魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第六部『鬼麿神聖剣』

天魔衆との対決ーその④

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夕焼けの街の中で、彼らは尚も戦いを繰り返していた。
傍目からは高速で動いているために、強い風が舞っているようにしか思っていないのだろう。
街の人々は笑顔で商売の道具を載せるために大八車や荷車を引き、笑顔ですれ違う人々に挨拶を交わしていく。
その様子を頭領のたった一人の妹、シャーロット・A・ペンドラゴンは眺めていた。
彼らはあまりにも無知で愚かで尚且つ無垢で愛らしい存在だと。
思えば23世紀の時代に居た時から大衆は無知で愚かな存在であると彼女と彼女の兄は認識していた。
兄はそんな大衆を軽蔑し、なるべくなら関わらないようにしていた。
それでも、自分が侮辱の言葉や侮蔑の言葉を吐かれた際には恐れる事なく、大衆に掴みかかっていき、自分を守ってくれた。
シャーロットがそんな事を考えていると、彼女の肩に手を置かれた事に気が付く。
彼女が背後を振り返ると、そこには見慣れた顔の老人が笑顔で立っていた。
彼女の兄のこの時代の父親、ロバート・コーンウォールであった。
ロバートは優しい笑顔で彼女の肩に手を置いて、
「どうしたんだ?こんな道の真ん中でボーッとして?」
「お父様こそどうなされたのですか?確か、屋敷に居た筈では?」
シャーロットの問い掛けにコーンウォール氏は笑顔で応じ、それから、彼女に悪戯っぽい笑顔を浮かべて言った。
「さっき、大きな音がしただろう?あの音がした途端にお前達二人が居なくなってな、心配になって屋敷を出て探していたんだよ」
シャーロットは頬を綻ばせて、劇場の女優が見せるような可愛らしい笑顔で義父に向かって笑い掛ける。
「後はシリウスを探すだけだな……彼にも困ったものだ。しりーー」
コーンウォール氏が最後の言葉を喋り終える前に、彼は別の人間の手によって拘束されてしまう。
コーンウォール氏が背後を振り向くと、そこには血走った目を浮かべる日本人の老人が彼に刀を突き付けていたのだ。
老人は日本語で何かを叫んでいた。コーンウォール氏は日本語を話せない上に読み書きも出来ない。
もし、彼に日本語の心得があったとするのならば、この後の展開は少しばかり異なる展開を見せられたかもしれない。
何故なら、彼を拘束していた幻斎はペンドラゴン兄妹の過去を捲し立てるように喋っていたからである。
シリウスが風のような動きを停止させ、幻斎の元に近付いたのもこのためかもしれない。
コーンウォール氏は日本語を理解できないが、シリウスとシャーロットのペンドラゴン兄妹は日本語を流暢に話す事ができる。
だからこそ、二人は険しい顔で幻斎老人を睨むのだろう。
シリウスは日本語で幻斎に向かって問い掛ける。
「その人を離せ、彼は我々の戦いには関係無いだろう?」
「おやおや、無関係の人物を大勢戦いに巻き込んだのと同じ人物とは思えない発言じゃな、本来ならば、ワシはこの人間を一思いに斬り殺してやりたい……そうして、お前に身内を奪われる辛さを教えてやりたいのだ」
「……やはり、降魔霊蔵の言う通り、甲賀の忍びどもは異常者の集まりだ。第一その人を殺したとしても、お前の身内は帰って来ないのだぞ、いつまでも『復讐』なんて自己満足に拘っていないで、お前の子飼いの忍びを一人でも徴兵に行かせたらどうだ?そうすれば、戸籍を持てるように
幻斎はシリウスの挑発に刀がブルブルと震えている事に気が付く。
シリウスは途中までは説得する予定であった。義父に居なくなれば自分達の地位は再びお雇い外国人のジョン・スミスとジェーン・ドゥに戻ってしまうからだ。
だが、説得の途中にシリウスは印術の上段の持つ力を思い出す。
印術の上段の印は心理とこの世ならざる物と繋がる術式であり、また相手の心に炎を宿らせる事のできる最強の印術。
もし、上段の印術を幻斎が使ってしまえばこの時代の自分達の養父、ロバート・コーンウォールは気が付いてしまうだろう。自分達二人こそが彼の息子夫婦を殺害した張本人だと。
それだけは避けたかった。だからこそ、シリウスは途中から彼自身の手により、コーンウォール氏を斬り殺すように誘導していたのだ。
シリウスは表向きは焦った表情を浮かべながらも、心の奥底では早くやれと敵である幻斎に指示さえ出していた。
と、ここで彼の心中を察したのだろうか、幻斎はコーンウォール氏の背中を押し、乱暴に兄妹の元へと突き出す。
バランスを崩して倒れそうになる義父を彼の優しい養女は受け止めた。
「お父様……大丈夫でございますか?」
彼女は英語で彼の安否を確認する。コーンウォール氏はようやく聞き慣れた言語が耳に届いた事により、安堵の顔を浮かべた。
「私は大丈夫だ。さぁ、早く帰ろうか?家に帰って警察に連絡を入れよう。きっと、警察ならば彼を確保してくれる筈だ」
コーンウォール氏が最愛の娘に縋り付こうとしていると、幻斎はその隙を狙って、シャーロットとコーンウォール氏の両方に上段の印術を使用し、ペンドラゴン兄妹の犯した罪を彼の頭の中に植え付けていく。
コーンウォール氏の頭の中に流れたのはこれまで、彼が養子としてきた二人の兄妹の過去の悪事であった。
十代の頃の乱暴者の養父の殺害に始まり、二人は戦争犯罪人と称されてもおかしくの無い罪を任務と称して楽しむ姿を見ていた。そして、日本の記憶。
見慣れない高い建物の間に二人と思われる洋服を着た男女が因縁を付けた不良を容赦なく殺害する場面、失敗した部下を容赦なく殺害する場面、罪の無い民間人を快楽のために殺害する場面を目撃する。
そして、次に自分達の時代に突入し、そこで彼は二人が自分の最愛の息子、ジェームズとその妻を殺害する場面を目撃する。
コーンウォール氏は耐え切れずに叫ぶ。周りの人々も思わず逃げ出すような大きな声だ。
それから、彼は先程まで縋り付いていたシャーロットを突き飛ばし、懐から隠していた拳銃を取り出す。
彼は鼻を膨らませ、そこから荒い息を出しながら、目の前の長い金髪の女を睨む。
「よくも……よくも……よくも息子をッ!」
「今頃、お気付きになられたんですか??」
「黙れッ!お前がお父様なんて呼ぶなッ!息子を返せ!」
だが、拳銃を突き付けられたとしても彼女はクスクスと笑うばかり、動揺する様子は微塵も見せようとしない。
その様子にコーンウォール氏はつい首を傾げてしまう。
彼女は拳銃が怖くないのだろうか?そんな事を考えていると、突如、彼女の姿が消えた。
すると、次に彼の背後に現れ、彼の首元にクナイと呼ばれる刃物を突き付けて、
「お父様……どうやら、ここでお別れのようですね。名残惜しいですわ」
シャーロットは意を決して義父の喉元を掻っ切る。
コーンウォール氏の首から噴水のように大きな水が飛び出し、地面の上に倒れてしまう。
それを見た市民達から悲鳴が上がっていく。
「ひ、人殺しィィィィ~!!!」
辺りの人々は逃げ出そうとしたが、彼らは足を踏み出した瞬間に額に致命傷を受けて次々と地面に倒れていく。
唯一、その場所に残ったのは幻斎だけであった。
幻斎は刀を握り締め、目の前の男に向かって問う。
「何をした?」
「フフ、目撃者はこうして殺すのに限る。妹を侮辱したあの人間どもには末路には相応しい結末だとは思わぬか?」
シリウスの問い掛けに幻斎は黙って睨み返す。
「でも、幻斎様と仰られましたよね?あなた様はこれであなた様を助けようとする町民達は皆極楽へと旅立たれましたよ。今まで以上に不利な戦いになる事を承知の上でお兄様とわたしに向かってくるおつもりでしょうか?」
幻斎は無言で刀を構えてシャーロットに答えた。
それを見て、二人の兄妹は妖しく笑う。
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