魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第六部『鬼麿神聖剣』

吉田神道の逆襲ーその⑤

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吉田神左衛門は額に右手の掌を当てて、目の前の少年を嘲笑う。
今の彼ならば殺される予感しかしないし、その上、少年は両手に握っている刀を恐怖のためかプルプルと震わせている。
この状態ならば、彼は容易に勝つ事が出来るだろう。
神左衛門は太刀を突き付けて、殺す前に少年に向かって名前を問う。
「オレの名前は鬼麿!甲賀党の一員だッ!」
神左衛門は少年の言葉に頭領の示した少年が目の前に存在している事に気が付く。
神左衛門はここで少年を始末すれば、全ての決着が付くと考え、躊躇う事なく自身の妖魔術を使用する。
妖魔術の名前を心の中で叫び、少年に自分の式神を向かわせて行く。
少年は刀を掲げ、その刀の刃に太陽の光を纏わせていく。
陰陽師の男は確信した。目の前の少年は天照大神の力を貸与されているのだと。
同時に、目の前の少年が自分自身が忠誠を誓う頭領よりも神に思いやられている事を知り、激しい嫉妬の念に駆られていく。
神左衛門は太刀を構えて、目の前の少年に向かって斬りかかっていく。
弧を描いて太刀の刃を光らせる公家風の衣装を纏った男の一撃を鬼麿は天照大神の導きにより、回避していく。
その様子を眺めていた陰陽師の男は口元に怪しげな笑みを浮かべて、今度は彼に向かっていく前に、何かを待ちわびるかのように刀を構え続けていた。
足を擦らせながら、刀を構え続ける男の動作に鬼麿は首を傾げていたが、男の背後からやって来た白目を剥け、舌を出し、人間としての意思を捨てた言わんばかりに蠢く人々が現れた。
鬼麿はその人々の姿を見て、目の前の男に向かって叫ぶ。
「ド外道がッ!」
「外道で結構……最終的には勝てれば良いのだ。今や、それ相応の実力が無い者は全て、このような姿になっておろうな、まさしく悪夢じゃ」
他人事のように涙ぐんで呟く公家風の衣装の男が鬼麿には腹正しかった。
気が付けば彼は刀を持って、眉間に青筋を立てながら問い掛ける。
「キミ……頭大丈夫?正気とは思えない。いや、キミは正気じゃ無いと言っておくべきかな?こんな事はしないからなッ!」
鬼麿は怒りの感情に突き動かされ、目の前の男に向かって斬りかかっていく。
が、鬼麿の刀は陰陽師の男に当たる事なく、代わりにこの車両の乗客だったと思われる着物の男を一刀両断した。
目と鼻が割れ、地面に倒れてしまった以上はもう再生する事は無いだろう。
鬼麿は抗議の言葉を叫ぶ代わりに、卑劣な陰陽師に向かって憎しみの意味を込めた鋭い両眼を向ける。
だが、公家の衣装に身を包んで、心までも穏やかな筈の公家の気分になり下がっているのだろうか、目の前の男は動こうとしない。
あくまでも鬼麿が動こうとしているのを待ち望んでいるに違いない。
吉田神左衛門は目の前の少年が感情に動かされやすい人間なのだと認識する。
その証拠に、事実をありのまま述べただけで、目の前の少年は我を忘れて斬りかかっていた。
だからこそ、もう少し彼の感情を上手く逆撫でさせれば更に突き動かす事も可能かもしれない。
陰陽師は賭けを始める事にした。
彼は口元に妖しい笑いを浮かべて、
「おっと、お主の言わんとする事は分かる。ワシが外道じゃと言いたいんじゃろう?でもまぁ、よく考えてもみろ、この者どもがもう少し賢かったり、強かったりすれば、異国の呪術に飲み込まれる事は無かったのじゃ、ここから先はワシの持論になるからな、よく聞いておけよ」
彼は弁論大会の会場で演説台の上に土壇する学生のように大きく両手のを広げながら、自分に酔った表情を作り上げて本題に入っていく。
「所詮この世は弱肉強食なのじゃ、鹿は草木を食い、ヤマイヌはその鹿を食う。そのヤマイヌを今度は我々が狩る。その人間の中でも特に突出した強い者が弱い者を狩る。実に簡単な法則じゃ、自然界においても呪術の世界においても変わらない不変の法則……どうじゃ分かったか?」
してやったりと言わんばかりの顔を浮かべた神左衛門が目の前の少年を見つめると、少年は何も言わずに、ただ下を向いていた。
神左衛門は自分が正論を吐いた事を後悔していた。まさか、反論が出来ずに沈黙をするとは思わなかったのだ。
もし、彼の精神が崩壊していたとするのならば、彼は詫びなくてはならないだろう。
神左衛門は戦う気力の無くなった少年の顔を覗き込もうと彼の側に近寄り、太刀を振り上げようとした時だ。
その少年によって振り上げられた右腕が止められてしまう。
鬼麿は彼の名前と同じ鬼の形相で、神左衛門を睨み、叫ぶ。
「命を何だと思っている……少なくとも、この人達に殺される理由は無かったッ!先程の言葉はお前が自分の殺人を正当化するために言い放っているだけだッ!」
鬼麿の言葉と彼が自身の腕を握っていると言う事実に神左衛門は唇を噛み締める。
同時に、彼は少年がワザとあのような態度を取る事によって、不安に思った彼が近付いて来るのを待ちわびていたのだろう。
神左衛門は左腕だけで式神を操り、鬼麿の顔を攻撃させる事によって、その場を離れる事に成功したが、やがて、天照大神の啓示を受け、力を得ている少年は右手に光を纏わせて、強制的に式神を引きちぎっていく。
単なる紙屑にされた式神が車両の通路にばら撒かれているのを見ても、彼は相変わらず澄ました顔で鬼麿を見て笑っていた。
神左衛門は他の動く屍達に指示を出し、鬼麿を殺すように動かしていく。
屍達を見て、少年は涙を浮かべて斬り捨てていく。
それから、咆哮を上げ、陰陽師の男に向かって刀を袈裟掛に振り上げていく。
だが、男は右手の太刀だけで鬼麿が右斜め下から振り上げた刀を防ぐ。
刀を受け止め、力で鬼麿を弾くと、彼は飛び上がり、両手を使って振り上げた太刀を使って鬼麿の頭部を狙う。
鬼麿は自分の刀を盾にして陰陽師の刀を防ぐ。一度刃を交えた後に、彼は反り返り地上に足を付き、もう一度刀を打ち合う。
だが、陰陽師は鍔迫り合いの最中にも関わらずに、刀を右手だけで受け止めると、左手からもう一度式神を取り出し、彼の息を奪おうと試む。
鬼麿は卑劣な神左衛門の戦法に憤慨しつつも、彼は神術の力を借り、逆に彼の式神を平伏させ、彼の懐へと戻らせていく。
神左衛門はそれを見ると、面白く無いように舌を打ち、両手で太刀を持ち、鬼麿の刀と自分の太刀とで火花を散らしていく。
幾度か刀同士を混じり合えた後に、気が変わったのか、神左衛門はその場から立ち去っていく。
鬼麿は刀を持って男を追い掛けていく。
神左衛門を追っていく中で、彼は車両の屋根の上に辿り着く。
屋根の上で、彼は鬼麿に向かって笑い掛けた。
「始めに言っておくがな、ワシはあのような狭い場所は嫌いじゃ、だからこそ、ここにわしは来た」
「成る程、オレに負けて、豚のように尻尾巻いて逃げた言い訳を言いたいのだな?で、この車両の上でお前は何をしたい?」
「ふん、後ろを見てみぃ」
彼が背後を眺めると、そこには幻斎と孝太郎、龍一郎、そして、花彦とお萩の姿があった。
止まった車両の上に全ての甲賀党の面々が揃っていた。
「ワシが言いたいのはな、小僧、あの場でお主だけを始末しても良かったのじゃが、それだけではお主が不憫に思えてな、そこで、わしはここでお主をお主らの仲間と共に消し去ろうと考えたのじゃ、名案であろう?」
「成る程、陰陽道とやらでお主の放った呪いが全滅したのを見たな、それで、全員をこの場で消し去ろうと試みたのか?」
神左衛門は首を縦に振る。
「その通り、わし一人で貴様らを始末してくれよう!目障りな甲賀党の忍びどもの首をあのお方に届けてくれようぞ!」
神左衛門はそう言って太刀を抜き、その太刀に印術を纏わせていく。
豪風に揺らめく太刀が甲賀党の面々には嵐の中を蠢く竜のように思えた。
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