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第五部『征服王浪漫譚』

魔の投棄物ーその②

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小弥太は刀に下の印術『岩と土』を使用して、刀に土を纏わせて孝太郎に向かって斬りかかっていく。
孝太郎は突然、様子の変わった小弥太と小弥太の刀の様子を眺めて、目を丸くしたが、それでも彼は刀を構えて小弥太に向かって立ち向かっていく。
小弥太の泥を纏わせた忍者の刀と孝太郎の綺麗な刀が本殿の前で火花を散らし合っていく。
二合、三合、四号と刀を打ち合ってから、二人はもう一度距離を取り、互いの力量を図りあっていく。
孝太郎は目の前の少年を眺めて、彼の次の手を予測した。孝太郎は少年が使用する魔法を予測する。
孝太郎が幾つもの魔法師としての戦闘を思い返したデータから導き出された答えは目の前の少年は泥を操る魔法師なのでは無いかと言う考えである。
孝太郎は最初に対峙した時に木の根や神社の石板を剥がしたのは他ならぬ『泥』の魔法で彼が石板焼きを引っ張り上げ、彼の見えない所で石板や木の根を泥や砂で持ち上げ、孝太郎に飛ばす時に解除したのでは無いかと言う考えだ。
孝太郎の考えは2332年や2329年ならば満点の回答になっていただろう。
或いは1956年においてもその考えは正しいかもしれない。
だが、今の状況においては躊躇いもなく罰が付けられるだろう。『印』は魔法の一種ではあるが、23世紀には完全に廃れた一種の万能魔術であったからだ。
万能魔術とは元来の魔法が上手く使用できない人間のために古来の神に仕える人間が編み出した言うなるば補助装置のような魔術であったからだ。
補助とは言え鎌倉の世から発足した多くの忍びはこれを使用し、自身の使える妖魔術通称、忍術と併用して使用してきたのである。
勿論、日本だけではなく、万能魔術と認められる存在は世界の各地に散らばっており、23世紀の世の中には西洋では錬金術などが中国においては陰道がそうでは無いかと噂されている。
孝太郎は万能魔術の存在を知っていたが、目の前の少年が使用しているとは思わなかった。少なくとも、この時はまだ孝太郎の思考が明治の時代ではなく、23世紀にあったと言った方が良いかもしれない。
無論、孝太郎はそんな事を知る由もなく、相手の魔法が『泥』を使用する類の魔法だと断定し、対策を練っていく。
小弥太は孝太郎が刀を握りながら、自分に向かっての対策をどうしようかと考えている様子が見えたらしい。
彼は自分の妖魔術と印術に自信を持っていたので、目の前の赤い肌の男には自分の印術は攻略できないと踏んだに違いない。
小弥太はもう一度印術を自分の持つ刀にかけて、二重のトラップを入れておく。
まず刀の刃の上に泥を付け、そのままもう一度目の前と男と斬り結ぶ。
男と暫く斬り結んでから、男は例の作戦を実行に移す事にした。
彼は大きく走っていき、目の前で孝太郎と対峙すると、右斜め下から剣を振り上げてから、孝太郎が自分の刀で身を守る瞬間を狙う。
小弥太が刀を振るう。目の前の青年は予想通りに刀で刀を防ぐ。
二つの刃が重なり合った瞬間を見計らい小弥太は自分の刀から泥を飛ばす。
そして、孝太郎に泥が吹き掛かろうとする瞬間を狙って泥を岩へと変換させる。
両手で日本刀を握る孝太郎には対処できなかったのだろう。
大小の岩が直撃し、孝太郎は地面に倒れてしまう。
小弥太はその瞬間を狙って、飛び上がり、頭上から孝太郎を狙う。
孝太郎は腰を上げる事なく、頭上から飛び掛かる忍者の少年を迎え撃つ。
一度大きな金属音を響かせてから、少年はもう一度背後へと下がり、刀の剣先を突き付けながら孝太郎に向かっていく。
孝太郎は全身に激痛が走っている事に気が付くが、それでも彼は立ち上がっていく。
孝太郎は両手に握った日本刀を大きく振り上げて、少年に向かっていく。
少年は口元の右端を吊り上げて、嘲笑うような表情を孝太郎に向かって浮かべていた。
「随分と必死だねぇ、本当に哀れだ。オレには敵わないって分かっているのに」
「それでもオレには守りたいものがあるんだッ!」
孝太郎は刀を構え直し、少年に向かっていく。少年はもう一度嘲笑うようなに口元を歪めて、
「哀れだなぁ、哀れ過ぎてさぁ、もう逆に笑いがこみ上げてくるよ。腹の底からの笑顔がねッ!」
小弥太は刀を振り上げて、孝太郎を迎え撃つ。
二つの刃が互いに旋律を奏でて、人の居ない山の上の神社の前で神に捧げる音楽を奏でているように鬼麿は感じられた。
十合、二十合と刀を使った斬り合いが続き、何度も火花が生じている事に孝太郎は気が付く。
最も、孝太郎としてはこんな膠着状態には至ってしまってはどうしようもないのだが。
孝太郎はそれでも歯を食い縛りながら、小弥太の攻撃に耐え続けた。
小弥太が猛攻を仕掛け、孝太郎が地面に倒れるのを狙う。
そして、トドメの一撃とばかりに、彼は印術を使用し、砂を人間の拳のように変換させて、孝太郎の胴を狙う。
空いていた胴を狙われた孝太郎は悶絶し、地面に崩れてしまう。
小弥太は地面に倒れた赤い肌の青年に向かって剣先を突き付けて言った。
「さてと、殺す前に一つだけ教えてくれないかな?あんたは何者だ?あんたは恐らく士族の人間じゃあ無いよな?かと言って百姓でも無い。一体何者なんだ?」
孝太郎は全身の声を振り絞りって叫ぶ。
「オレは誰でも無いッ!オレはただの下男坊だッ!鬼麿に仕える唯一の使用人!それがオレだッ!」
小弥太は彼が瞳を逸らす事なく、強い瞳で自分を睨んでいる事に気が付く。
小弥太はこれまでの標的になった人々の事を思い返す。
彼らは武士だの士族だの、或いは華族だのと威張っている癖に自分に命を狙われとたなれば、揃いも揃って自分の命を狙れているとなれば、情けなく命乞いをする姿を思い返す。
彼は士族でも無い華族でも無い彼がここまで立派な態度を貫いている事と何故、彼がそこまでやれるのかを問う。
彼は瞳を曇らせる事なく小弥太に向かって叫ぶ。
「決まっているだろう!鬼麿はオレの命の恩人であり、彼を守りたいとオレが誓ったからだッ!オレの思い上がりだと言う事だと言う奴もいるかもしれないが、それでも、オレは鬼麿を守るために、全力を尽くしたいんだッ!」
「あんな小さ子に取り込まれてしまっているってわけか……哀れだなとは思うよ。同情はしないけど」
小弥太は真下に存在する赤い肌の青年の喉元に向かって握っていた刀を突き立てようとしたが、背後から聞こえる大きな声によって妨害されてしまう。
彼が背後を振り向くと、そこには木刀を握った一人の少年が立っていた。
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