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第六部『鬼麿神聖剣』

天魔衆との対決ーその①

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シリウスの凍て付くような視線を前に、彼女は目を逸らす事しか出来ない。
答えない彼女に彼の苛立ちが募ってきたのだろう。
彼女に向かって自動拳銃の銃口を突き付ける。
「これは携帯式の銃でな、私にしか扱えない貴重な武器だ。ここで今、お前の額を撃ち抜いても良いのだぞ、答えろ、お前はどのように対処する?」
五葉は口籠った末に、ようやく頭の中に妙案を思い付き、その言葉を紡ぎ出す。
「時雨殿と室井殿をお貸しくだされ!そうなれば、三人の天魔とわたしの信徒を使って、あやつらを地獄に叩き落としてくれましょう!」
五葉は胸に華奢な手を当てて頭領に向かって主張した。
シリウスは五葉に向かって暫くは鋭い視線を向けていたが、やがて、何も言わずに彼女に向かって背中を向けて、去っていく。
それから、彼は上段の印術を使用し、移動式の城を呼び出す。
異空間に作り出された城の中に入った彼は玉座の上で弥一に命じ、二人の天魔を信州の土地に集めるように指示を出す。
弥一は大きく頭を下げて、彼らを呼び出す。
そして、主人もろとも三人を元の地に放り投げると、彼と異空間の城は音も無く元の空間へと消えていく。
シリウスは二人に指示を出す。
「甲賀の忍びが現れるまではお前達はここの信者として過ごすようにしろ、ただし、他の信者と揉め事を起こすな、他の信者と揉め事を起こせば、奴らを迎撃する時に連帯を取るのが難しくなるであろうからな」
シリウスの言葉に二人は地面の上で平伏し、彼の言葉に従う意思を示す。
シリウスは二人を一瞥すると、もう一度二階建ての大きな館へと戻っていく。
自分の義父、ロバート・コーンウォールの世話をするためだ。
黒色のスリーピースのフロックコートの下に白色のフレンチシャツを着て、黒色のズボンを履き、サスペンダーでバランスを取り、黒色のハプタイを巻き付けた彼は立派な英国の紳士に見えた。
そんな彼の後ろ姿を眺めながら、三人の天魔は作戦会議を始めていく。
翌日、コーンウォール一家は一度、東京の方に戻る事になっていた。
鉱山開発のために必要な資料を取り、必要な申請の書類を作り上げるためだ。
彼らは輸入されたばかりだと思われる真新しい朱色の馬車に揺られて帰っていく。
三人の天魔は頭領が一旦帰る様子を眺めながら、信州の地で甲賀の面々を待ち侘びる事にした。
五葉が信者から甲賀の面々が現れたと信者から情報を入手したのはその三日後の事であった。
だが、偵察に向かった信者からの報告によると、その中に甲賀の忍びの頭領、甲賀幻斎は姿を見せていないらしい。
妙に思いながらも、山中を歩く彼らを山の上に存在する自分達の施設へと誘導するように彼女は厳かに指示を出す。
失敗はなりませんよと付け加えた事もあり、信者は震えながら両手の拳を畳に付け、正座をしながら頭を下げる。






シリウス・A・ペンドラゴンは仕事の後に、空いた午後の時間を利用して妹との戯れを楽しんでいた。
最愛の女性の髪も口も全てが熟れたばかりの果実のように甘々しい。
彼は愛撫に酔っていた。彼が口付けをするために、愛しい妹はそれ以上の返しをする。
シリウスは時に豹のように激しく、時に子猫のように愛らしい妹を誰よりも愛していたを
「アーサー、アーサー、早く、わたしに……」
長椅子の上で彼の頬を優しく触る妹の髪を優しく撫でて、彼が更なる口付けを交わそうとしたその瞬間だった。
「成る程、お主らはそのような関係であったかッ!成る程、そのような大罪を犯しているのならば、あのような事をしてもおかしくはないなッ!」
自宅の庭に白い髭を全身に蓄えた老人が立っていた。
シリウスは長椅子から立ち上がり、縁側へと向かう。
縁側で彼は男に向き直り、手を叩いて男の来訪を歓待した。
「これはこれはよく来てくれた。甲賀の里を滅ぼされた負け犬の老人殿よ」
「黙れッ!あの時の恨みだけを糧にわしはこれまで生きてきたのよ!お主ら妖魔党に殺された仲間の恨みを晴らすためだけになッ!」
シリウスは大きく溜息を吐いて、
「またそれか、どうしてどの世界の奴らも一言目二言目には誰もが「仇」だの「復讐」だの大それた言葉を使うんだ?お前達はそういった綺麗事に隠れて、自分達の個人的な恨みを晴らしたいだけだろう?」
「否定はしない……」
幻斎が縁側の上の男に向かって刀を向けた時だ。
シリウスの背後から女が首を出し、幻斎に向かって護衛の天魔について尋ねる。
幻斎は無言で懐からその男の首を放り投げる。
女の顔色が変わった。険しい顔を浮かべて、幻斎を睨む。
女は乱れていた紅色のドレスを整え、何処からか取り出した西洋の剣を取り出す。
「成る程、二人がかりでわしに向かって来るらしいな、どうやら、一人だけでは勝てぬと思われる」
幻斎がクックッと笑うと、それに対して彼女が笑い返す。
一通り笑い通した後に、彼女は兄の元から離れ、縁側から庭の幻斎にサーベルの剣先を突き付けて、
「わたし達がそんな見え透いた挑発に乗るとでも?そりゃあ、殺されたあの方は気の毒に思いますし、わざわざ仲間と逸れてまで単独で東京を訪れたあなたには敬意を表しますが、だからと言って一対一の対決に出るかと思われれば、そんな事はありませんの」
彼女は上品な言葉で言った。
幻斎は挑発が無意味だと知ると、彼は今度は道徳と宗教を用いて二人を論破し、一対一の戦いに持ち込もうと目論む。
「二人で挑むとはな、お主らの神は余程、お主らに運を与えんと見えるな、もし、お主らが神に見染められていたのならば、今頃は一対一で戦えてーー」
「世迷言はよせ」
シリウスはキッパリとした口調で言い放つ。彼は悪意のある微笑を貼り付けながら、その後の言葉を繋げていく。
「私と妹は神に見染められている。任務で、義憤で、或いは私利私欲のために何百人もの人間を殺そうとも妹も私も何の罰も受けていない。理由は簡単だ。神が私と妹を許しているからだ」
幻斎はシリウスの言葉に対して首を横に振る。
「いいや、それはまやかしよ。神は意図的にお主を見逃しているだけに過ぎん……お主らは必ずやお主らが殺した人間達によって黄泉の国に引き摺り込まれるであろうな」
「下らんな、そんな事を言いにわざわざ困難な道を選び、監視の目を掻い潜って東京にまで来たのか?」
「いいや、お主のような忌々しい連中をこの世から消し去るためぞッ!」
幻斎は背中に下げていた忍刀を抜き、目の前の男に向かって斬りかかっていく。
だが、その前に標的の妹が動き、幻斎を刀もろとも弾く。
幻斎は背中を塀に強く打ちつけながらも、鬼の様な形相で二人を睨む。
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