魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

文字の大きさ
上 下
247 / 365
第六部『鬼麿神聖剣』

海賊パーシーの逆襲ーその③

しおりを挟む
思わぬ来客に水平は手を叩いて喜ぶ。感情を露わにしているらしく、大きく口元を歪めて、その上で勝利を確信した薄味の悪い笑顔を浮かべていた。
「これはこれは、よくぞおいでさった。わざわざ、あんたの方からご足労頂けるとは光栄の至りだ」
水平は大きく頭を下げて、大袈裟な身振り手振りを付けて言ったが、目の前の男は険しく寄せた眉を更に険しく寄せるばかり。
男の言葉に反応しようともしない。
水平は大きな声で笑い、次に懐に隠し持っていたと思われる星型の手裏剣を取り出し、その手裏剣を右手と中指で持ち、いつでも投げられる準備をしながら目の前の男に向かって問う。
「……。さてと、どうする?あんたはオレをどうしたい?」
「決まっているだろう。この宿場町の紙芝居騒動の元凶がお前なのかどうかを問いたい」
「その通り」
目の前の男は至極あっさりと言った。まるで、そんな事は分かって当然とでも言わんとするかのように。
「その通りだよ。オレだよ。町の馬鹿な餓鬼どもに未知の寄生虫を植え付けたのは……いずれ成長したそいつらはそいつらの頭を食い破り、オレの養分となる。いい話だとは思わないか?」
水平が大きく笑っていたが、目の前の男は水平とは対照的に、沈んだ表情で地面を眺めていた。ずっと、下を俯くその姿は不気味とも言えたかもしれない。
彼は一言も発せようとはしない。ただ、顔を下に向けているだけだ。
水平が考えている通りならば、目の前の林檎のように真っ赤な肌をした男は何処かで刀を振るってくる事については間違いないだろう。
問題は襲撃のタイミングである。水平は両腕を組みながら、足で地面鳴らし、その襲撃のタイミングと同時に男の額に手裏剣を投げ込もうと考えていたが、男は未だに攻撃しようとはしない。
堪らなくなった水平は煽るために、ワザと赤い肌の男の近くにまで寄り、自身の顔をそこに近付けていく。
「どうしたのだ?先程から微動だにせぬが、オレとおるのは退屈か?オレの声が聞こえていたのならば、返事をせぇ」
水平が二つの指の間に挟んだ手裏剣で孝太郎の右目を貫こうとした時だ。
彼の右腕は何かの力によって止められてしまう。彼が止められた方向を眺めると、彼の右手が孝太郎の手によって止められている事に気が付く。
「……お前は何を考えていた?罪の無い子供達を殺して、自分が強くなる事に快感でも見出していたのか?」
赤い肌の男の問い掛けに水平は唇の右端を大きく吊り上げながら答えた。
「その質問は及第点には後一歩届かないって所かな?子供達を生贄にする事についての目的はお前の言った事も正解しているが、それ以上に、オレはあの子供達をオレの妖魔術の虜にする事によって、オレに力を与えてくれたに力を貸し与えていたんだ。紹介するよ。オレの相棒、キャンドール・コーブだッ!」
水平は目を見開くのと同時に、自身の背後から白色の胞子の人型の集合体を召喚し、その怪物を孝太郎に向かわせていく。
孝太郎は右手を構え、その胞子の集合体を打ち消す。
これがゴングの代わりとなったのだろう。水平は両手に持っていた星型の手裏剣を孝太郎に向かって放り投げるのと同時に、背後の床を剥がし、中に隠していたと思われる忍刀を取り出す。
鞘を放り投げた事から、刀は目の前の男にとっては使い捨ての道具でしか無いと言う事を孝太郎は悟った。
だが、悟ってばかりもいられないだろう。目の前の男は鷹のように素早く、孝太郎に向かって刀を振るう。
右斜め下から振り上げてくる刀を孝太郎は自らの刃と重ね合わせる事によって防ぐ。
白閃と白閃が煌きあい、刀の打ち合う音が狭い小屋の中に響き合っていく。
孝太郎は歯を食いしばりながら、刀を防ぎ、反撃の機会を伺う。
だが、現実は非情であった。彼は崖っぷちに立っている孝太郎をそのまま奈落の底へと突き落とすような真似を平気で行ったのだった。
彼は自分自身の刀に中段の印術を当て嵌め、風の刀へと変えていく。
凄まじい風が孝太郎の頬に突き刺さっていく。寒いと言う感覚さえ彼は覚えた。
孝太郎はギリギリの所で踏み止まり、彼は刀を左に大きく振って、大きな円陣を宙に描き、男を刀諸共弾き飛ばす事に成功した。
男は小屋の背後に倒れたものの、彼は刀を握ってもう一度立ち上がり、何をしたかと思えば自分の妖魔術だと主張する胞子類を刀の刃にくっ付け、その刀を未知のウィルスの宿った刀へと変えていく。
孝太郎は両手で刀を握り、抵抗の姿勢を見せながらも、改めて見るキャンドール・コーブの姿に身を震わせていく。
孝太郎は退院前に友人の刈谷浩輔からキャンドール・コーブの話について聞かされ、監視カメラを利用した映像でもそのグロテスクな姿を眺めたが、半年に渡って日本列島に息を潜めていた謎の生物の姿に恐怖したものだった。
胞子を思わせる無機質な白さ。それが集まってできる生物としての姿。
大人でもトラウマになりかねない程の恐ろしい生き物であった事を覚えている。
しかも、その生物とその生物を操っている男とは刀を打ち合うという最も隣接し合う状態で接するのだ。
孝太郎は思わず生唾を飲み込む。
だが、水平は躊躇う事なく、謎のウィルスを付けた刀を持って振りかぶっていく。
孝太郎は自らの刀を盾に、男の斬撃と謎のウィルスの両方を防ぎ、その後に細い目でウィルスを見つめる。
そこには刀の上で確実に息をする怪物の姿があった。
孝太郎は右手の魔法でこの怪物をこの世から破壊したい衝動に駆られた。
だが、現在の状況では両手のどちらかの刀を離しでもしたら、孝太郎に斬撃とウィルスの両方が襲い掛かって来ると言う状況にある。
加えて、仮に右手を出せたとしても右手を出した時に目の前の男の手によって右手を斬り落とされる可能性も浮上している。
孝太郎は刀を下から大きく振り上げ、男をよろめかせると、男の刃に付着している謎の生物に向かって刀を振り上げていく。
上段から一直線に刀を振り上げられ、それが向かって来るのを見ても、キャンドール・コーブの怪物は刃の上に壁に引っ付いて離れないなめくじのように離れようとしない。
刀の上の生物に向かって孝太郎の刀は直撃したが、刃の上の怪物は微動だにしない。
その様子を見て、水平を名乗る男はくっくっと笑う。
「悪いが、オレの相棒は頑丈なのが取り柄でね。刀なんぞに斬られるようなやわな生物じゃ無いのよ」
「……貴様、それを分かっていて、なッ!」
孝太郎の問い掛けに、目の前の男はニンマリと言う擬音が似合うような笑みを浮かべて首肯した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

閑職窓際公務員、出向先はゲームです!?~仮想現実作られ数年、眠れる羊は夢を見る~

かんひこ
SF
 ──七年前、東京のある大学がフルダイブ技術を発明させた。世界に、新しい時代の幕が上がる。  フルダイブ技術発明から七年後、総務省の片隅でこそこそ仕事に勤しんでいた男・北条充《ほうじょうみつる》三十一歳は、ある日突然、大臣からじきじきに出向を命じられる。  ヨルムンガンドオンライン  サービス開始から一年半を迎えたこのフルダイブMMORPGの仮想世界。  オフィスビルのサラリーマン生活から一転、剣と魔法のファンタジーワールドに飛ばされた彼の運命は……!? 「にっ、逃げろぉぉぉぉ!!!!」 ※他サイトにも同時掲載しております。あらかじめご了承下さい。 ※当作品は、《ユメカガク研究所MMORPG制作・運営委員会》によるシェアワールドとなっております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...