魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第五部『征服王浪漫譚』

七つの魂が支配するーその③

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男は刀を構えて、孝太郎を迎え撃とうと試みていた。
彼の鉈が妖しい光を帯びて煌く。
孝太郎は思わず生唾を飲み込もうとしたが、それでも両手の刀を握る力を強めて、目の前の相手と対峙していく。
男は必死に勇気を出そうとする孝太郎を馬鹿にしているのか、彼は小さく鼻で笑って、鉈に中段の印術である風を纏わせて、孝太郎の元に向かっていく。
二人の刃が重なり合い、刀と刀がぶつかった時の独特の金属音が響いていくが、普通の鍔迫り合いならば絶対に起きないであろう現象が孝太郎を襲っていた。
彼の頬をカッターナイフのように鋭い風が襲っていたと言う事実だ。
自分に仕える唯一の下男の身に何が起こったのかを察し、鬼麿は刀を構えて、彼の懐に潜り込もうと試みたが、それも無駄らしい。
男と孝太郎の間に少しでも介入してしまえば、即座に孝太郎は目の前の男の風の餌食になってしまう。
男は何度も鉈を孝太郎の握る刀に向かって左右に振っていく。
その度に孝太郎は刀で防いでいくのだが、さしもの名刀も流石にダメージを負ってしまうのだろうか、何度も激しい揺れに孝太郎は襲われていく。
孝太郎は何とか推し止まり、男の攻撃に備えていく。
孝太郎の履いている草履が地面を大きくすり減らしていく事に気が付く。
それに味を締めたのか、男は高揚感に襲われて大きな声で笑いながら、彼に向けてニンマリとした満面の笑みを見せる。
「ハッハッハッハッ、どうした!?オレの魔法が怖いのか?オレをあんな妖魔術に頼るだけの雑魚だと思っておったのか!?そう思っていたんだったら、お前のその認識はここで改めるべきだなッ!」
男は鉈を使用して孝太郎の握っていた日本刀を地面に落とす。
地面では持ち手を失った名刀が孝太郎の背後に早く抜いて欲しいとばかりに埋まっていた。
自分の目の前に唯一の下男の刀が刺さっている事を確認した鬼麿はいても立ってもいられなくなったのだろうか、彼はお慌てで地面に落ちた刀を拾いに向かう。
小さな鬼麿を男は孝太郎の隙を突いて、斬り捨てようと試みた。
鬼麿は男が自分に向かって斬りかかろうとする前に、小さな体で刀を引き抜き、自分に向かって来る男に向かって刀の剣先を向ける。
すると、先程まで何とも無かった筈の少年の小さな両手に握られた刀が太陽を思わせるような真っ白な光に包まれ、目の前に迫る男を迎え撃つ。
光を纏った刀と男の風を纏った刀が互いに打ち合う。
十合程刀と刀を打ち合った末に、痺れを切らしたのか、彼は印術下の段を使用し、自分そっくりの土人形を作り上げ、破壊した際に生じる泥と土の噴煙を利用し、彼は鬼麿の元から姿を消す。
彼は次に武器の無くなった孝太郎に襲い掛かるが、彼は異空間の武器庫を使用し、六連発式の黒色のリボルバーを取り出し、彼の心臓を撃ち抜く。
銃声の乾いた音が人の居なくなった街の中に響いていく。
飛び掛かった男は心臓から血を流し、地面に倒れていたが、もう一度起き上がり、再度孝太郎を狙う。
孝太郎は躊躇う事なく、男の額に向かってリボルバーを放つ。
男は再度地面に倒れ、そして、何事もなかったかのように起き上がる。
彼は老人に二回、自分に二回殺された事になる。
計四回彼は殺された。残る数は三回だ。
孝太郎はもう一度回転式の六連発式のピストルを構える。
今度は額を狙おうとしたが、男は口だけで「バカ」と言い放ち、男は孝太郎の持っていたリボルバーの銃口目掛けて、クナイを放つ。
孝太郎はクナイが銃口に命中すると同時に、暴発に巻き込まれる事を防ぐために、地面に持っていた回転式の拳銃を投げ捨てる。
暴発した拳銃は地球の重力に引き付けられ、地面に落ちてしまう前に、宙で爆発し、孝太郎を爆風で吹き飛ばす。
地面に転がり、起き上がろうとする孝太郎を彼は背後から突き刺そうと目論む。
孝太郎は決戦のために取っておこうと試みた自動拳銃を異空間の武器庫から取り出し、男に頭目掛けて引き金を引く。
頭に銃弾の直撃した男は流石に自然の法則には逆らう事ができなかったのだろうか、えびそりの動作を繰り出し、地面に倒れ伏す。
孝太郎は拳銃を握ったまま鬼麿の元に向かう。
男はもう一度蘇生するのと同時に、孝太郎に向かって斬りかかろうとしたが、その前に鬼麿が立ち塞がり、両手に握った名刀と天照大神から授かったと思われる神術を使用し、目の前の相手に向かって剣を構える。
鬼麿と合流した孝太郎は手に握った自動拳銃を使用し、男と自分の主人の戦いを手助けしようと試みたが、その手を一人の老人の手によって阻まれてしまう。
孝太郎は背後の老人に向かって問い掛けた。
「どうして、止めるんですか!?もう少しで、鬼麿が殺されちまうって言うかもしれないのにッ!」
「まぁ、待ちなされ、あんたのご主人様はちゃんとあの男を斬り殺すから」
満面の笑みで白い髭に覆われた老人の言葉を鵜呑みにした訳ではないが、自動拳銃を操作する筈の右手が老人に絡め取られている状況ではこれ以上何も言えないだろう。
孝太郎は黙って、目の前の二人の戦いを見守る事にした。
少年と男は互いに剣を交わせ、白い光を帯びた刀と風を纏った刀がぶつかり合っていく。
先手を打ったのは男の方だ。男は印術を使用し、中段の印術の最上位の印術を使用し、自分の全身に風神を纏わせる術を使用し、鬼麿を追い詰めていく。
鬼麿は太陽の力を借りて、目の前の風神とも称すべき男に立ち向かっていく。
風と光が互いにぶつかり合い、その渦中の中心となっているのは二人の握る刀らしい。
互いの刀がぶつかり合い、風と太陽の代理紛争を起こしているかのような錯覚を孝太郎に起こさせた。
目の前の戦いは苛烈を極めていた。
鬼麿が上段を取ったかと思えば、雲内が彼の胴を狙う。
雲内が有利に見えたかと思えば、鬼麿の鬼気迫る雰囲気と剣技によって、彼の攻撃は子供用の脆い鉛筆を折るかのようにあっさりと折れてしまう。
鬼麿の刀は太陽の力のために、増幅していき、雲内の武器を押し出そうとしている。
鬼麿は頭の中に囁きかけてくる優しい言葉に従い、自分の使用する技の名前を叫ぶ。
「神術ッ!『八岐大蛇』!!」
彼の剣に七つの首を持つ蛇の姿が雲内には映った。七つの首を持った神獣は悪鬼の風を打ち払い、悪鬼の持つ刀を壊していく。
「ば、バカな!?オレの使用する最強の印術が!?」
その言葉を最後に鬼麿は七つの刃に突きによって地面に倒れ伏す。
全身から血を流して死亡した雲内の蘇生を鬼麿は死んでいる筈の彼の首元に刀を突き付けながら待っていた。
全ての事実を聞き出すために……。
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