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第五部『征服王浪漫譚』
洞窟の中の妖魔ーその④
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弥一は両手を広げて、孝太郎と鬼麿に向かって叫ぶ。
「フッフッフッ、今日は実に記念するべき日だッ!あなた達二人を我が妖魔術の前に葬り去る事ができるなんてッ!」
弥一の言葉に孝太郎は自分達が今、現在、足を付けているこの西洋風の城の事だと言うことを悟った。
孝太郎は目の前の男の魔法の特性を考えていく。男の魔法は幻影空間を作り出し、幻の城を見せる魔法なのだろう。
孝太郎は何年も幻覚を用いた魔法事件に携わった経験から、この男の魔法は単なる幻覚魔法なのだと考えたのだ。
確かに、その考えは間違っていなかった。が、弥一には孝太郎が過去に対峙した他の魔法師とは異なる特性を大いに持っていたのだ。
だが、その事を見抜けなかった孝太郎はこの魔法を単なる幻覚魔法だと確信し、刀を振って弥一に向かって斬りかかっていく。
弥一は刀を持った男が目の前から迫ってくると言う状況にも関わらず、眉一つ動かす事なく、その様子を見守っていた。
それどころか、口元に微かな笑みさえ浮かべていた。
彼は笑みを浮かべながら、人差し指と親指を同時に鳴らす。
すると、どうだろう。孝太郎が天井裏に立っていたのだ。
驚く事に、彼の足は引力の法則などを無視し、彼を天井裏に立たせていたのだ。動揺する孝太郎に笑いを向けながら、弥一はもう一度指を鳴らし、もう一度孝太郎を元の地面へと落としていく。
孝太郎は地面に落ちる際に体を丸める事によって、衝撃を和らげる事に成功していた。
だが、腰は抜かしてしまったらしい。孝太郎は立とうと思っても立つ事ができなかった。
弱り切っている赤い肌の青年に向かって、弥一は何処からか取り出したのか分からない矢を取り出し、孝太郎の額に向かって投げ付けていく。
その矢は孝太郎ではなく、彼の主人の刀によって弾き飛ばされてしまう。
弥一の放った矢は地面に転げ落ちていく。
だが、彼は怒ることなく、先程のようにニヤニヤとした笑いを浮かべながら、鬼麿を眺めていた。
鬼麿は男の常に貼り付けている能面のような奇妙な笑みが気に入らなかったのだろう。
彼は唇を尖らせ、詰問口調で弥一に向かって尋ねる。
「何がおかしいんだ?」
「何がって?」
弥一は相変わらず小馬鹿にしたような口調。鬼麿は怯む事なく会話を続けていく。
「とぼけるなッ!人をあんな風にしておいて、お前はそれが正しいのかと聞いているんだッ!」
鬼麿は両手で刀を握り締め、彼の持っていた刀に天照大神の慈悲により与えられた光を纏わせ、彼にその剣先を向ける。
「おれには天照大神の守護が付いているッ!太陽の神の力の前にお前は勝てるか!?」
本来ならば怯えるべき場面なのだろう。実際に目の前の少年はその名前に相応しい鬼の形相で弥一を睨んでいた。だが、弥一はと言えば、鬼麿の問い掛けに、対して笑い続けるばかりであった。
「ハッハッハッハッ、いいか?あんたは自分の力でその妖魔術を身に付けた訳じゃあない。言うなれば、それは神から特別な祝福を受け、身に付けた術じゃあないか?自分の力でも無いものを誇っているあんたの姿が私には酷く滑稽に思えてね」
弥一の小馬鹿にしたような態度に鬼麿の両頬が赤くなっていくのを孝太郎は見かけた。
少年の弥一にはそれ以上の言葉が思い浮かばなかったのだろう。
彼は悔しそうに両足と両手を震わせた。見かねた孝太郎は哀れなる幼い主人の代わりに、大きな声で彼を弁護する言葉を叫ぶ。
「違うッ!鬼麿はよくやっている!お前に鬼麿の何が分かるッ!あの子はずっと、妖魔党と伊賀同心への復讐のためだけに、ずっとオレの剣の授業に付いてきていたんだッ!何度、失敗しても、剣を覚えるまで、ずっと……そんな、あの子の覚悟がお前に分かるものかッ!」
孝太郎の弁護の言葉をもってしても、男の冷笑は止まない。
相変わらず、弥一の口元には偉人を主人公にした歌舞伎の舞台に登場する悪代官のような嫌らしい笑顔が浮かんでいた。
「努力がなんだって言うんだ?現に、あんたのご主人様は私の言葉に反論できず、虫けらのように震えているじゃあ無いか……あんたにはこの様子を見ても、ご主人様は偉大だと弁護するつもりかね?」
孝太郎は思い出した。23世紀の時代において彼が捕まえた犯罪者の中で、彼がいくら反省の弁や言葉を促そうとしても、どうしようもない無茶苦茶な理屈で繰り出されて、最後には見捨ててしまうようなどうしようもない犯罪者の事を。
同時に孝太郎は悟った。この男とは話しても無駄なのだと。
孝太郎は側に落ちていた刀を拾い、両手で握った刀を振りかざし、再度弥一に向かって斬りかかっていく。
弥一は先程と同様に、彼は天井の裏へと貼り付けにし、身動きを奪おうと試みたが、彼は破壊の右手を天井と地面の両方に向け、先程の悲劇を防ぐ。
魔法を使用するために、左手に持っていた刀を再度、両手に持ち替え、上段から刀を振っていく。
弥一はその刀を刀の半分程の刃物で防ぐ。まるで、その刀が来るのを予め予測していたかのように。
孝太郎の攻撃を防いだ彼が次に取ると思われる行動は彼にも容易に予測できた。
そう、カウンターによる攻撃である。
弥一は刀を大きな力で弾き、刀と重なっていた刃物もといクナイを孝太郎の均整の取れた俳優のような美顔に向かって振りかざす。
孝太郎は体を右に捻らせる事により、第一波を回避する事に成功する。
柿色の服を着た忍びの男は孝太郎が右の方向に向けて避けたのを確認すると、その方向に向かってクナイを振り下ろす。
孝太郎は上段から降りかかってきていたクナイを刀を盾にして防ぐ。
弥一は膠着状態になる事を恐れたのだろう。刀と打ち合う音が聞こえるのと同時に、クナイを離す。
クナイが離れたのを見届けると、彼は大きく彼の前から離れ、例の笑いを浮かべながら、指を鳴らし、大きな西洋風の城と共に、自分の姿をかき消す。
追い掛けようとした鬼麿と孝太郎は洞窟の中で腰を打った事により、元の場所へと帰ってきた事を悟った。
孝太郎は洞窟の地面の上で腰を打った痛みと弥一に侮辱の言葉を浴びせられた事により、泣きじゃくっていた鬼麿の頭を優しく撫でていく。
鬼麿は孝太郎の胸を借りて大きく泣いていく。
孝太郎は鬼麿の頭を優しく撫でながら言った。
「お前は強い子だ……。おれのために、自分より格上の相手に立ち向かっていく……おれはそんなお前が大好きだ」
孝太郎の優しい言葉に鬼麿はもう一度泣いていく。
孝太郎は鬼麿の力が借り物や神様から与えられた物だとしても、この子の優しさは本物だと認識した。
「フッフッフッ、今日は実に記念するべき日だッ!あなた達二人を我が妖魔術の前に葬り去る事ができるなんてッ!」
弥一の言葉に孝太郎は自分達が今、現在、足を付けているこの西洋風の城の事だと言うことを悟った。
孝太郎は目の前の男の魔法の特性を考えていく。男の魔法は幻影空間を作り出し、幻の城を見せる魔法なのだろう。
孝太郎は何年も幻覚を用いた魔法事件に携わった経験から、この男の魔法は単なる幻覚魔法なのだと考えたのだ。
確かに、その考えは間違っていなかった。が、弥一には孝太郎が過去に対峙した他の魔法師とは異なる特性を大いに持っていたのだ。
だが、その事を見抜けなかった孝太郎はこの魔法を単なる幻覚魔法だと確信し、刀を振って弥一に向かって斬りかかっていく。
弥一は刀を持った男が目の前から迫ってくると言う状況にも関わらず、眉一つ動かす事なく、その様子を見守っていた。
それどころか、口元に微かな笑みさえ浮かべていた。
彼は笑みを浮かべながら、人差し指と親指を同時に鳴らす。
すると、どうだろう。孝太郎が天井裏に立っていたのだ。
驚く事に、彼の足は引力の法則などを無視し、彼を天井裏に立たせていたのだ。動揺する孝太郎に笑いを向けながら、弥一はもう一度指を鳴らし、もう一度孝太郎を元の地面へと落としていく。
孝太郎は地面に落ちる際に体を丸める事によって、衝撃を和らげる事に成功していた。
だが、腰は抜かしてしまったらしい。孝太郎は立とうと思っても立つ事ができなかった。
弱り切っている赤い肌の青年に向かって、弥一は何処からか取り出したのか分からない矢を取り出し、孝太郎の額に向かって投げ付けていく。
その矢は孝太郎ではなく、彼の主人の刀によって弾き飛ばされてしまう。
弥一の放った矢は地面に転げ落ちていく。
だが、彼は怒ることなく、先程のようにニヤニヤとした笑いを浮かべながら、鬼麿を眺めていた。
鬼麿は男の常に貼り付けている能面のような奇妙な笑みが気に入らなかったのだろう。
彼は唇を尖らせ、詰問口調で弥一に向かって尋ねる。
「何がおかしいんだ?」
「何がって?」
弥一は相変わらず小馬鹿にしたような口調。鬼麿は怯む事なく会話を続けていく。
「とぼけるなッ!人をあんな風にしておいて、お前はそれが正しいのかと聞いているんだッ!」
鬼麿は両手で刀を握り締め、彼の持っていた刀に天照大神の慈悲により与えられた光を纏わせ、彼にその剣先を向ける。
「おれには天照大神の守護が付いているッ!太陽の神の力の前にお前は勝てるか!?」
本来ならば怯えるべき場面なのだろう。実際に目の前の少年はその名前に相応しい鬼の形相で弥一を睨んでいた。だが、弥一はと言えば、鬼麿の問い掛けに、対して笑い続けるばかりであった。
「ハッハッハッハッ、いいか?あんたは自分の力でその妖魔術を身に付けた訳じゃあない。言うなれば、それは神から特別な祝福を受け、身に付けた術じゃあないか?自分の力でも無いものを誇っているあんたの姿が私には酷く滑稽に思えてね」
弥一の小馬鹿にしたような態度に鬼麿の両頬が赤くなっていくのを孝太郎は見かけた。
少年の弥一にはそれ以上の言葉が思い浮かばなかったのだろう。
彼は悔しそうに両足と両手を震わせた。見かねた孝太郎は哀れなる幼い主人の代わりに、大きな声で彼を弁護する言葉を叫ぶ。
「違うッ!鬼麿はよくやっている!お前に鬼麿の何が分かるッ!あの子はずっと、妖魔党と伊賀同心への復讐のためだけに、ずっとオレの剣の授業に付いてきていたんだッ!何度、失敗しても、剣を覚えるまで、ずっと……そんな、あの子の覚悟がお前に分かるものかッ!」
孝太郎の弁護の言葉をもってしても、男の冷笑は止まない。
相変わらず、弥一の口元には偉人を主人公にした歌舞伎の舞台に登場する悪代官のような嫌らしい笑顔が浮かんでいた。
「努力がなんだって言うんだ?現に、あんたのご主人様は私の言葉に反論できず、虫けらのように震えているじゃあ無いか……あんたにはこの様子を見ても、ご主人様は偉大だと弁護するつもりかね?」
孝太郎は思い出した。23世紀の時代において彼が捕まえた犯罪者の中で、彼がいくら反省の弁や言葉を促そうとしても、どうしようもない無茶苦茶な理屈で繰り出されて、最後には見捨ててしまうようなどうしようもない犯罪者の事を。
同時に孝太郎は悟った。この男とは話しても無駄なのだと。
孝太郎は側に落ちていた刀を拾い、両手で握った刀を振りかざし、再度弥一に向かって斬りかかっていく。
弥一は先程と同様に、彼は天井の裏へと貼り付けにし、身動きを奪おうと試みたが、彼は破壊の右手を天井と地面の両方に向け、先程の悲劇を防ぐ。
魔法を使用するために、左手に持っていた刀を再度、両手に持ち替え、上段から刀を振っていく。
弥一はその刀を刀の半分程の刃物で防ぐ。まるで、その刀が来るのを予め予測していたかのように。
孝太郎の攻撃を防いだ彼が次に取ると思われる行動は彼にも容易に予測できた。
そう、カウンターによる攻撃である。
弥一は刀を大きな力で弾き、刀と重なっていた刃物もといクナイを孝太郎の均整の取れた俳優のような美顔に向かって振りかざす。
孝太郎は体を右に捻らせる事により、第一波を回避する事に成功する。
柿色の服を着た忍びの男は孝太郎が右の方向に向けて避けたのを確認すると、その方向に向かってクナイを振り下ろす。
孝太郎は上段から降りかかってきていたクナイを刀を盾にして防ぐ。
弥一は膠着状態になる事を恐れたのだろう。刀と打ち合う音が聞こえるのと同時に、クナイを離す。
クナイが離れたのを見届けると、彼は大きく彼の前から離れ、例の笑いを浮かべながら、指を鳴らし、大きな西洋風の城と共に、自分の姿をかき消す。
追い掛けようとした鬼麿と孝太郎は洞窟の中で腰を打った事により、元の場所へと帰ってきた事を悟った。
孝太郎は洞窟の地面の上で腰を打った痛みと弥一に侮辱の言葉を浴びせられた事により、泣きじゃくっていた鬼麿の頭を優しく撫でていく。
鬼麿は孝太郎の胸を借りて大きく泣いていく。
孝太郎は鬼麿の頭を優しく撫でながら言った。
「お前は強い子だ……。おれのために、自分より格上の相手に立ち向かっていく……おれはそんなお前が大好きだ」
孝太郎の優しい言葉に鬼麿はもう一度泣いていく。
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