魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第六部『鬼麿神聖剣』

天魔衆との対決ーその⑦

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無謀だ。忍びでもない人間が二人の忍びを相手にできるものか。
室井善弥は目の前の赤い肌の男を見て嘲笑う態度を隠そうとしなかった。
室井善弥は少年であったのだが、彼は凄腕の忍びでもあった。
最も、年齢を理由に最後まで甲賀の忍びになる事は不可能であったが……。
善弥はだからこそ、自分達の里の場所を教えたのだ。伊勢同心の忍び達に、そして、東京に居たペンドラゴン兄妹に。
ペンドラゴン兄妹と初めて顔を合わせた時に、二人の金髪の男女のうち、女性の方が彼の顎を持ち上げ、口吸いをしそうな程、近い距離にまで近付き、両頬を真っ赤にする彼の耳元で流暢な日本語を使って囁く。
「あなた、いいお顔ね。それなのに、どうして隠したりするの?」
善弥にとってこんな事を言われたのは甲賀の頭領に言われて以来、初めての事である。善弥は自身の本来の顔を見抜いた女性に慌てて聞き返す。
「どうして、オレの正体を見抜けたんですか!?オレの妖魔術で隠している筈なのに……」
長い金髪の髪の女性は口元をドレスで隠して上品に笑い、
「簡単な話よ。わたしの印術で見抜いたの……印術上の段、あなたも使える筈よね?」
彼は感銘を受けた。いや、感激さえ覚えたと言っても良いかもしれない。
目の前の女性が浄瑠璃に登場する人形のように美しい顔をしているだけではなく、上段の印術さえも使える実力者であるという事実に。
もう少し、彼女と話したい。そんな彼の欲望を断ち切ったのは兄のシリウスであった。シリウスは彼の左手を強引に引っ張り、彼に向かって言った。
「お前は我々の下に降ると言ったが、お前にそれなりの地位を与える程の情報はあるのだろうな?」
善弥は満面の笑みを浮かべて首肯する。
「勿論です!私の里……甲賀の里の場所を教えます!ですので、私を忍びとして重用してもらえないでしょうか!?」
笑顔を浮かべつつも、内心は焦りを感じる善弥の胸ぐらを掴み上げ、彼は善弥に向かって妹同様に持っている美しい顔を近付けていく。
「……気に入ったぞ、私は好きなんだよ。そう言った密告者がな、密告者は重く重用し、実力に合えば私と共に戦場で戦わせる……お前にはその資格がありそうだ。今からお前に苗字を与えるお前はこれから室井という苗字を名乗ると良い。天魔の忍びたるもの苗字が無ければいかんだろう」
シリウスはそう言って、彼を放す。
縁側から庭に放り出されたが、彼は満足そうに笑っていた。
今日だけで、見ているだけで縁が転がり込んできそうな程の美しい顔を持つ男女と出会えた上に、彼に使ってもらえる事が分かったのだ。
彼はいつも顔に掛けている自身の顔に被せている不細工な少年の変身を解き、本来の姿に変えていく。
室井善弥の本来の顔を見て、二人の美しい外国人の男女も思わず息を呑んでしまう。
その少年はあまりにも美しく、街を歩けばすれ違う人の何割かが思わず振り向いてしまう程の美人である事は間違い無い。
少年は戦国時代の殿様に仕える小姓のように美しく、そして上品なペルシャ猫を思わせるような風格を顔から漂わせていた。
シリウスは考えた。もし、この美少年がそのまま成長し、宣伝として使えるのではないかと。
恐らく、潜入するためには相応しくない程の美しい顔であるから、彼は敢えて目立たない不細工な顔で本来の顔を覆っていたのだろう。
善弥はルネサンス期に作られた美しいギリシャの神々を思わせる彫刻のような美しい顔で、
「ありがとうございます。シリウス隊長のお陰で、私は里のみんなにも出せなかった、私本来の顔を出す事が出来た上に苗字まで頂けるなんて!本当に感謝してもしきれません!」
両手で揉み手をして、彼に向かってニヤニヤとして笑いを浮かべる少年にシリウスは冷徹に指示を出す。
「まだだ。お前の本来の顔はまだ見せるな、お前の本来の顔を見せるのは全ての邪魔者を片付けた時だ。その時はーー」
「その時は改めて、三人でお祝いをしましょうか?横浜の方にある西洋料理の店に案内しましょう。お兄様とわたくしとあなたの三人で邪魔者の殲滅を祝うのです」
善弥は激しく首を縦に振って、長い金髪の髪を持つ美しい顔の女性の提案に同意した。
事前に彼は打ち合わせを重ね、当日は怪しまれないように、里の中に居るように頭領から命令を出された。
彼は頭領の命令に従い、当日は従来通りの顔を貼り付けて、里の忍びとして過ごし、時期が来るのを見て、知らせた。
善弥の合図と共に弥一の城を軸に集められた天魔、地魔の忍び達が一斉に甲賀の里に流れ込む。
善弥は全身をゾクゾクと震わせながら、恍惚に打ちひしがれ、自分の生まれ育った場所が焼かれていく光景を眺めていた。
村を焼きながら、降魔霊蔵はただその様子を眺めている善弥に指示を出す。
「何をしておる。お主も参加せぬか」
「分かりました。ですが、ただ殺すだけでは面白くありませぬ。こう言った趣向の遊戯はどうでしょう?」
善弥は何処からか弓と矢を取り出し、矢を背中にくっ付けると、焼かれた家から出てきた男を射殺す。
「焼かれた家から出てきたを打つ遊戯です。どうでしょう?お楽しみ頂けますか?」
それから、善弥は弓と矢を霊蔵に手渡し、彼に遊戯を試すように指示を出す。
霊蔵はその遊戯を楽しんでいるらしく、相変わらずの狂った表情で次々と人間を射殺していく。
善弥はあの日の快楽を忘れる事が出来なかった。だからこそ、目の前の青年を射殺せると考えると胸が躍るのだ。
善弥は弓と矢を空中から取り出し、もう一度時雨誠一郎に彼の神経が集中していた時を狙い、その弦を引っ張っていく。
狙いを定め背後から孝太郎を射殺そうとしたが、彼は背後から殺気を察し、体を捻って、背後からの攻撃を防ぐ。
背後から殺気を漂わせていたのは一人の少年であった。
その少年の顔には見覚えがあった。彼のかつての友人、龍一郎であった。
龍一郎は頬を紅潮させながら、忍刀で彼に向かって斬りかかっていく。
彼は懐から取り出したクナイを左手だけで操り、龍一郎の忍刀に対処していく。
クナイと刀との間に火花を散らしながらも、彼は美しい顔と詩的な響きさえ感じる可愛らしい声でかつての友人に再会の挨拶を浴びせる。
「久し振りだな!まさか、生きているとは思わなんだぞ!」
「黙れッ!黙れッ!よくも、よくも、よくもッ!お前があいつらにペラペラと情報を喋らなけりゃあ、あんな事にはならなかったんだぞ!」
「推論でオレが密告したと導き出したのか?凄いなぁ」
感心したような口振りだが、顔を明らかに龍一郎を見下ろしていたと言っても良いだろう。
龍一郎は歯を軋ませながら、刀を握る手を強めて美少年の首を狙う。
彼にとっての絶対的な悪を取り除くために。
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