魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第六部『鬼麿神聖剣』

竜王城決戦ーその⑨

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弥一は天井にて蜘蛛のように両手と両足を突きながら、相手の様子を伺っていた。あの少年は何をするつもりなのだろう。あの少年は『附子』の塗られた吹き矢を本当に自分の体にに向かって吹くつもりなのだろうか。そんな事を考えながら、彼は真下の少年を睨む。
少年は竹筒を持ちながら、弥一の動向を見守っていた。
弥一はいっそ、本当の蜘蛛のように天井を汚らしく這い回ってやろうかと思案していたが、それも難しいだろう。
素人ならばともかく、下に佇む少年も忍びなのだ。迂闊に動くのは彼に毒矢発射の良いタイミングを与えてしまう事になりかねない。
弥一は少年の動向を見守っていた。少年は竹筒も表情さえも微動だにしようとしない。
少年の先の読めない行動が弥一には何か不気味なもの自分を狙っているかのように錯覚に陥らせていた。
妖怪のような、怪魔のような不気味な存在だ。
弥一は天井の上に籠城する事を決めていた。










炎を纏わせた刀と普通の刀とが激しく斬り結び合い、火花が散っていく。
二人の女性により奏でられた鉄の演舞は終わる気配を見せようとしない。
だが、日本風の長い黒髪の女性が必死の形相で刀を振っているの対し、長い金髪の髪の女性はこの様子を楽しんでいるようにさえ感じられる。
シャーロットはたまに透明になり、刀を振るったり、たまに斬撃を飛ばし、相手を攻撃していたが、基本的には刀と刀の打ち合いによる行動が気に入っていたに違いない。
彼女は大きな笑い声を上げながら、手に持っていた刀を振るっていく。
彼女の手に持っていた刀は右側に大きく振られ、哀れな未亡人の頬を掠めようとしていた。
が、未亡人は忍びとしての慧眼で相手の女性の行動を見抜いたのだろう。
右側から飛んできた刀を自身の刀を盾にして防ぎ、最悪の事態を回避していく。
シャーロットは刀が彼女の炎を纏わせた刀とぶつかるのと同時に、深入りを避け、刀を構え直す。
睨み合いが続くたびに、お萩は窮地に立たせられていると言っても良いだろう。
彼女は自身の体力に大きく響いている事に気が付く。
降魔霊蔵との戦いの際に負った疲労は思ったよりも、大きかったらしい。
現在、懸命に刀を振るう彼女の体を圧迫していたと言っても良いだろう。
彼女が荒い息を口から出していると、それを見たのか、シャーロットは左斜め下から刀を振り上げてきた。
お萩は刀の刃を左斜めの方向に構え、シャーロットの振り下ろした刀を防ぐ。
そして、そのまま力を込めて彼女の刀を押し返そうと目論む。
だが、彼女は離れようとしない。
やむを得ずに、お萩は両足で地面を大きく蹴る事によって、後方への逃れる事に成功した。
忍びならではの技と言っても良いだろう。対して長い金髪の女は自身の技を真似できないらしい。
お萩は離れた場所から飛び道具を取り出し、目の前から迫る金髪の女に向かって放つ。
だが、迫って来る女は飛び道具を見切る力くらいはあるらしく、彼女の飛ばした手裏剣を見切り、刀を持って迫って来ていた。
西洋風の城の廊下は石造りの上、玉座の間までの道が一直線であるのが、彼女にとっては腹正しいものであった。
日本の城ならばもう少し上手く立ち回れるかもしれない。
そんな事を頭の片隅に寄せながら、彼女が考えていると、女はもう直ぐ側まで迫って来ていたらしい。
お萩は刀を振って、彼女を迎撃した。
炎を纏わせた刀がそれ相応の芸術品のように美しい輝きを放ち、目の前の女の刀に直撃した。
女の刀は彼女の攻撃の前に大きく揺れ動き、次の瞬間に大きな音を立て金属音が崩壊する音が響いていく。
お萩は確認した。目の前の女の刀が確実に砕かれ、廊下のあちこちに壊れた刃を散らしているのを。
が、肝心の長い金髪の髪の女は彼女の炎の前から逃れていたらしい。
彼女は刀が届かない範囲にまで後退してから、大きく両手を鳴らし、朗らかな笑顔を浮かべながら、
「お見事です!流石は忍び様!わたくしの刀を打ち破るなんて、感服致しましたわ!」
「感服?まだそんな冗談を言う暇があるのね。逆に感心したわ、今は刀が届かない場所にいるとはいえ、あなたの首はあたしの意のままよ。あなたの薄汚い首があたしの刀のために吹っ飛んじゃうのよ。分かっているの?」
彼女は両眉を顰め、不快感を露わにして言ったが、彼女はそんな事は意に変えさないらしく、大きな音を立てて笑い、次にそれまでの朗らかな笑顔を引っ込め、真剣な顔付きでお萩を睨み、
「あなたはこう仰りたいんですか?わたくしの生殺与奪の権はあなたの手中にあると……面白いわ!だけれど、それが本当は反対なのを今、示してあげる……」
と、金髪の女は何処からか取り出した拳銃を取り出し、その銃口を向ける。
「下手に動かない方が良いですよ。わたしが現在持っている自動拳銃の装填弾丸数は17発……一回に17回弾丸を発射できるようになると言う事です。お分かりですか?」
「つまり、17発も弾丸であたしを狙えるって事なの?」
震わせたお萩の言葉を彼女はもう一度浮かべたと思われる朗らかな笑顔で首肯し、もう一度銃を向け直す。
彼女は懐から飛び道具を探そうとしたが、先程の彼女との戦闘で使い切った事を思い出す。
お萩は舌を打つ。こんな事になるのならば、もう少し温存して使っておくべきであった。
そんな事を考えていると、表情に出たのだろうか、目の前で銃を突き付けている女性が朗らかな笑顔を浮かべて、
「このような状況を日本語ではこう表すんでしたっけ?『絶体絶命』と。フフフ、日本語の表現は面白いですね。学び甲斐がありますよ」
口元に歪んだ笑顔を浮かべるシャーロットに向かってお萩はこう返してやる。あなたはもう充分日本語を喋れると。
が、シャーロットは彼女の返答に気が付いたのか、クスクスと笑って、
「いやですね。言語というのは何度も学ぶからこそ面白いんですわ、兄とわたしが世界を支配した暁には各地の言語を離しながら、統治致しますので、御安心あそばせ」
「そうなのね……でも、安心してそんな世は来ないから……」
お萩はそう言うのと同時に、炎を纏わせた刀を振り上げていく。
「どうして、そんな事を言うの……悲しいわ」
彼女がそう言ってピストルの引き金を引こうとした時だ。
彼女の臀部に小さな痛みが生じ、思わずアッと叫んでしまう。
その時に対応が遅れたのが、彼女の命運を分けたと言っても良いだろう。
お萩の振り下ろした炎の前に彼女は包まれて灼熱の踊りを踊っていた。
絶叫を生じ、悲鳴を上げる彼女の姿を見たとしてもお萩は同情さえしなかった。
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