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第五部『征服王浪漫譚』
壺買い商人ーその③
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花彦は昔から自分に与えられた名前が嫌いだった。花彦と言う名前から女、女と里の子供達に絡まれていた事を思い出す。
その度に、彼は自らの腕っ節を鍛え、里の子供達よりも忍術の修行で上位の成績を取る事により、逆に彼らを見下す事に成功していた。
里の子供達は可愛らしい名前と女を思わせるような均整の取れた顔とそれに似合わない好成績に辟易していたものだ。
里の子供達は花彦の優秀さのカラクリを知っていたが、それは到底自分達には真似できぬと知っていたからこそ、敢えて誰も口には出さなかったのだ。
彼は妖術を教わる際に、本来の教師であり、頭領でもある幻斎からだけではなく、他の優秀な忍び達からも彼らの田畑を手伝う事によって技や上達の仕方を教わっていたのだ。
そのために、彼は睡眠と食事以外の全ての余暇の時間を削り、更にはただでさえ少ない忍びの睡眠時間を削り、忍びとしての技を磨いていたと言っても良いだろう。
そうして、彼は若い世代の忍びの中でも実力者としての力を付けていたのだが、自分のこれまでの成果は全て無意味であった事に伊勢同心の襲撃の際に悟ったのであった。
花彦は伊勢同心の襲撃の際には既に二十を超えた年であり、既に契りを交わしていた相手もいたのだが、その女は二人の見慣れない金色の髪の男女によって無意味に殺されてしまった。
何十人もいた筈の伊勢同心の村は僅か十五名の刺客のために滅ぼされてしまったのだ。
花彦は当然、村を守る男として侵略者に立ち向かって行ったが、侵略者の男はその場に立ち、彼を冷ややかな視線で突き刺すだけで戦闘不能にしてしまったのだ。正確には彼に睨まれた直後に腹に大きな傷を負ってしまったと言うべきだろうか。
いずれにしろ、洋装の二人の男女率いる妖魔党を名乗る伊勢同心の精鋭集団の前に、実力者揃いの甲賀の忍び達はなす術もなく蹂躙されてしまったと言う事だろう。
花彦がこの襲撃を生き延びられたのは腹を斬られた自分が生きていないと言う敵の頭領の思い込みであった。実際に彼が仮死状態にあった事も不幸中の幸いだったと言うべきだろう。
シリウスとの戦いの前に敗北した男が次に目を覚ました場所は小さな風車小屋の中であった。
藁の敷物の上で、彼はかつての頭領に起こされて目が覚めたのだ。
頭領曰く自分は二日の時間を悪夢にうなされ過ごしていたらしい。
他の仲間達は外にたまたまその襲撃の日に出掛けていたり、運良く隠れていたりで難を逃れたらしい。
花彦はお花の事を問い掛ける。花彦の恋人の事を問われた幻斎は小さく謝罪の言葉を口にし、お花が身に付けていた簪を手渡す。
花彦はかつての頭領の顔からお花がこの世に居ない事を悟った。
花彦は清麿の死とお花の死が被って見えた。
それだけに、目の前の男に向けての憎悪は燃やしても燃やし切れない程煮詰まっていたと言っても良いだろう。
花彦は忍刀を振り上げ、空中から男に向かって斬りかかっていく。
男は花彦の刀を身のこなしで易々と避け、続いて大きな鍛冶屋の上に登っていく。
万心は瓦の上から、花彦を見下ろしながら、手裏剣を投げ付けた。
花彦は刀を使用して反対に手裏剣を投げ返す。
投げ返された手裏剣は頭上に陣取っていた男に向かって返ってこようとしていたが、男は手裏剣を左に避ける事によって自分に当たる事を防ぐ。
花彦は飛び上がり、岡崎万心と同じ土俵に上がっていく。
青い瓦の敷き詰められた商店の屋根の上で二人の忍びが睨み合う。
最初に足を踏んだのは花彦の方だった。花彦の復讐を早る気持ちが彼の中に存在した『躊躇い』の三文字を消し飛ばしたのだろう。
花彦は刀を万心に向かって斬りかかっていく。
万心は自分の刀を盾に花彦の刀を防ぐ。
軽く火花が散るのを目視してから、花彦は一度万心の元から離れ、もう一度刀を振り上げて飛び上がり、彼に向かって斬りかかっていく。
万心は中段の印を使用し、豪風を吹き起こし、花彦が瓦の上で叩きつけられた事を確認する。
万心は陰湿な微笑を浮かべ続けながら、刀を振って花彦の元へと向かう。
花彦は自身の心の中に芽生えた復讐心を滾らせて、地獄の修羅を思わせるような形相を浮かべて岡崎万心に向かって斬りかかっていく。
万心は刀を斜めに構え、その上で中段の印術を使用し、万心を吹き飛ばす事によって全てを収めたつもりらしい。
だが、中段までの印術を使えるのは花彦も同様だった。
彼は左手で中段の印を使用し、彼の風に向かって自分の風を向かわせていく。
二つの豪風がぶつかり合う中で、人間同士でも刀を使用して斬り結ぶ。
一合、二合と刀がぶつかり合う中で、紺色の忍び服を着用した男は互いに下唇を噛み結ぶ。
斬り合いによって数刻程の時刻が奪われた後に、万心は斬り合いでは己の身が持たぬと唇を噛み締めながら、左手に壺を抱え、そこから蛇を生み出し、花彦に向かって飛ばす。
花彦は飛んできた蛇の頭を一刀両断にしていく。
真っ白な丸い形の閃光が飛ばされた後には、花彦の周りの青い瓦の中に微かな朱色が混じっていた。
その隙に勝負から目を離したのがいけなかった。
万心は左斜め下から斬り上げていく中で、彼は勝利を確信し微笑む。
彼は頭の中で新たなる頭領に褒めてもらう妄想に心を囚われ、目の前への注意を逸らしてしまう。
そして、その注意は彼が逆袈裟掛に振り上げた刀が花彦の刀に重ねられている事によってようやく悟った。
彼は歯を軋ませながら、目の前の男を睨む。
「後、少しでオレを殺せたのにな?残念だっただろ?」
「己ェェェェ~!!」
万心は彼の首を狙い左右に剣を振っていくが、その剣が的を定める事は無い。
万心が振り上げた刀はそのいずれも、目の前の端正な男の刀の前に止められてしまっていたのだから。
万心は一度刀を離すと、男の前から背後に向かって飛び、もう一度距離を取っていく。
追い詰められ冷や汗を掻く万心に向かって花彦は冷徹な声で問いかける。
「相当追い詰められているらしいな、ここらでそろそろオレに殺されたらどうだ?」
「ほざけッ!このオレが貴様なんぞに降伏するとで思うたかッ!」
万心は自分が名前の通りに『慢心』していたのだと言う事を悟る。
彼ら汚れた頬を拭いながら、次々と壺を作り出していき、目の前の花彦に向かって放出していく。
地面に落ちる前に設けられた壺は花彦に向かって衝撃波を放っていく。
花彦は衝撃を受け、地面に落ちていくも、落ちていく途中で体を丸め落下の際の衝撃を緩めた。
地面に落ちた花彦の元に忍刀を構えた万心が現れた。
その度に、彼は自らの腕っ節を鍛え、里の子供達よりも忍術の修行で上位の成績を取る事により、逆に彼らを見下す事に成功していた。
里の子供達は可愛らしい名前と女を思わせるような均整の取れた顔とそれに似合わない好成績に辟易していたものだ。
里の子供達は花彦の優秀さのカラクリを知っていたが、それは到底自分達には真似できぬと知っていたからこそ、敢えて誰も口には出さなかったのだ。
彼は妖術を教わる際に、本来の教師であり、頭領でもある幻斎からだけではなく、他の優秀な忍び達からも彼らの田畑を手伝う事によって技や上達の仕方を教わっていたのだ。
そのために、彼は睡眠と食事以外の全ての余暇の時間を削り、更にはただでさえ少ない忍びの睡眠時間を削り、忍びとしての技を磨いていたと言っても良いだろう。
そうして、彼は若い世代の忍びの中でも実力者としての力を付けていたのだが、自分のこれまでの成果は全て無意味であった事に伊勢同心の襲撃の際に悟ったのであった。
花彦は伊勢同心の襲撃の際には既に二十を超えた年であり、既に契りを交わしていた相手もいたのだが、その女は二人の見慣れない金色の髪の男女によって無意味に殺されてしまった。
何十人もいた筈の伊勢同心の村は僅か十五名の刺客のために滅ぼされてしまったのだ。
花彦は当然、村を守る男として侵略者に立ち向かって行ったが、侵略者の男はその場に立ち、彼を冷ややかな視線で突き刺すだけで戦闘不能にしてしまったのだ。正確には彼に睨まれた直後に腹に大きな傷を負ってしまったと言うべきだろうか。
いずれにしろ、洋装の二人の男女率いる妖魔党を名乗る伊勢同心の精鋭集団の前に、実力者揃いの甲賀の忍び達はなす術もなく蹂躙されてしまったと言う事だろう。
花彦がこの襲撃を生き延びられたのは腹を斬られた自分が生きていないと言う敵の頭領の思い込みであった。実際に彼が仮死状態にあった事も不幸中の幸いだったと言うべきだろう。
シリウスとの戦いの前に敗北した男が次に目を覚ました場所は小さな風車小屋の中であった。
藁の敷物の上で、彼はかつての頭領に起こされて目が覚めたのだ。
頭領曰く自分は二日の時間を悪夢にうなされ過ごしていたらしい。
他の仲間達は外にたまたまその襲撃の日に出掛けていたり、運良く隠れていたりで難を逃れたらしい。
花彦はお花の事を問い掛ける。花彦の恋人の事を問われた幻斎は小さく謝罪の言葉を口にし、お花が身に付けていた簪を手渡す。
花彦はかつての頭領の顔からお花がこの世に居ない事を悟った。
花彦は清麿の死とお花の死が被って見えた。
それだけに、目の前の男に向けての憎悪は燃やしても燃やし切れない程煮詰まっていたと言っても良いだろう。
花彦は忍刀を振り上げ、空中から男に向かって斬りかかっていく。
男は花彦の刀を身のこなしで易々と避け、続いて大きな鍛冶屋の上に登っていく。
万心は瓦の上から、花彦を見下ろしながら、手裏剣を投げ付けた。
花彦は刀を使用して反対に手裏剣を投げ返す。
投げ返された手裏剣は頭上に陣取っていた男に向かって返ってこようとしていたが、男は手裏剣を左に避ける事によって自分に当たる事を防ぐ。
花彦は飛び上がり、岡崎万心と同じ土俵に上がっていく。
青い瓦の敷き詰められた商店の屋根の上で二人の忍びが睨み合う。
最初に足を踏んだのは花彦の方だった。花彦の復讐を早る気持ちが彼の中に存在した『躊躇い』の三文字を消し飛ばしたのだろう。
花彦は刀を万心に向かって斬りかかっていく。
万心は自分の刀を盾に花彦の刀を防ぐ。
軽く火花が散るのを目視してから、花彦は一度万心の元から離れ、もう一度刀を振り上げて飛び上がり、彼に向かって斬りかかっていく。
万心は中段の印を使用し、豪風を吹き起こし、花彦が瓦の上で叩きつけられた事を確認する。
万心は陰湿な微笑を浮かべ続けながら、刀を振って花彦の元へと向かう。
花彦は自身の心の中に芽生えた復讐心を滾らせて、地獄の修羅を思わせるような形相を浮かべて岡崎万心に向かって斬りかかっていく。
万心は刀を斜めに構え、その上で中段の印術を使用し、万心を吹き飛ばす事によって全てを収めたつもりらしい。
だが、中段までの印術を使えるのは花彦も同様だった。
彼は左手で中段の印を使用し、彼の風に向かって自分の風を向かわせていく。
二つの豪風がぶつかり合う中で、人間同士でも刀を使用して斬り結ぶ。
一合、二合と刀がぶつかり合う中で、紺色の忍び服を着用した男は互いに下唇を噛み結ぶ。
斬り合いによって数刻程の時刻が奪われた後に、万心は斬り合いでは己の身が持たぬと唇を噛み締めながら、左手に壺を抱え、そこから蛇を生み出し、花彦に向かって飛ばす。
花彦は飛んできた蛇の頭を一刀両断にしていく。
真っ白な丸い形の閃光が飛ばされた後には、花彦の周りの青い瓦の中に微かな朱色が混じっていた。
その隙に勝負から目を離したのがいけなかった。
万心は左斜め下から斬り上げていく中で、彼は勝利を確信し微笑む。
彼は頭の中で新たなる頭領に褒めてもらう妄想に心を囚われ、目の前への注意を逸らしてしまう。
そして、その注意は彼が逆袈裟掛に振り上げた刀が花彦の刀に重ねられている事によってようやく悟った。
彼は歯を軋ませながら、目の前の男を睨む。
「後、少しでオレを殺せたのにな?残念だっただろ?」
「己ェェェェ~!!」
万心は彼の首を狙い左右に剣を振っていくが、その剣が的を定める事は無い。
万心が振り上げた刀はそのいずれも、目の前の端正な男の刀の前に止められてしまっていたのだから。
万心は一度刀を離すと、男の前から背後に向かって飛び、もう一度距離を取っていく。
追い詰められ冷や汗を掻く万心に向かって花彦は冷徹な声で問いかける。
「相当追い詰められているらしいな、ここらでそろそろオレに殺されたらどうだ?」
「ほざけッ!このオレが貴様なんぞに降伏するとで思うたかッ!」
万心は自分が名前の通りに『慢心』していたのだと言う事を悟る。
彼ら汚れた頬を拭いながら、次々と壺を作り出していき、目の前の花彦に向かって放出していく。
地面に落ちる前に設けられた壺は花彦に向かって衝撃波を放っていく。
花彦は衝撃を受け、地面に落ちていくも、落ちていく途中で体を丸め落下の際の衝撃を緩めた。
地面に落ちた花彦の元に忍刀を構えた万心が現れた。
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