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第六部『鬼麿神聖剣』
竜王城決戦ーその⑧
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「わたしの剣を受け止めるとは中々の腕ですね。お嬢さん?」
シャーロットの問い掛けにもお萩は黙っていて答えない。いや、答える意志が無いというのが正しいのかもしれない。
いずれにしろ、彼女は夫の仇である憎むべき妖魔党の人間を斬り殺そ絶好のチャンスに遭遇したのだ。このまま奪った刀で目の前の女を斬り殺すつもりだ。
だが、例の女も中々の実力者であるらしく、彼女が刀を目の前の女の刀に食い込ませようとも、容赦無く塞がれてしまう。
刀が当たらない事にお萩は悔しそうに歯をギリギリと鳴らしていたが、目の前の女は正反対の反応を見せ、相変わらずの朗らかな笑みを浮かべて、
「アハハ、どうしたんですか?わたしをその刀で叩き斬るのでは無いんですか?」
と、鼻に付くような台詞を吐く。これも彼女の戦略なのだろうと、お萩は解釈していた。自身の頭の中を『怒り』という名の感情に支配させ、その隙を狙って刀を当たる計画だったのだろう。
そうはいくまい。お萩は怒りを心という名の深い海の中に封じ込め、あくまでも冷静に目の前の女の隙を伺う。
ずっと、目の前の女一点を眺めていたためか、もう一度女は笑い出す。
「そんなに見られていては照れるじゃあないですか、確かに西洋人のわたしはこの時代の日本人には珍しいかもしれませんけど」
お萩は先程のシャーロットの言葉に思わず耳を疑ってしまう。彼女の耳が正確ならば、目の前の長い金髪の女は確かに「この時代の」と言った。
と、すれば……。彼女の頭の中にある一抹の考えが思い浮かぶ。
そう、目の前の女が未来人では無いのかという可能性だ。
お萩は降魔霊蔵との戦いのため、地下に留まっていたので、長岡玄太郎率いる寄せ集めの忍び達との戦いには参加していない。
当然、その時に長岡が発した未来人を示唆する言葉も聞いていない。
彼女が知らないのも無理は無い。が、推測に大きな時間を割いてしまったのと、目の前の女がこことは異なる世界から来たのだという衝撃が彼女に隙を作らせた。
シャーロットは刀を使って彼女が持っていた刀を弾き、次にガラ空きの頭を狙って刀を振り下ろす。
お萩は長い金髪の女が振り下ろす刀を地面を転がる事により、回避し、そして、再度振り下ろされた刀を両手で受け止める。
長い金髪を有した女は笑顔こそ浮かべているものの、その目は笑っていない。
自身が刀を受け止めた事を根に持っているのだろうか。
そんな事を考えつつ、彼女は必死に刀を受け止めていた。振り下ろす刀はいつまでも一定の場所で止められている。
この膠着状態はどうやって打開するのだろうか。シャーロットはそんな事を考えながら、目の前の女の腕を破壊しようと目論んでいた。
弥一の居場所は未だに掴めない。孝太郎と鬼麿は困惑していた。弥一は巧みに現れ、ランダムに攻撃を仕掛けて来る。
彼は天井の上をまるで、地面の上であるかのように自由に行き来し、その様子を見て困惑する孝太郎達を今度は両面の壁から攻撃する。
孝太郎と鬼麿の二人は互いに背中を預けて、その様子を見守ってはいたものの、流石に何処から現れるのでは防ぐのが精一杯であり、反撃の機会に恵まれる事は無いと言っても良いだろう。
肩を並べて戦う下男と主人を嘲笑うかのように、弥一は現れ、攻撃を仕掛けてきた。
今回は孝太郎の前に現れた。しかも、いつものように飛び道具を投げるのではなく、クナイを携え斬り掛かってきたではないか。
孝太郎はこの機会に峰打ちを与えようと、クナイを持った男を捉えたが、男はそんな孝太郎の意思を嘲笑うかのように、もう一度天井へと飛び上がり、その上に居座り、下の孝太郎達を眺めていた。
卑怯者めと、叫びたい気分であったが、彼は武士ではなく、忍びである。このような卑怯な手段を取るのも全然アリな人種な訳である。
そのため、彼は叫びたくても叫べない状況にあったのだ。
最も、叫んだところで、天井に居座り、あまつさえ胡座をかいているような男には蚊に刺されるよりも響かないに違いない。
孝太郎はそんな事を考えながら、あの男を引き下ろす手段が他にあるかを考える。
鬼麿は何度も神術を使用し、その光で何か出来ないかと思案しているようだが、それも不可能らしい。
と、ここで懸命に打開策を思案している二人を挑発する目的で、弥一は地面に降り立ち、背中に下げていた忍刀を抜き、孝太郎に向かって斬りかかる。
孝太郎の目の前に白閃が光り、空を切る音が耳元にまで響く。
間違いない。男は必死に考える自分達を馬鹿にしているのだ。孝太郎は叫ぶ代わりに、無言で目の前の男に向かって刀を振った。
が、男は体を回転させ、壁に引っ付いてから、天井へと戻っていく。
弥一は怒りに震える孝太郎を見て笑っているらしい。
孝太郎の我慢が限界を超えた時に、負傷していた筈の龍一郎が現れ、懐から一本の竹筒を用意し、天井に向かって吹く。
すると、どうだろう。明らかに弥一の目が狼狽していた。
これまでの余裕の表情を捨て去った光景は哀れにさえ思えた。
と、ここで龍一郎は孝太郎の考えを読んだかの如く、流暢に話し、
「この吹き矢を見れば、忍びならば誰でも怯えるよ。何せ、この吹き矢には附子の毒が塗られているから」
孝太郎は『附子』という言葉で23世紀においても毒の代表格として知られるトリカブトの事を思い出す。
トリカブトは日本にも広くて伝わっており、古来から日本の三大毒物として知られ、ドウクウヅキやドクゼリなどと並ぶ有害植物として名高く、日本の忍びが毒として使用していたと知られるものでもあった。
トリカブトの毒の効力は凄まじく、それを口にすれば、嘔吐、呼吸困難、臓器不全などの症状に見舞われ、死に至らしめられる事もある強力な毒素である。
暗殺や諜報を生業としてきた忍びにとっては重宝するものだろう。
だからこそ、弥一があれ程狼狽したのだ。附子の塗られた吹き矢によって死ぬのを恐れたために。
孝太郎はそんな事を考えながら、目の前の少年の用意周到ぶりに思わず舌を巻いてしまう。
龍一郎が竹筒を天井に向けるたびに、男が小さく震えている事に気が付く。
弥一の恐怖に怯える目はリスなどの小動物を思わせた。
孝太郎は今度はこちらが楽しむかと言わんばかりに口元を歪めて、男の震える様を眺めていた。
シャーロットの問い掛けにもお萩は黙っていて答えない。いや、答える意志が無いというのが正しいのかもしれない。
いずれにしろ、彼女は夫の仇である憎むべき妖魔党の人間を斬り殺そ絶好のチャンスに遭遇したのだ。このまま奪った刀で目の前の女を斬り殺すつもりだ。
だが、例の女も中々の実力者であるらしく、彼女が刀を目の前の女の刀に食い込ませようとも、容赦無く塞がれてしまう。
刀が当たらない事にお萩は悔しそうに歯をギリギリと鳴らしていたが、目の前の女は正反対の反応を見せ、相変わらずの朗らかな笑みを浮かべて、
「アハハ、どうしたんですか?わたしをその刀で叩き斬るのでは無いんですか?」
と、鼻に付くような台詞を吐く。これも彼女の戦略なのだろうと、お萩は解釈していた。自身の頭の中を『怒り』という名の感情に支配させ、その隙を狙って刀を当たる計画だったのだろう。
そうはいくまい。お萩は怒りを心という名の深い海の中に封じ込め、あくまでも冷静に目の前の女の隙を伺う。
ずっと、目の前の女一点を眺めていたためか、もう一度女は笑い出す。
「そんなに見られていては照れるじゃあないですか、確かに西洋人のわたしはこの時代の日本人には珍しいかもしれませんけど」
お萩は先程のシャーロットの言葉に思わず耳を疑ってしまう。彼女の耳が正確ならば、目の前の長い金髪の女は確かに「この時代の」と言った。
と、すれば……。彼女の頭の中にある一抹の考えが思い浮かぶ。
そう、目の前の女が未来人では無いのかという可能性だ。
お萩は降魔霊蔵との戦いのため、地下に留まっていたので、長岡玄太郎率いる寄せ集めの忍び達との戦いには参加していない。
当然、その時に長岡が発した未来人を示唆する言葉も聞いていない。
彼女が知らないのも無理は無い。が、推測に大きな時間を割いてしまったのと、目の前の女がこことは異なる世界から来たのだという衝撃が彼女に隙を作らせた。
シャーロットは刀を使って彼女が持っていた刀を弾き、次にガラ空きの頭を狙って刀を振り下ろす。
お萩は長い金髪の女が振り下ろす刀を地面を転がる事により、回避し、そして、再度振り下ろされた刀を両手で受け止める。
長い金髪を有した女は笑顔こそ浮かべているものの、その目は笑っていない。
自身が刀を受け止めた事を根に持っているのだろうか。
そんな事を考えつつ、彼女は必死に刀を受け止めていた。振り下ろす刀はいつまでも一定の場所で止められている。
この膠着状態はどうやって打開するのだろうか。シャーロットはそんな事を考えながら、目の前の女の腕を破壊しようと目論んでいた。
弥一の居場所は未だに掴めない。孝太郎と鬼麿は困惑していた。弥一は巧みに現れ、ランダムに攻撃を仕掛けて来る。
彼は天井の上をまるで、地面の上であるかのように自由に行き来し、その様子を見て困惑する孝太郎達を今度は両面の壁から攻撃する。
孝太郎と鬼麿の二人は互いに背中を預けて、その様子を見守ってはいたものの、流石に何処から現れるのでは防ぐのが精一杯であり、反撃の機会に恵まれる事は無いと言っても良いだろう。
肩を並べて戦う下男と主人を嘲笑うかのように、弥一は現れ、攻撃を仕掛けてきた。
今回は孝太郎の前に現れた。しかも、いつものように飛び道具を投げるのではなく、クナイを携え斬り掛かってきたではないか。
孝太郎はこの機会に峰打ちを与えようと、クナイを持った男を捉えたが、男はそんな孝太郎の意思を嘲笑うかのように、もう一度天井へと飛び上がり、その上に居座り、下の孝太郎達を眺めていた。
卑怯者めと、叫びたい気分であったが、彼は武士ではなく、忍びである。このような卑怯な手段を取るのも全然アリな人種な訳である。
そのため、彼は叫びたくても叫べない状況にあったのだ。
最も、叫んだところで、天井に居座り、あまつさえ胡座をかいているような男には蚊に刺されるよりも響かないに違いない。
孝太郎はそんな事を考えながら、あの男を引き下ろす手段が他にあるかを考える。
鬼麿は何度も神術を使用し、その光で何か出来ないかと思案しているようだが、それも不可能らしい。
と、ここで懸命に打開策を思案している二人を挑発する目的で、弥一は地面に降り立ち、背中に下げていた忍刀を抜き、孝太郎に向かって斬りかかる。
孝太郎の目の前に白閃が光り、空を切る音が耳元にまで響く。
間違いない。男は必死に考える自分達を馬鹿にしているのだ。孝太郎は叫ぶ代わりに、無言で目の前の男に向かって刀を振った。
が、男は体を回転させ、壁に引っ付いてから、天井へと戻っていく。
弥一は怒りに震える孝太郎を見て笑っているらしい。
孝太郎の我慢が限界を超えた時に、負傷していた筈の龍一郎が現れ、懐から一本の竹筒を用意し、天井に向かって吹く。
すると、どうだろう。明らかに弥一の目が狼狽していた。
これまでの余裕の表情を捨て去った光景は哀れにさえ思えた。
と、ここで龍一郎は孝太郎の考えを読んだかの如く、流暢に話し、
「この吹き矢を見れば、忍びならば誰でも怯えるよ。何せ、この吹き矢には附子の毒が塗られているから」
孝太郎は『附子』という言葉で23世紀においても毒の代表格として知られるトリカブトの事を思い出す。
トリカブトは日本にも広くて伝わっており、古来から日本の三大毒物として知られ、ドウクウヅキやドクゼリなどと並ぶ有害植物として名高く、日本の忍びが毒として使用していたと知られるものでもあった。
トリカブトの毒の効力は凄まじく、それを口にすれば、嘔吐、呼吸困難、臓器不全などの症状に見舞われ、死に至らしめられる事もある強力な毒素である。
暗殺や諜報を生業としてきた忍びにとっては重宝するものだろう。
だからこそ、弥一があれ程狼狽したのだ。附子の塗られた吹き矢によって死ぬのを恐れたために。
孝太郎はそんな事を考えながら、目の前の少年の用意周到ぶりに思わず舌を巻いてしまう。
龍一郎が竹筒を天井に向けるたびに、男が小さく震えている事に気が付く。
弥一の恐怖に怯える目はリスなどの小動物を思わせた。
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