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第六部『鬼麿神聖剣』
海賊パーシーの逆襲ーその④
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孝太郎と水平が刀を突き付けあって睨み合っている時だ。壁にくっ付いていた筈の白い胞子が孝太郎の肩を目掛けて襲い掛かってきたのだ。
孝太郎は咄嗟に刀を振るったものの、彼の振った刀は空を斬ったばかり。
肝心の生物に当たる気配は無い。まご付いている隙を狙われたのだろう。
白い胞子は孝太郎の右肩にその妖しく光る犬歯を突き立てようとしていた。
孝太郎はやむを得ずに、刀を持ち替え、右手で白い胞子を消し飛ばす。
それを見た水平は表情を綻ばせて、
「面白い妖魔術だ。お前はそれを何処で身に付けた?」
水平は刀の剣先を突き付けながら問い掛ける。
「お前に答える義務は無いとだけ言っておいて良いか?」
「意地悪なお人だな、どうせ、もうじきお主は死ぬのだから、教えてくれても良いだろうに……」
水平は刀を振りかざし、次いで背後から見る殆どの人に恐怖感を煽る外見をした白い胞子の集合体を繰り出し、孝太郎の元へと飛び掛かっていく。
目の前の男は自分の妖魔術を攻略できない事を彼は確信していた。
水平は自分の使用する妖魔術から出てくる未知のウィルス、正確には生物と評する方が正しいのかもしれない、が上中下いずれかの印術を纏った刀で当たら無い限り斬り殺せない事を悟った。
だからこそ、水平は驕りを昂る事が出来るのだ。敵対勢力を全て追い出した全盛期の平清盛のように。
彼は自らの絶対的な勝利を確信していた。もし、彼の首を持ち帰ったのならば、彼の忍びとしての人生は確実に保障される事は間違い無いだろう。
何故なら、自分達の頭領がこの男の首を持ち帰りさえすれば、何でも与えると言わんばかりの顔と態度だった。
加えて、彼の中で示されている竜王の復活の時は近かった。
かつて、由井正雪が徳川氏の打倒を図った時に自分の持っている妖魔術があったのならば彼は確実に徳川氏を打倒していた事に間違い無いだろう。
水平は頭の中で目の前の男を斬り殺した後の予定の事を考えていく。シリウスの力を借り、京都の公家と薩長の芋どもが建てた新政府を打破する計画の事を。
本来ならば、蛇蝎の如き卑しい精神を持つ薩長の芋や長年、権力闘争や蹴鞠や歌の会ばかりに明け暮れて腐敗した公家などに天子を祀る事などおこがましいのだ。
その点、シリウスなる新しい頭領の示した目標に彼は心の底から同調していた。
天子と天子の臣下達で世界を支配すると言う計画だ。
頭領曰く天子を中心としたその新しい世界では全ての人々が天子の前に平等であり、幸福に暮らせる世界になるらしい。
彼はこの新世界が来る事を心の底から待ち望んだ事も現在の異国人の頭領に付いていく事を決意したのだった。
彼のこの盲目的な信仰心を利用したものだと言う事も知らずに……。
水平は背後から繰り出した白い胞子の集合体を孝太郎にぶつけていき、彼が手を出すように仕向けていく。
目の前の赤い肌の青年は想像以上にすんなりと左腕を繰り出し、その大きく開いた左手の掌で目の前に現れた白い胞子の集合体を消していく。
水平は孝太郎の右腕目掛けて、中段の印術を纏わせた刀を振り下ろし、彼の左腕の切断を目論む。
孝太郎が刀を動かそうとした時にはもう遅かった。
冷泉水平の手により、彼の右腕が永遠にくっ付かなくなりそうになった時だ。
勢いよく小屋の引き戸が開かれ、彼の左手にクナイが直撃する。
水平は反り返り、地面に直撃した後にクナイの刺さった左手の手の甲を抑え、扉の方を睨む。
扉の前には顔に傷の付いた少年が険しい顔を浮かべて立っていた。
「それまでだ。これ以上新王様の下男に傷を付ける事はこの甲賀同心の弥太郎が許さん……どうしてもと言うのなら、ここでお主の相手はおれが務めさせてもらおう」
その言葉を聞くなり、それまでは黙り込んでいた水平であったが、大きな声で笑い、刀を持っていない左手で顔を抑えながら、叫ぶ。
「おいおい、お前のようなガキがおれを始末するって?それに、お前……見覚えがあるぞ、オレの紙芝居を見ていたガキだな?」
「見たのは今日の回だけだ」
弥太郎は小さな声で反論する。見たと言う事実は覆せないので小さな声で呟くように反論するしか無いのだろうか。
だが、水平は大きな声で叫びながら、目の前の少年とは違い躊躇う事なく話を進めていく。
「面白かっただろ?『キャンドール・コーブ』の話は?海賊パーシーが次回はどうなるのかは気にならないのかい?」
水平の言葉に弥太郎は言葉を詰まらせてしまう。
水平は顔を歪ませて、勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら話を続けていく。
「おれを殺したのなら、次回の紙芝居は見られなくなるぜッ!それでもいいのかい!?あんな、面白い芝居を思い付くのは後にも先にもおれだけだろうしな」
大きな声で問い掛ける水平に対し、弥太郎は俯いてばかり……。
恐らく、反論の材料に困っているのだろう。水平から掛けられた言葉は全て的を射ていたのだから。
孝太郎は俯いている弥太郎に対し、援護射撃を送ってやる。
彼は大きく口を開け、歯や歯茎が見えるのも、端正な顔が歪むのも構わずに警告の言葉を叫び続けていく。
「騙されるなッ!この男がキャンドール・コーブを利用して何をしようとしていたと思う!?奴は宿場町の子供達を利用して、自分の妖魔術を上げようとしていたんだぞ!奴の妖魔術の根源は子供だッ!キャンドール・コーブは子供の心や精神を吸い取り、成長する悪鬼のような邪悪な細菌なんだッ!おれはその邪悪な悪鬼を追ってーー」
孝太郎は続く言葉を紡ぐ前に、水平の前に地面の上でねじ伏せられてしまう。
飛び上がり、即座に孝太郎を抑え込む手腕は見事としか言いようがない。
弥太郎が水平の忍びとしての腕に感銘を受けていると、彼は弥太郎に向かってもう一度問い掛けていく。
「どうだ?この男を共に殺さないか?今回はこの男だけで見逃してやろう。お前にとっても悪い話ではあるまい……それに、またキャンドール・コーブの芝居を見せてやれるぞ」
その言葉に弥太郎の理性は揺るぎそうになっていた。
彼がその刀をねじ伏せられている孝太郎に向かって振り下ろそうと言う案が頭を過った時だ。
「しっかりしろッ!お前は甲賀の忍びだろ!?里を滅ぼした妖魔党を滅ぼすんじゃなかったのか!?」
弥太郎は孝太郎のその言葉でようやく理性を取り戻し、刀を弥太郎に向かって振っていく。
弥太郎が弧を描いて振り下ろした一閃を水平はいとも簡単に防ぐ。
「危ない、危ない……さてと、危ない真似をした小僧にはお仕置きをしないとならんな」
彼は妖しく顔を歪めて言った。
弥太郎は緊張で両手を震わせながらも、刀を構えて目の前の男と対峙していく。
孝太郎は咄嗟に刀を振るったものの、彼の振った刀は空を斬ったばかり。
肝心の生物に当たる気配は無い。まご付いている隙を狙われたのだろう。
白い胞子は孝太郎の右肩にその妖しく光る犬歯を突き立てようとしていた。
孝太郎はやむを得ずに、刀を持ち替え、右手で白い胞子を消し飛ばす。
それを見た水平は表情を綻ばせて、
「面白い妖魔術だ。お前はそれを何処で身に付けた?」
水平は刀の剣先を突き付けながら問い掛ける。
「お前に答える義務は無いとだけ言っておいて良いか?」
「意地悪なお人だな、どうせ、もうじきお主は死ぬのだから、教えてくれても良いだろうに……」
水平は刀を振りかざし、次いで背後から見る殆どの人に恐怖感を煽る外見をした白い胞子の集合体を繰り出し、孝太郎の元へと飛び掛かっていく。
目の前の男は自分の妖魔術を攻略できない事を彼は確信していた。
水平は自分の使用する妖魔術から出てくる未知のウィルス、正確には生物と評する方が正しいのかもしれない、が上中下いずれかの印術を纏った刀で当たら無い限り斬り殺せない事を悟った。
だからこそ、水平は驕りを昂る事が出来るのだ。敵対勢力を全て追い出した全盛期の平清盛のように。
彼は自らの絶対的な勝利を確信していた。もし、彼の首を持ち帰ったのならば、彼の忍びとしての人生は確実に保障される事は間違い無いだろう。
何故なら、自分達の頭領がこの男の首を持ち帰りさえすれば、何でも与えると言わんばかりの顔と態度だった。
加えて、彼の中で示されている竜王の復活の時は近かった。
かつて、由井正雪が徳川氏の打倒を図った時に自分の持っている妖魔術があったのならば彼は確実に徳川氏を打倒していた事に間違い無いだろう。
水平は頭の中で目の前の男を斬り殺した後の予定の事を考えていく。シリウスの力を借り、京都の公家と薩長の芋どもが建てた新政府を打破する計画の事を。
本来ならば、蛇蝎の如き卑しい精神を持つ薩長の芋や長年、権力闘争や蹴鞠や歌の会ばかりに明け暮れて腐敗した公家などに天子を祀る事などおこがましいのだ。
その点、シリウスなる新しい頭領の示した目標に彼は心の底から同調していた。
天子と天子の臣下達で世界を支配すると言う計画だ。
頭領曰く天子を中心としたその新しい世界では全ての人々が天子の前に平等であり、幸福に暮らせる世界になるらしい。
彼はこの新世界が来る事を心の底から待ち望んだ事も現在の異国人の頭領に付いていく事を決意したのだった。
彼のこの盲目的な信仰心を利用したものだと言う事も知らずに……。
水平は背後から繰り出した白い胞子の集合体を孝太郎にぶつけていき、彼が手を出すように仕向けていく。
目の前の赤い肌の青年は想像以上にすんなりと左腕を繰り出し、その大きく開いた左手の掌で目の前に現れた白い胞子の集合体を消していく。
水平は孝太郎の右腕目掛けて、中段の印術を纏わせた刀を振り下ろし、彼の左腕の切断を目論む。
孝太郎が刀を動かそうとした時にはもう遅かった。
冷泉水平の手により、彼の右腕が永遠にくっ付かなくなりそうになった時だ。
勢いよく小屋の引き戸が開かれ、彼の左手にクナイが直撃する。
水平は反り返り、地面に直撃した後にクナイの刺さった左手の手の甲を抑え、扉の方を睨む。
扉の前には顔に傷の付いた少年が険しい顔を浮かべて立っていた。
「それまでだ。これ以上新王様の下男に傷を付ける事はこの甲賀同心の弥太郎が許さん……どうしてもと言うのなら、ここでお主の相手はおれが務めさせてもらおう」
その言葉を聞くなり、それまでは黙り込んでいた水平であったが、大きな声で笑い、刀を持っていない左手で顔を抑えながら、叫ぶ。
「おいおい、お前のようなガキがおれを始末するって?それに、お前……見覚えがあるぞ、オレの紙芝居を見ていたガキだな?」
「見たのは今日の回だけだ」
弥太郎は小さな声で反論する。見たと言う事実は覆せないので小さな声で呟くように反論するしか無いのだろうか。
だが、水平は大きな声で叫びながら、目の前の少年とは違い躊躇う事なく話を進めていく。
「面白かっただろ?『キャンドール・コーブ』の話は?海賊パーシーが次回はどうなるのかは気にならないのかい?」
水平の言葉に弥太郎は言葉を詰まらせてしまう。
水平は顔を歪ませて、勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら話を続けていく。
「おれを殺したのなら、次回の紙芝居は見られなくなるぜッ!それでもいいのかい!?あんな、面白い芝居を思い付くのは後にも先にもおれだけだろうしな」
大きな声で問い掛ける水平に対し、弥太郎は俯いてばかり……。
恐らく、反論の材料に困っているのだろう。水平から掛けられた言葉は全て的を射ていたのだから。
孝太郎は俯いている弥太郎に対し、援護射撃を送ってやる。
彼は大きく口を開け、歯や歯茎が見えるのも、端正な顔が歪むのも構わずに警告の言葉を叫び続けていく。
「騙されるなッ!この男がキャンドール・コーブを利用して何をしようとしていたと思う!?奴は宿場町の子供達を利用して、自分の妖魔術を上げようとしていたんだぞ!奴の妖魔術の根源は子供だッ!キャンドール・コーブは子供の心や精神を吸い取り、成長する悪鬼のような邪悪な細菌なんだッ!おれはその邪悪な悪鬼を追ってーー」
孝太郎は続く言葉を紡ぐ前に、水平の前に地面の上でねじ伏せられてしまう。
飛び上がり、即座に孝太郎を抑え込む手腕は見事としか言いようがない。
弥太郎が水平の忍びとしての腕に感銘を受けていると、彼は弥太郎に向かってもう一度問い掛けていく。
「どうだ?この男を共に殺さないか?今回はこの男だけで見逃してやろう。お前にとっても悪い話ではあるまい……それに、またキャンドール・コーブの芝居を見せてやれるぞ」
その言葉に弥太郎の理性は揺るぎそうになっていた。
彼がその刀をねじ伏せられている孝太郎に向かって振り下ろそうと言う案が頭を過った時だ。
「しっかりしろッ!お前は甲賀の忍びだろ!?里を滅ぼした妖魔党を滅ぼすんじゃなかったのか!?」
弥太郎は孝太郎のその言葉でようやく理性を取り戻し、刀を弥太郎に向かって振っていく。
弥太郎が弧を描いて振り下ろした一閃を水平はいとも簡単に防ぐ。
「危ない、危ない……さてと、危ない真似をした小僧にはお仕置きをしないとならんな」
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