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第五部『征服王浪漫譚』
甲賀の幻斎
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「橋本雲内が敗北したのか?」
黒色の3ピースのフロックコートの下に緑色のフレンチドレスシャツ、コートと同様の絹の高価な黒色のズボンの上に、首の上から黒色のパフタイを首に巻き付けたシリウスは壁一面に敷き詰められた本棚の中から一冊の本を取り出しながら、報告に報告に訪れた男に向かって問う。
男は澄ました顔で本を探す。
その様子を庭の中で跪く伊勢と東京府を行き来する伝達係の雷蔵は見ていた。彼の目には澄ました顔で一冊の本を取り出そうとする新たなる異国人の頭領の姿がハッキリと見えた。
雷蔵が頭を上げ、同僚の姿を見上げると、そこには顔に青筋を立てて凍り付くような鋭い視線で自分を眺める頭領の姿があった。
雷蔵は慌てて頭を下げて庭の真ん中で頭を擦り付けていく。
「橋本の奴め、折角、私が直々に苗字をくれてやったと言うのに役に立たない奴だ。良い、次は橋本と同じく地魔の岡崎を向かわせろ、あの男ならば、若造と小僧の両方の小癪な蠅どもを叩き潰してくれるだろうであろうからな」
シリウスはそう言って読んでいた分厚い英語のタイトルが書かれた本を開く。
シリウスは分厚いを本を書斎の中央に設置してある椅子にもたれかかりながら続きを読んでいく。
雷蔵はシリウスからの指示を伝えるために、伊勢へ戻ろうと庭を後にしようとした時に、背後から自分に声がかかったために振り向く。
「待て、お前に問題を出そうじゃあないか、そして、次に来る時に答えを教えてもらいたい」
雷蔵はもう一度庭先で跪き、異国人の頭領から出された問題を聞いていく。
頭領から出された問題は殺人事件の解決であった。
何でも、その事件はモルグ街なる異国の街で発生した事件であり、事件の現場の窓は釘が打ち付けられた場所であり、人の出入りする場所では無いらしい。
それらの事実に加えて、事件をややこしくしたのは近隣の住民の目撃証言らしい。
その目撃証言と言うのはそれぞれの住民がそれぞれ異なる言語を聞いたと言う事だ。
「親子を殺したのはどんな奴だと思う?」
シリウスは手に持っている分厚い本のタイトルを雷蔵に突き付けながら問い掛ける。
「わ、私にはまだ検討が……」
「だろうな、だから、先程貴様には次に来る時までに考えておけと言ったのだ。良い、暇つぶしになるだろうな?」
シリウスの言葉に雷蔵はもう一度頭を下げ、東京府内に存在するシリウスの屋敷から、故郷の伊勢へと向かっていく。
彼は道中もシリウスから出された問題を考えながら、夜道を走っていた。
恐らく、この問題を解けなければ新たなる頭領は使えなくなったちり紙を屑籠に捨てるかのように簡単に自分を切り捨てるだろう。
雷蔵は対面している最中、シリウスが身体中から地魔の忍びが欠けた事によって怒っていた事を雷蔵はハッキリと覚えていた。
対面していた時も冷や汗が止まらなかったのを覚えている。万が一の事は雷蔵は考えたくもなかった。
大阪の旅館と言うのは中々広いらしい。
本来ならば、孝太郎と鬼麿はあの厳つい顔の店主が経営している鍛冶屋に戻らなければならないのだが、幻斎の部下を名乗る若い青年が二人が店を開ける理由を説明してくれるらしい。
孝太郎は小さな鬼麿と同席しながら、大きな大坂の旅館の二階の部屋で朗らかに笑う老人と黒色の漆が塗られた四角形の机を挟んで向かい合っていた。
老人は二階の部屋の破れた障子の隙間から、部下の青年が走っていく姿を眺めていた。
ある程度、眺め終えると、老人は障子から目を映し、目の前に座る二人の青年と少年を眺めていた。
老人はオホンと空咳をしてから、話を切り出していく。
話によれば、自分達は現在は存在しない甲賀衆の僅かな生き残りを集めた甲賀党なる組織を率いているらしい。
その組織のメンバーは全て伊勢同心の襲撃の折に全滅し掛けた甲賀党の生き残りだと言う。
幻斎の説明によれば、この場に居ないのは全員が日銭を稼ぐために、日雇いの仕事に出ているからだと言う。
宿を借りるための仕事も幻斎によればかなり大変らしく、僅かな稼ぎはこの大きな部屋を借りるために取られてしまうらしい。
孝太郎は話を聞くうちに納得していた。孝太郎と鬼麿が座っているこの部屋は十五畳はある広い部屋であるし、掛け軸やら調度品もそれなりの値段はするだろうと思わせられるような華美な物が多い。
孝太郎は呆れた顔をしていると、意図を見抜かれたのか幻斎が頭を掻くような動作をして見せた事については流石の鬼麿も呆れてしまったのかすっかりと肩を落としてしまっている。
幻斎が苦笑いを浮かべて、もう一度空咳を始めてから話を続けていく。
「すまんかったな、話が逸れた。さて、ここからが本題なのじゃが、お前さん達、東京府に行きたいじゃろ?」
孝太郎は首肯してみせた。鬼麿も同様の処置を取っていた。
二人の様子を見ると、幻斎は満足したらしく、白い髭に覆われた口元を大きく歪めていた。
「その案にワシらも乗ってやろうと言うのよ。甲賀党もお前さん達の敵とは少し因縁ができたのでな……」
幻斎は『因縁』と言う言葉を発した後に、顔を僅かに曇らせていたが、直ぐに明るい顔を取り戻し、二人に満面の笑みを向ける。
「さてと、そろそろ甲賀党の党員達が戻ってくる頃じゃな」
幻斎が部屋と自分達の住む部屋を仕切るために用意された鶴が描かれた襖の置かれた右方向を振り向くと、勢いよく扉が開き、そこに未だに幼い顔の少年二人が現れた。
少年の一人は無邪気と言わんばかりのアホ毛を出した少年で、人懐っこそうな瞳と元気そうなピンク色の唇は見る人の庇護欲を注がんばかりに美しかった。
もう一人の少年は顔に十文字の傷を負ってはいたが、それ以外は非の打ち所の無い顔を持った美少年であった。
小鹿のように可愛らしい顔であったが、獲物を求めるサメのような強い瞳がその手の人間や格好の良い人の前で、可愛らしさをアピールしようとする賢しい人間を跳ね付けているに違いない。
ともかく、彼はツンツンとした態度と例の瞳が取っ付きにくい性質があるのは間違いない。
仕事場においても十文字の傷を持つ少年がもう一人の少年に向かおうとする人間を阻止しようとしているに違いない。
服装においても二人の性格を表しているのは間違いないだろう。
アホ毛を頭の上に生やした可愛らしい小鹿のような顔の少年は緑色の着物を着ていたが、もう片方の少年は彼に似合うような黒色のえんじの柄が入った着物を着ていた。
孝太郎が二人を観察していると、正面に座っていた幻斎は甲高く笑いながら、右手を左右に動かして互いに初対面の二人組を紹介していく。
「さてと、紹介しておこうかな、あの可愛らしい毛の出た子が龍一郎。もう片方の強気な子が弥太郎じゃ」
鬼麿は同年代の子と今まで滅多に会った事が無いためか、キラキラと目を輝かせながら自己紹介していく。
後書き
本日より連載再開となります!五日ぶりですね!ここから話は進んでいきますので、皆さんどうか今後もご愛好賜っていただければ嬉しいです!
新作の目処はまだ立ちませんねー(ストックが中々堪らない)
黒色の3ピースのフロックコートの下に緑色のフレンチドレスシャツ、コートと同様の絹の高価な黒色のズボンの上に、首の上から黒色のパフタイを首に巻き付けたシリウスは壁一面に敷き詰められた本棚の中から一冊の本を取り出しながら、報告に報告に訪れた男に向かって問う。
男は澄ました顔で本を探す。
その様子を庭の中で跪く伊勢と東京府を行き来する伝達係の雷蔵は見ていた。彼の目には澄ました顔で一冊の本を取り出そうとする新たなる異国人の頭領の姿がハッキリと見えた。
雷蔵が頭を上げ、同僚の姿を見上げると、そこには顔に青筋を立てて凍り付くような鋭い視線で自分を眺める頭領の姿があった。
雷蔵は慌てて頭を下げて庭の真ん中で頭を擦り付けていく。
「橋本の奴め、折角、私が直々に苗字をくれてやったと言うのに役に立たない奴だ。良い、次は橋本と同じく地魔の岡崎を向かわせろ、あの男ならば、若造と小僧の両方の小癪な蠅どもを叩き潰してくれるだろうであろうからな」
シリウスはそう言って読んでいた分厚い英語のタイトルが書かれた本を開く。
シリウスは分厚いを本を書斎の中央に設置してある椅子にもたれかかりながら続きを読んでいく。
雷蔵はシリウスからの指示を伝えるために、伊勢へ戻ろうと庭を後にしようとした時に、背後から自分に声がかかったために振り向く。
「待て、お前に問題を出そうじゃあないか、そして、次に来る時に答えを教えてもらいたい」
雷蔵はもう一度庭先で跪き、異国人の頭領から出された問題を聞いていく。
頭領から出された問題は殺人事件の解決であった。
何でも、その事件はモルグ街なる異国の街で発生した事件であり、事件の現場の窓は釘が打ち付けられた場所であり、人の出入りする場所では無いらしい。
それらの事実に加えて、事件をややこしくしたのは近隣の住民の目撃証言らしい。
その目撃証言と言うのはそれぞれの住民がそれぞれ異なる言語を聞いたと言う事だ。
「親子を殺したのはどんな奴だと思う?」
シリウスは手に持っている分厚い本のタイトルを雷蔵に突き付けながら問い掛ける。
「わ、私にはまだ検討が……」
「だろうな、だから、先程貴様には次に来る時までに考えておけと言ったのだ。良い、暇つぶしになるだろうな?」
シリウスの言葉に雷蔵はもう一度頭を下げ、東京府内に存在するシリウスの屋敷から、故郷の伊勢へと向かっていく。
彼は道中もシリウスから出された問題を考えながら、夜道を走っていた。
恐らく、この問題を解けなければ新たなる頭領は使えなくなったちり紙を屑籠に捨てるかのように簡単に自分を切り捨てるだろう。
雷蔵は対面している最中、シリウスが身体中から地魔の忍びが欠けた事によって怒っていた事を雷蔵はハッキリと覚えていた。
対面していた時も冷や汗が止まらなかったのを覚えている。万が一の事は雷蔵は考えたくもなかった。
大阪の旅館と言うのは中々広いらしい。
本来ならば、孝太郎と鬼麿はあの厳つい顔の店主が経営している鍛冶屋に戻らなければならないのだが、幻斎の部下を名乗る若い青年が二人が店を開ける理由を説明してくれるらしい。
孝太郎は小さな鬼麿と同席しながら、大きな大坂の旅館の二階の部屋で朗らかに笑う老人と黒色の漆が塗られた四角形の机を挟んで向かい合っていた。
老人は二階の部屋の破れた障子の隙間から、部下の青年が走っていく姿を眺めていた。
ある程度、眺め終えると、老人は障子から目を映し、目の前に座る二人の青年と少年を眺めていた。
老人はオホンと空咳をしてから、話を切り出していく。
話によれば、自分達は現在は存在しない甲賀衆の僅かな生き残りを集めた甲賀党なる組織を率いているらしい。
その組織のメンバーは全て伊勢同心の襲撃の折に全滅し掛けた甲賀党の生き残りだと言う。
幻斎の説明によれば、この場に居ないのは全員が日銭を稼ぐために、日雇いの仕事に出ているからだと言う。
宿を借りるための仕事も幻斎によればかなり大変らしく、僅かな稼ぎはこの大きな部屋を借りるために取られてしまうらしい。
孝太郎は話を聞くうちに納得していた。孝太郎と鬼麿が座っているこの部屋は十五畳はある広い部屋であるし、掛け軸やら調度品もそれなりの値段はするだろうと思わせられるような華美な物が多い。
孝太郎は呆れた顔をしていると、意図を見抜かれたのか幻斎が頭を掻くような動作をして見せた事については流石の鬼麿も呆れてしまったのかすっかりと肩を落としてしまっている。
幻斎が苦笑いを浮かべて、もう一度空咳を始めてから話を続けていく。
「すまんかったな、話が逸れた。さて、ここからが本題なのじゃが、お前さん達、東京府に行きたいじゃろ?」
孝太郎は首肯してみせた。鬼麿も同様の処置を取っていた。
二人の様子を見ると、幻斎は満足したらしく、白い髭に覆われた口元を大きく歪めていた。
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幻斎は『因縁』と言う言葉を発した後に、顔を僅かに曇らせていたが、直ぐに明るい顔を取り戻し、二人に満面の笑みを向ける。
「さてと、そろそろ甲賀党の党員達が戻ってくる頃じゃな」
幻斎が部屋と自分達の住む部屋を仕切るために用意された鶴が描かれた襖の置かれた右方向を振り向くと、勢いよく扉が開き、そこに未だに幼い顔の少年二人が現れた。
少年の一人は無邪気と言わんばかりのアホ毛を出した少年で、人懐っこそうな瞳と元気そうなピンク色の唇は見る人の庇護欲を注がんばかりに美しかった。
もう一人の少年は顔に十文字の傷を負ってはいたが、それ以外は非の打ち所の無い顔を持った美少年であった。
小鹿のように可愛らしい顔であったが、獲物を求めるサメのような強い瞳がその手の人間や格好の良い人の前で、可愛らしさをアピールしようとする賢しい人間を跳ね付けているに違いない。
ともかく、彼はツンツンとした態度と例の瞳が取っ付きにくい性質があるのは間違いない。
仕事場においても十文字の傷を持つ少年がもう一人の少年に向かおうとする人間を阻止しようとしているに違いない。
服装においても二人の性格を表しているのは間違いないだろう。
アホ毛を頭の上に生やした可愛らしい小鹿のような顔の少年は緑色の着物を着ていたが、もう片方の少年は彼に似合うような黒色のえんじの柄が入った着物を着ていた。
孝太郎が二人を観察していると、正面に座っていた幻斎は甲高く笑いながら、右手を左右に動かして互いに初対面の二人組を紹介していく。
「さてと、紹介しておこうかな、あの可愛らしい毛の出た子が龍一郎。もう片方の強気な子が弥太郎じゃ」
鬼麿は同年代の子と今まで滅多に会った事が無いためか、キラキラと目を輝かせながら自己紹介していく。
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