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第六部『鬼麿神聖剣』
天魔衆との対決ーその②
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鬼麿と孝太郎、そして他の三人の忍びは互いに自分達の背中を預けながら、目の前の包囲網と対峙している。
そんな中で、鬼麿は包囲網を見ながら、ここに至るまでの事を思い返していく。
あの列車での戦いの後に幻斎は自分一人だけで行くと決意し、単身で東京へと向かっていた。
列車の事故現場の後から孝太郎達は通常の街道を通って、信州にまでやって来たのだ。
信州に来るまでの旅は快調に進んでいたと言っても良いだろう。
二、三の細かなトラブルはあったにせよ、妖魔党の忍びとは会う事なく、進めたのだ。問題は信州に足を踏み入れてからだった。
信州に着くなり、何処の街でも彼らを煙たがる様に人々は接客や商売を嫌がり、宿には泊まらせないと言った有様であった。
妙だと感じた花彦が単身、調査を試みたところ、この事態を引き起こしたのは信州の土地に新たに新設された神道系の教団、羽倉教なる教団の指示らしい。
羽倉教は明治時代の初期には23世紀においても存続している教派神道の一派であった。
だが、他の教派神道の宗派に比べれば、成立から数年の年月で滅んでしまったと聞く。
孝太郎は昔に羽倉教に関する歴史小説を読んだ様な気がするが、ハッキリとした内容が思い出せない。
昔過ぎて忘れてしまったのだろうか。
そんな事を考えていると、花彦が街外れの堂に泊まっている一行の元に現れて、調査の内容を報告していく。
「成る程、この地域の人達は全員、羽倉教の信徒だと言うんだな?」
孝太郎の問い掛けを花彦は首肯する。
「となると……一刻も早くこの信州の土地を抜け出して、東京に行くのが適切と言うべきかな?」
龍一郎は全員に聞こえる様な大きな声で独り言を呟く。
正確に言えば独り言ではなく、独り言に見せかけた全員への指示と言うべきだろう。
全員が顔を見合わせて顔を縦に振って、堂から出ようとするなり、大きな声が聞こえた。
草木の生い茂る山の上で何事かと孝太郎が辺りを見渡すと、そこには死装束の様な真っ白な着物を着た禿頭の男達が火縄銃を構えて堂の周りを包囲しているのが見えた。
堂の周りの敵を確認しようとも、この様に草木が生い茂る中で迂闊に手を出したりするのは危険だ。
孝太郎がそう決めた途端に、他の全員も闘争の意思が無い事を周りを囲む信者達に示す。
信者達は背中に下げていた火縄銃で彼ら一行を脅しながら、彼らが寝泊りしていたお堂の上に存在する自分達、教団の施設へと連れて行く。
在家の信者が訪れる時のためか、それとも出家信者とその家族との面談のためか、草木の生い茂る場所の外れには石で舗装された通路が敷いてあった。
あれならば、馬車などで訪れても大丈夫だろうと孝太郎が考えていると、ボサッとしていると思われたのだろう。
背後から彼らを見張る信徒の男が孝太郎の尻を火縄銃の先端で突く。
孝太郎は信者達に追い立てられながら、山の上の羽倉教の施設へと上がっていく。
羽倉教の修行と宿舎を兼ねた施設は大きな鉄柵に囲まれた中に存在する二階建ての和風の建物となっていた。
二階建ての建物だけでは多くの信者を住み込みで修行させるのには不足ではないかと思わされるが、横に伸縮するゴムの様に大きく広がる建物を見ればその心配も無いだろう。
厠や食事を作る施設はその建物の端に用意されているらしい。
掘立小屋の様な小さな施設からは夕食の準備をしているのだと思われる。その証拠に白い煙が蜜柑色の空へと昇っていく。
また、施設と鉄柵の間に存在する大きな庭では鶏などが飼われているのか、ちょくちょく鳴き声が聞こえた。
孝太郎がこの施設を見ていると、彼は頭の中に“一年前”に対峙したバプテスト・アナベル教の存在を思い出す。
孝太郎がその事で身震いしていると、信者の男が施設の中に入る様に指示を出す。
指示を受けた彼らは施設の中に入り、教祖と信者との謁見の間へと案内される。
謁見の間は大きな玄関をくぐって正面へだと向かって百歩程歩いた場所に存在していた。
謁見の間の大きさは畳にして五十畳程。
その正面に二十畳程の大きさの上座が広がっており、その上に一人の女性が立っていた。
彼女は既にこの国では着られていないであろう十二単を着ていた。
年も若い。年齢は恐らく、十代の後半から二十代の前半程の歳だろうか。
孝太郎が呆気に取られて、彼女を眺めていると、彼女は唐突に口を開き、
「ようこそいらっしゃいました。わたしがあなた方をこの信州の土地にお止めした張本人……出雲五葉と申すものです。以後、お見知り置きを……」
彼女は上座の上で丁寧に頭を下げ、手を突いていた。
それに合わせて他の忍び達も頭を下げていく。
最も、彼女に従ったと言う意味では無い。彼女が頭を下げているから、形式的に返しただけだ。それ以上でも以下でも無い。
と、ここで上座の上の女教組は鈴を鳴らし、信者の一人を呼び付ける。
何やら耳打ちをすると、男を直ぐに返し、彼らに向かって優しい顔で微笑む。
「お待たせしましたわね。あの人に今夜はあなた方をもてなすように頼んだの。だって、あなた方は大切なお客様方ですから、ね?」
孝太郎は優しい顔を浮かべていても彼女が信じられなかった。
何故なら、かつて自分を殺した石川葵と言う女と彼女の姿が重なって見えたからだ。
石川葵も常に優しい笑顔を浮かべて、行動し、結果として自分を何度も危険な目に遭わせていたのだ。
目の前の少女はその石川葵と類似している点が多過ぎた。
特に優しい笑顔と怪しげな宗教団体と関わっていると言う点があるのならば、警戒しない訳にはいかないだろう。
結果として彼は別々に部屋に案内された時も、自分の主人を守るために、積極的に毒味と配置物への警戒を行い、安全だと確信を得てから、彼に使用させた。
鬼麿は神経を尖らせる孝太郎の姿を見て、何も言う事が出来なかったと言うのを夜の夕食の席で漏らしたらしい。
夕食は謁見の間で信者同士で集まって食するらしい。
孝太郎はここでも毒味を試みて、鬼麿をうんざりさせていた。
やがて、夕食の席で甲賀党の面々に信者達がやけに酒を勧めるようになってきていた。
孝太郎がそれを訝しげに思いながら、鬼麿や龍一郎は勿論、他の仲間達にも酒は控えるように指示を飛ばす。
信者達はやがて、孝太郎が何度も酒を断るのを見て業を煮やしたのだろう。
正面の席で箸を取っていた一人の男が恐らく、独断で孝太郎に向かって斬りかかっていく。
孝太郎は咄嗟に異空間の武器庫から刀を取り出し、向かって来た男の足の筋を斬り付ける。
男は両足から血飛沫を上げて地面に倒れたが、それを合図に他の信者達も武器を持って襲い掛かっていく。
甲賀党の面々は酒を飲んでいなかった事が幸いしたのか、慌てて背中から忍刀を取り出し、身を守っていく。
彼らは互いに互いを守りながら、大きな庭へと飛び出す。
そして、現在に至ると言う訳だ。
今日はあまりにも多くの事があり過ぎたような気がする。
鬼麿は包囲を強める白い服の男達を見ながら溜息を吐く。
そんな中で、鬼麿は包囲網を見ながら、ここに至るまでの事を思い返していく。
あの列車での戦いの後に幻斎は自分一人だけで行くと決意し、単身で東京へと向かっていた。
列車の事故現場の後から孝太郎達は通常の街道を通って、信州にまでやって来たのだ。
信州に来るまでの旅は快調に進んでいたと言っても良いだろう。
二、三の細かなトラブルはあったにせよ、妖魔党の忍びとは会う事なく、進めたのだ。問題は信州に足を踏み入れてからだった。
信州に着くなり、何処の街でも彼らを煙たがる様に人々は接客や商売を嫌がり、宿には泊まらせないと言った有様であった。
妙だと感じた花彦が単身、調査を試みたところ、この事態を引き起こしたのは信州の土地に新たに新設された神道系の教団、羽倉教なる教団の指示らしい。
羽倉教は明治時代の初期には23世紀においても存続している教派神道の一派であった。
だが、他の教派神道の宗派に比べれば、成立から数年の年月で滅んでしまったと聞く。
孝太郎は昔に羽倉教に関する歴史小説を読んだ様な気がするが、ハッキリとした内容が思い出せない。
昔過ぎて忘れてしまったのだろうか。
そんな事を考えていると、花彦が街外れの堂に泊まっている一行の元に現れて、調査の内容を報告していく。
「成る程、この地域の人達は全員、羽倉教の信徒だと言うんだな?」
孝太郎の問い掛けを花彦は首肯する。
「となると……一刻も早くこの信州の土地を抜け出して、東京に行くのが適切と言うべきかな?」
龍一郎は全員に聞こえる様な大きな声で独り言を呟く。
正確に言えば独り言ではなく、独り言に見せかけた全員への指示と言うべきだろう。
全員が顔を見合わせて顔を縦に振って、堂から出ようとするなり、大きな声が聞こえた。
草木の生い茂る山の上で何事かと孝太郎が辺りを見渡すと、そこには死装束の様な真っ白な着物を着た禿頭の男達が火縄銃を構えて堂の周りを包囲しているのが見えた。
堂の周りの敵を確認しようとも、この様に草木が生い茂る中で迂闊に手を出したりするのは危険だ。
孝太郎がそう決めた途端に、他の全員も闘争の意思が無い事を周りを囲む信者達に示す。
信者達は背中に下げていた火縄銃で彼ら一行を脅しながら、彼らが寝泊りしていたお堂の上に存在する自分達、教団の施設へと連れて行く。
在家の信者が訪れる時のためか、それとも出家信者とその家族との面談のためか、草木の生い茂る場所の外れには石で舗装された通路が敷いてあった。
あれならば、馬車などで訪れても大丈夫だろうと孝太郎が考えていると、ボサッとしていると思われたのだろう。
背後から彼らを見張る信徒の男が孝太郎の尻を火縄銃の先端で突く。
孝太郎は信者達に追い立てられながら、山の上の羽倉教の施設へと上がっていく。
羽倉教の修行と宿舎を兼ねた施設は大きな鉄柵に囲まれた中に存在する二階建ての和風の建物となっていた。
二階建ての建物だけでは多くの信者を住み込みで修行させるのには不足ではないかと思わされるが、横に伸縮するゴムの様に大きく広がる建物を見ればその心配も無いだろう。
厠や食事を作る施設はその建物の端に用意されているらしい。
掘立小屋の様な小さな施設からは夕食の準備をしているのだと思われる。その証拠に白い煙が蜜柑色の空へと昇っていく。
また、施設と鉄柵の間に存在する大きな庭では鶏などが飼われているのか、ちょくちょく鳴き声が聞こえた。
孝太郎がこの施設を見ていると、彼は頭の中に“一年前”に対峙したバプテスト・アナベル教の存在を思い出す。
孝太郎がその事で身震いしていると、信者の男が施設の中に入る様に指示を出す。
指示を受けた彼らは施設の中に入り、教祖と信者との謁見の間へと案内される。
謁見の間は大きな玄関をくぐって正面へだと向かって百歩程歩いた場所に存在していた。
謁見の間の大きさは畳にして五十畳程。
その正面に二十畳程の大きさの上座が広がっており、その上に一人の女性が立っていた。
彼女は既にこの国では着られていないであろう十二単を着ていた。
年も若い。年齢は恐らく、十代の後半から二十代の前半程の歳だろうか。
孝太郎が呆気に取られて、彼女を眺めていると、彼女は唐突に口を開き、
「ようこそいらっしゃいました。わたしがあなた方をこの信州の土地にお止めした張本人……出雲五葉と申すものです。以後、お見知り置きを……」
彼女は上座の上で丁寧に頭を下げ、手を突いていた。
それに合わせて他の忍び達も頭を下げていく。
最も、彼女に従ったと言う意味では無い。彼女が頭を下げているから、形式的に返しただけだ。それ以上でも以下でも無い。
と、ここで上座の上の女教組は鈴を鳴らし、信者の一人を呼び付ける。
何やら耳打ちをすると、男を直ぐに返し、彼らに向かって優しい顔で微笑む。
「お待たせしましたわね。あの人に今夜はあなた方をもてなすように頼んだの。だって、あなた方は大切なお客様方ですから、ね?」
孝太郎は優しい顔を浮かべていても彼女が信じられなかった。
何故なら、かつて自分を殺した石川葵と言う女と彼女の姿が重なって見えたからだ。
石川葵も常に優しい笑顔を浮かべて、行動し、結果として自分を何度も危険な目に遭わせていたのだ。
目の前の少女はその石川葵と類似している点が多過ぎた。
特に優しい笑顔と怪しげな宗教団体と関わっていると言う点があるのならば、警戒しない訳にはいかないだろう。
結果として彼は別々に部屋に案内された時も、自分の主人を守るために、積極的に毒味と配置物への警戒を行い、安全だと確信を得てから、彼に使用させた。
鬼麿は神経を尖らせる孝太郎の姿を見て、何も言う事が出来なかったと言うのを夜の夕食の席で漏らしたらしい。
夕食は謁見の間で信者同士で集まって食するらしい。
孝太郎はここでも毒味を試みて、鬼麿をうんざりさせていた。
やがて、夕食の席で甲賀党の面々に信者達がやけに酒を勧めるようになってきていた。
孝太郎がそれを訝しげに思いながら、鬼麿や龍一郎は勿論、他の仲間達にも酒は控えるように指示を飛ばす。
信者達はやがて、孝太郎が何度も酒を断るのを見て業を煮やしたのだろう。
正面の席で箸を取っていた一人の男が恐らく、独断で孝太郎に向かって斬りかかっていく。
孝太郎は咄嗟に異空間の武器庫から刀を取り出し、向かって来た男の足の筋を斬り付ける。
男は両足から血飛沫を上げて地面に倒れたが、それを合図に他の信者達も武器を持って襲い掛かっていく。
甲賀党の面々は酒を飲んでいなかった事が幸いしたのか、慌てて背中から忍刀を取り出し、身を守っていく。
彼らは互いに互いを守りながら、大きな庭へと飛び出す。
そして、現在に至ると言う訳だ。
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