魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第六部『鬼麿神聖剣』

海賊パーシーの逆襲ーその②

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孝太郎は二人の話を聞くなり、顔を真っ青に染めていく。二人はただ単に紙芝居の内容の事を怒られるのかと思っていたのだが、目の前の男はそんな様子を見せようとはしない。
それどころか、お化けと遭遇した少年のようにガタガタと肩を震わせていた。
二人は困惑したらしく、顔を見合わせ、孝太郎に慰めの言葉を掛けていくが、それでも彼は顔を元の色に戻そうとはしない。
呆然とした様子で天井を見上げる事、半刻(およそ、三十分程度)
彼はようやく我を取り戻し、龍一郎と弥太郎の肩を強く揺さぶって、鬼のような険しい剣幕で二人を捲し立てていく。
「何処だ!?その男は何処にいた!?どうして、その男はお前達二人を狙っていた!?」
孝太郎の質問に対し、困惑したらしい。二人は互いに言葉を詰まらせていると、その様子を見かねたのか、旅籠にて用意されている絹の座布団の上に座っていた幻斎が険しい声で二人に話すように指示を出す。
恐らく、幻斎は二人の帰りが遅くなった事を咎めるつもりだったのだろうが、先程の孝太郎の容姿の変貌ぶりに雷を落とすタイミングを失ったために、二人に指示を出す声がいつもより険しくなったのだろう。
幻斎の近くの座布団に座っていた鬼麿は頭の中でそう解釈していた。
鬼麿が哀れな二人を憐憫の目で眺めていると、二人は重い口を開いて、紙芝居の内容の事を話していく。
楽しそうに語る二人の顔とは対照的に、聞き手である筈の孝太郎の顔は憑物にでもあったかのように沈んでいく。
二人が話し終わるのと同時に、孝太郎は何処からか取り出したかと思われる刀を手に、畳の上から立ち上がり、
「オレはそいつを捕らえにいく……悪いが、止めても無駄だ。龍一郎と弥太郎はの二人が会ったと言う紙芝居屋はオレの前世からの因縁があるからなッ!」
勢いだった孝太郎は誰の目にも止められないのは明白だった。
夜の闇の中を孝太郎は一人で駆けていく。






「しっかし、子供って言うのは馬鹿なもんだなぁ。ワザワザ、未知のウィルスを植え付けに毎日来るんだから」
黄色に彩られた絹布の半纏の下に緑色の縞模様の付いた着流しを着た若い男は宿場町の近くの捨てられた寺の堂の中に泊まっていた。
ろくな施設も無いが、彼にとってこの場所は楽園に近い場所であった。
山の上に存在するために、滅多に人が訪れず、存在する物はと言えば小屋と言っても良い程の大きさの木の床の上に飾られた仏像が一体。
男は毎日、紙芝居が終わる度に、この寺に帰り、自身の妖魔術で『キャンドール・コーブ』を植え付けた子供達の様子を眺めていた。
彼の妖魔術の名前は『全包』と呼ばれる物であった。
『全包』と言うのは全員を包囲する包囲網の略称であると彼は忍びの術を身に付けた際に心の中に刻み込まれた。
妖魔術の特徴は子供にウィルスを植え付け、その発育を見守り、子供の中で増幅したウィルスを一斉に蜂起させ、彼の操るウィルス『キャンドール・コーブ』にその子供を食い破らせ、自分の術に使用する事。
そして、増幅されたウィルスは自身の守護神となり、自分にとっての敵を食い破っていくのだ。
彼は両頬に膝を突きながら、寝そべり、背後の両足をバタつかせながら、妖魔術を召喚した日の事を思い出していく。
紙芝居屋をしていた男は伊賀の里の中で唯一妖魔術を取得できない男であった。
伊賀の里では妖魔術を覚える際に妖魔術を引き出す術を師である人物から掛けられ本人の体の中に眠っている妖魔術を引き出すのである。
だが、その際に男は適正無しとされた。これはショックであった。
彼は全ての段の印術を使用できる実力者であったために、尚更、周りの人々の失望は大きかったのだと思われる。
妖魔術を使う特性が無しとされた彼は例の外国人頭領が現れたその日に見た夢が無ければ、この先も妖魔術を得られなかったと思われる。
夢の中に一体の轟々しい西洋の鎧と思われる黒い鎧を着た正体不明の人形の何かが立っていたのだ。
真っ暗な部屋の中で、彼は男が生み出したと思われる複数のクラゲのような得体の知れない生物を体の中に植え付けていく。
男は堪らず悲鳴を上げたが、正面の二足歩行の得体の知れない妖怪は不気味な音を立てて笑い、男に向かって大きなゴツゴツとした黒色の籠手で覆われた人差し指を向けて、
「案ずるな、それはお前にとって益をもたらすもの……そして、お前はその妖魔術でオレの子孫を助けるのだ」
その言葉を最後に男は夢の中から消え、彼は現実の世界へと引き戻されていた。
男が布団の中で目を覚ますと、男は分からないが、確実に妖魔術を使えると言う確証があった。
男はその後、右手を使用し、クラゲのような不気味な細菌を繰り出し、自分を馬鹿にした里の人間を殺していく。
男が大きな声で笑っていると、背後から小さな顔が、華奢な綺麗な外国人の顔が覗いている事に気が付く。
男が背後を振り向くと、長い金髪の髪の女性は朗らかな表情で口元を吊し上げて笑う。
そして、詩的な響きを感じさせる声で男に向かって言った。
「初めまして、わたしは昨日、伊勢の里にやって来ました。ジェーン・ドゥと言う者です。夫共々お世話になっておりまして、本当に感謝のしようがありません」
丁寧に頭を下げる女性に対し、困惑したのは男の方。
彼は汗をかきながら、両手で嫌々と否定していく。
その様子を見て、金髪の着物を着た女性は口元を抑えた上品な笑いを出しながら、
「いえいえ、お世話になっているのは本当ですから……それよりも、あなた様にお願いがしたいのです。あなた様のお力をわたしと夫にお貸し願えませんか?」
男はその言葉に拍子抜けしてしまう。初対面なのに力を貸せとはどう言う了顕なのだろうと。
と、目の前の女はここで男の頭の中を読み取ったかのようにクスクスと笑っていき、
「あなた様の魔法……いえ、妖魔術の事ですわ。いかがでしょう?あなた様のお使いになる素晴らしい妖魔術のお力をわたしと夫にお貸し願いたいのです。ダメでしょうか?」
女性の言葉としょげた態度を見た男は男性特有の庇護欲のようなものが働いたのだろうか。
彼は胸を張って、力を貸すと叫んだ。
女は手を叩いて喜び、
「ありがとうございます。では、早速協力者となったのですから、あなた様のお名前をお聞かせ願えませんか?」
男は髪を結い格好を付けながら言った。
「オレの名前は冷泉水平。冷泉家は伊勢同心の中でも名家でね。徳川様の時代から苗字を許されて来たのよ」
その後、水平は体調を取り戻し、頭領の地位を得たシリウスに紹介され、彼は妖魔党の天魔に任じられた。
彼は妖魔党の中の下位とされる地魔の全滅により、真っ先に甲賀党の全滅を申し付けられたのだ。
この宿場町に泊まっているとされる一行をウィルスで全滅させるのはさぞかし胸が躍るだろう。
そんな事を考えていると、彼の泊まっていた寺の堂の引き戸が勢いを付けられて開かれた。
彼が背後を振り向くと、そこには一人の赤い肌の青年が立っていた。
水平は口元の右端を吊り上げて、笑みを浮かべた。
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