魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第五部『征服王浪漫譚』

水炎と火花ーその②

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二人は喉から溢れ出る水と酸素不足に苦しむ女将を満面の笑みで見下ろしていた。
「どう?痛い?苦しい?ぼくも姉上もこの苦しみをいつも味わって生きてきたんだよ。塗炭の苦しみと言う比喩表現がいつも似合う程の苦しみをね……」
苦しむ女将を見下ろしていた桃葉は無邪気な笑みで弟に向かって言った。
「もうそろそろ良いでしょ?私たちの魔法の本筋を見せてあげましょうよ!」
桃葉の言葉に従い、桃矢は指を鳴らし、水の中に粉を垂らしていく。
そして、粉が垂れるのと同時に水の中に電気鰻が現れ、一斉に放電していく。
放電がなされるのと同時に水もろとも女将の顔が爆発していく。
頭を失った女将の胴体の先から白い煙が立ち上がっていた。
桃矢は興奮を抑えきれずに叫ぶ。
「流石だよ!人間が爆発する時のボンッて音が忘れられないよね?姉上!?」
「勿論よ。人間と言うのは爆発する時がいつも美しいのよ。新たなる頭領もあたし達の妖魔術を披露した時にそう言って褒めてくださったじゃない」
桃葉は顔を真っ赤に染めながら言った。
桃矢は気が付いていた。桃葉が異国人の頭領に恋い焦がれている事実を。
そして、桃矢も長年恋い焦がれていた筈の気持ちも実の姉から頭領の恋人である長い金髪の女性へと変貌していた。
あの女性を見れば見る程、胸のドキドキとした感覚が止まらなくなってしまう。
そう、狂ったように時計を刻み続ける壊れた時計のようにドクドクと動いていたのだ。
美しい二人の頭領に双子の姉弟はすっかりと虜になっていたと言うべきだろう。
双子は明らかに自分達二人の団結に亀裂が入っていた事を認識していたが、それでも任務には支障が出ないように動くつもりであった。
だからこそ、今回の任務についても二人で挑む事にし、二人の妖魔術で甲賀党の党員達を全滅させようと目論んだのだ。
双子は互いに唇を重ね合わせ、任務前の儀式と洒落込む。
二人は口吸いが済むと、躊躇う事なく甲賀党の一行が眠っている部屋へと向かう。
二人の忍びは足音を立てること無く、まるで鼠か何かのように気配を消し、甲賀党の寝室へと向かう。
部屋と廊下の間には襖が引かれていたが、双子の忍びのうち男の方が襖を開き、全員が寝入っている事に気が付き、背中に背負っていた忍刀を抜き取り、深い眠りについて、頭の上から布団を被っている筈の少年の喉笛に向かって妖しく光る刃先を突き立てた。
少年の喉笛と思われる箇所から血が溢れ出て、桃矢の柿色の服を朱色で染め上げていく。
桃矢は勝利を確信し、口元を歪め、微笑みを顔全体に浮かべた。
だが、次の瞬間に刺した筈の少年が起き上がり、彼に向かって刀を突き立てようとした。
真下から迫る刀の刃先を桃矢は間一髪の所で交わし、背後へと下がっていく。
すると、そのタイミングを見計らっていたかのように布団に伏していた筈の甲賀党の面々が起き上がっていく。
桃矢の顔に貼り付けていた筈の微笑が微かに揺らぐ。
それでも、顔に微笑を浮かべていたのだから、彼がいかに精神を鍛えているのかが分かるだろう。
桃矢は刀を鞘から抜き取り、周りの忍び達の動向に備える。
「どうやら、待ち伏せをしていたみたいだね?いつ、分かったのかな?」
桃矢は自分が刺した筈の少年に向かって問い掛ける。
少年は可愛らしい顔をしていたが、その顔が最も活かせるであろう笑顔を見られる可能性は自分には無いだろう。
双子の兄は肩を落としながら、目の前の少年の事を考えていた。
桃矢は質問を変えて少年に向かって問い掛ける。
「じゃあ、この質問には答えてもらえるかな?どうして、キミはぼくの刀を喰らった筈なのに生きているのかな?」
伊勢同心の忍びの質問に答える義務は無いとアホ毛の出た美少年はいや、龍一郎は突っぱねてやりたかったが、心の何処かに質問に答えないのはフェアでは無いと言う意思が存在し、それが龍一郎の口を開かせたのだった。
「いいだろう。冥土の土産に教えてやろう。お前が突き刺したのはあれだよ」
龍一郎は手にしていた刀の先端で自分が先程まで横になっていた布団を指す。
ペンキをぶち撒けたかのように血に塗れた布団の上には縦に置いていた枕が存在し、その枕の上から赤い色の液体を溢す肌色の巾着袋が転がっていた。
「あの巾着袋には鶏の血を入れていたんだ。この暗闇だからな、それにお前は布団の上から刀を刺した。そこから血を流しちゃあ、お前は殺したって思い込んじまうのは簡単だろうな?」
「成る程、ようやく理解したよ。まさか、担がされていたとは……しかも、あんたは党首様の仰られた例の若造が付いている小僧じゃあないだろ?何者だ?」
「龍一郎だ。甲賀党のなッ!」
龍一郎はそう叫ぶなり、背中に下げていた刀を抜いて、目の前の男に向かって迫る。
刀を抜いて、目の前の男に向かって斬りかかっていく。
だが、男は龍一郎が左斜め下から刀を振り上げるよりも前に、印術の中の段を使用し、哀れなる少年の忍者を背後の壁へと叩き付ける。
それを見越してから、彼は背後に控えている妹の元へと駆けていくが、その前に彼は他の忍び達に囲まれて逃げ場を無くしてしまう。
逃げ場を失った桃矢は少年が叩き付けられている土の壁の間に存在する小さな障子を開けて逃走を図ろうとする。
逃すまいと群がる他の忍び達を彼は先程同様の中段の印術を使用し、彼らを壁に叩き付けていく。
彼ら全員が床に叩き付けられるのを確認すると、彼は勢いを付けて天井へと上がろうと試みたが、彼の右足の足首を掴まれてしまい彼は部屋の中へと強制的に引き戻されてしまう。
彼が地面を眺めると、そこには先程、彼が吹き飛ばした筈の少年が彼の右足を掴んでいたのだ。
彼は地面の下の少年を睨み、彼に向かって印術の中の段を使用し、風のカッターを作り上げ、彼を切り刻もうと試みたが、この時に彼は怒りのために、向こうも忍びである事を失念していたのだ。
地面で倒れていた忍びも風のカッターを作り上げ、向こう側の相手の飛ばすカッターを攻撃し、相殺していく。
龍一郎は風の攻撃が相殺されるのを確認すると、側に落ちていた刀を拾い上げ、その刀に中段の印術を含ませ、風の刀を作り上げて目の前の相手に向かって斬りかかっていく。
男も舌を打ち、少年と同様の刀を作り上げ、打ち合う。
刀と刀の鍔迫り合いを繰り広げようとすると思われた時だ。襖が勢いよく開かれ、部屋に一人の美しい女性が現れた。
豊満な胸を持つ彼女はニコリと笑い、刀を振って部屋に居た筈の忍び達に自分の妖魔術を浴びせていく。
全員の顔を水の膜が覆うのと同時に、彼女は弟の側により、弟の手を引き、部屋から抜け出す。
二人にとって夜と言うのはこれかららしい。
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