナイを投げられ死に掛けている男の背に刀を突き立てようと試みる。
これで、この日本に現れた悪鬼は滅殺される筈だ。
鬼麿が刀を突き立てようとした時だ。急にその刃が止まってしまう。
天照大神の啓示を受けた少年が首を傾げると、彼の刃はたった一人の男に止められている事に気が付く。それも、ただ止めているのではない。彼は素手でその掌から血が流れているのにも関わらず、目を充血させ、憎悪の炎を燃やし、彼の刀を握っていたのだ。
少年はその様子を見て、思わず声を震わせてしまう。
「お、お、お前……狂ってるよ!どうして、そこまで……」
「どうしてだと?そこまでだと?決まっている。お前を抹殺するためだ。元々、貴様は私が頭領になるために最も邪魔な存在だった。伊賀の忍びどもは今でこそ、私の魔法に屈服しているが、お前が目の前に現れたら、どうしただろうな?」
彼は自身の右手の掌が更に深い傷が刻まれていくのにも関わらず、彼が下ろしていた刀の刃をなぞっていき、首を傾げる少年の首を強く握り締める。
あまりにも強い絞め方に鬼麿は思わず息を詰まらせてしまう。
唇から涎が出てきた。涎だけではない。少しでも空気を吸い込もうと、舌まで伸びていた。
だが、自身の小さな首を絞めている右手はその手を緩める気は無いらしい。
未だに強い力で彼の首を絞めていた。
「何が有栖川宮家の血を引く少年だ……何が、伊賀同心の正統なる後継者に選ばれたかもしれない男だ……貴様がここで死ねば、全てが無に返す!そして、オレは再び組織を再編成し、この国を乗っ取るッ!邪魔はさせん……」
シリウスの右腕に込められた力が更に強まっていく。このまま彼を絞め殺す事も容易に違いないだろう。
シリウスは口元を緩ませ、勝利を確信した時だ。
口元を緩ませたのと同時に手の力も僅かの間に緩んでしまったに違いない。
鬼麿は綻びが出来た事を確信し、空いていた腹を大きく蹴り付け、その場から逃れた。
鬼麿は地面の上で寝転んでいる孝太郎をに必死に揺らし、起こそうとしていた。
孝太郎は弱っている体を起こし、主人と強く抱擁を交わす。
「大丈夫だった……いや、大丈夫でしたか?」
孝太郎が自分に敬語を使ったのは初めての事だった。鬼麿は思わず目をパチパチと見開いてしまう。
「あ、あれどうしたの?」
と、鬼麿の困惑を他所に、孝太郎は彼を強く抱き締め、それから、真っ白な空間の中で腹を抑えているシリウスの元に駆け寄っていく。
それから、彼は異空間の武器庫の中に武器と一緒に仕舞い込んでいたのだろうか、一つの銀色に輝く二つの輪っかのある手錠を取り出し、彼の右腕に手錠の片方の輪っかを掛けた。
「シリウス・A・ペンドラゴン……殺人罪及び内乱罪及び窃盗罪の容疑でお前を逮捕する」
シリウスは口元を噛み締めながら、弱っているために垂れている体から上目で彼を見上げていた。
「……オレを逮捕するだと?ここは23世紀の日本共和国じゃあない!そんな罪は適用されんぞ!」
「ならば、適用する場所にまで行くさ、オレがこの時代に来たのと同じ方法でお前を元の時代に連れて帰って、法の裁きを掛けさせてやる!」
「時を駆ける聖杯の事だな?」
シリウスの問い掛けに対し、孝太郎は黙って首肯する。
「その通りだ。オレはお前に手錠を掛けたまま、お前を刑務所へと連行する」
「成る程、そう来たか……だが、甘いんじゃあないのか?確かに、今のこの状況下では魔法は使えん。なッ!」
孝太郎がシリウスが何を言っているのか分からないという風に首を傾げていると、シリウスは手錠を掛けれている右腕に竜王スメウルグの鎧に覆われた大きな腕を生やし、手錠を粉砕したのだった。
それから、孝太郎に向かってその拳を振り上げて襲ったが、その前に彼の主人が立ち塞がり、神術を纏わせた光る刀でシリウスの腕と竜王の小手を受け止めていた。
「鬼麿様!」
孝太郎は自分を庇った主人に対し、思わず叫んでしまう。
「いいからいくんだッ!こいつはオレが食い止めるッ!この化物は必ず有栖川宮家の血を引くオレの手で仕留めてみせるからッ!」
鬼麿がそう叫ぶのと同時に、周囲の景色が戻っていく。
部屋は三人で突入したシリウスの玉座の間へと変わっていた。
「信じられない!」と言わんばかりに驚くお萩と共に孝太郎は自らの主人と竜王スメウルグを支配した男の戦いを見守っていた。
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