上 下
197 / 365
第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

征服王の懐刀ーその⑧

しおりを挟む
時間は孝太郎とシリウスが最終決戦を仕掛ける二日前の日、大阪にて彼らが大樹寺雫と石川葵の両名と対峙した日にまで遡っていく。
大きな会議室の中で、低い声が漏れて、部屋全体に響いていく。
「まんまとしてやられたと言う事か……」
スティール・P・オールディスンは集まった重役や株主達の前で無遠慮に言い放ったらしい。彼は即座に口を紡ぎ、暫くは自分の言葉から発したと思われる反省大会の聞き手役に徹する事を誓う。
様々な人々が愚痴を溢し合う中で、その流れを止めたのは顔に例の傷が入った社長だった。彼はシリウス批判や現地の警察批判の流れを全く別の人物へと変える事に成功したのだった。
「全くだ。全てはシリウスなんて言う小僧を信じたいオールディスン社長に全て非があると言っても良いだろう。我々がこの計画に算出したために、我が社は少しばかり損を被った。こうなれば、ロサンゼルス伯の地位を返還し、損害を被った株主たちに金を支払うのが筋なのでは無いかね?」
スティールは一瞬耳を疑ってしまう。自身の左隣の革張りの椅子に座るギルフォードから発せられた言葉は明らかに彼を弾劾する発言だったからだ。
若い第三の軍の最高司令官の言葉に他の株主達も同調し、スティール社長に向かって次々と弾劾の言葉を浴びせていく。
「違う……私はッ!」
「シリウスの奴を信頼していただけだと言いたいのだろう?卿が騙されていた事には我々は同情はするが、それでも卿は一企業のトップであり、他ならぬ『キャンドール・コーブ』の発案者だ。今更、作戦が失敗したので、金は返金できませんでは我々も納得せん。我々に損害分の金を渡せば、卿は必ず破産する額だろうがな、卿が払うのは義務だ」
スティールは否定できない。その証拠に彼の脂ぎった肌から冷や汗が何筋も流れていく。スティールは汗が流れる度に株主や重役達の前で高価な絹のハンカチを使用し、拭っていく。
その哀れとも言える姿を見て、ギルフォードは確実に楽しんでいた。
ギルフォードは彼とは対照的に笑顔まで浮かべて彼に話し掛けていた。
『窮鼠猫を噛む』と言う言葉はこの時のためにあったのかもしれない。スティールは株主総会のために用意された巨大な机を強く叩いて、株主や重役達に向かって演説を奮っていく。
「ま、待ってください!我が社だけに損害を被らせるのは些か、酷と言う物ではない無いでしょうか!?」
スティールの言葉に重役や株主達の冷たい視線が刺さっていく。
重役からは追い詰められた社長を労わる憐憫の目が。株主達からは教師が問題児を見捨てるかのような冷徹な目が。
スティールはそれでも太鼓腹を鳴らすかのように大きな声で演説を繰り出していく。
「我が社は株主の皆様に破綻した『キャンドール・コーブ』に代わる新たな計画を提示させていただきます!」
その言葉に憐憫やら怒りやらの視線が瞬時に好奇心の目に変わっていく。
ギルフォードは両手を組みながら、「言ってみろ」と呟く。
スティールは社運を掛けた作戦を発表していく。
作戦としては日本支社からの連絡を頼りに自分達を裏切ったペンドラゴン兄妹と自分達の計画を尽く邪魔したヤクザの少年。それに、大事な計画を潰した忌々しい刑事達の三勢力が一気に集まる場所があると言う。
彼は机の下のスイッチを押し、日本列島の地図を表したホログラフを集まった人物達の前に広げていく。
空中に現れた日本列島の中の一番小さな島の海に近い場所に赤い点滅が現れた。
スティールはもう一度机を叩き、現れる場所を重役達に教えていく。
「この場所に奴らは現れます。そこに私が所有するロサンゼルス伯の持つ私兵を投入し、彼らを数の暴力によって駆逐します!」
スティールは身振りや手振りなどの大袈裟な動作とホログラフを使用しての私兵の数の多さや装備の充実性などを説明していく。
その結果に重役達は満足したらしく、全員が罵声や野次を飛ばすのを控えていた。
ただ一人を除いて……。スティールは自分の演説を終えても尚、腕を組んだままのギルフォードの姿が気になり、彼に向かって言葉を投げ掛ける。
「ギルフォード社長……何か至らぬ点でも?」
ギルフォードは人差し指を掲げて言った。
「一点だけある。キミの私兵だと言う限りはキミが選んだ隊長が指示を出すのだろう?」
スティールは両眉を上げたい衝動を必死に宥めて、ギルフォードの考えを首肯する。
「聞いた話によれば、卿の隊長を務めているのは実戦経験が無い士官学校を出たばかりの若造らしいな、私が卿ならばこんな人物は採用せん」
「ならば、ギルフォード社長はどのような人物を採用なさるおつもりで?」
言葉を吃らせながらスティールは尋ねる。ギルフォードは彼の言葉に答えること無く、無言で携帯端末を操作し、操作し終えた後の端末を会社のテーブルの上に置いて、ホログロフを映し出す。
「この人物だ。彼の名前はジョージ・クレイ。ユニオン帝国竜騎兵隊前隊長だ。不名誉除隊をした後に、私の有する部隊の中に招き入れた」
スティールはいや、他の株主や重役達は目を丸くしてしまう。何故なら、彼の顔は明らかに有色人種であったからだ。
中には怒りに支配され、「信じられない!」と叫び続ける人間がいた。
「クレイなる人物に我が軍を任せろと仰るのですか!?」
スティールも他の社長に倣いギルフォードを責めたが、ギルフォードは済ました顔で、
「嫌なら、いいんだぞ……その代わり、お前の雇っている隊長がヘマをやらかしても、我々は冷徹に卿の会社から補償金を責め立てるがな……」
ギルフォードの言葉にスティールは沈黙し、彼の案を容認した。
ここに新たなる作戦はかつての海賊が暴れ回った時代に入江の中に集まった海賊達を殲滅したイギリス海軍の戦略に準えて、『入江の中の海賊作戦』と名付けられた。






「いいか、この作戦に失敗は許されん!我々は直ちに四国城に集まった人間どもを一人残らず殲滅させ、オーディスン社長の面目を晴らし、そして、ギルフォード社長のお役に立つのだッ!」
黒色の隊長ことジョージ・クレイの言葉に他の兵士達も高揚され、手に持っていたビームライフルや突撃銃を掲げていく。
迷彩服と防弾ベストを着込んだ彼らは物騒な装備を携えて高知城の周辺に接近していく。
辺りは既に夜になっており、彼らが紛れるのには絶好の時間帯だったと言えるだろう。
彼らは夜の闇に紛れながら、先程の斥候から得た情報を纏めて、未だに戦いを繰り広げている高知城の広場へと向かって行く。
白籠市のアンタッチャブルの面々と残るユニオン帝国竜騎兵隊の面々は迫る足音に気付かずに、争いを繰り広げ続けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ラストフライト スペースシャトル エンデバー号のラスト・ミッショ

のせ しげる
SF
2017年9月、11年ぶりに大規模は太陽フレアが発生した。幸い地球には大きな被害はなかったが、バーストは7日間に及び、第24期太陽活動期中、最大級とされた。 同じころ、NASAの、若い宇宙物理学者ロジャーは、自身が開発したシミレーションプログラムの完成を急いでいた。2018年、新型のスパコン「エイトケン」が導入されテストプログラムが実行された。その結果は、2021年の夏に、黒点が合体成長し超巨大黒点となり、人類史上最大級の「フレア・バースト」が発生するとの結果を出した。このバーストは、地球に正対し発生し、地球の生物を滅ぼし地球の大気と水を宇宙空間へ持ち去ってしまう。地球の存続に係る重大な問題だった。 アメリカ政府は、人工衛星の打ち上げコストを削減する為、老朽化した衛星の回収にスペースシャトルを利用するとして、2018年の年の暮れに、アメリカ各地で展示していた「スペースシャトル」4機を搬出した。ロシアは、旧ソ連時代に開発し中断していた、ソ連版シャトル「ブラン」を再整備し、ISSへの大型資材の運搬に使用すると発表した。中国は、自国の宇宙ステイションの建設の為シャトル「天空」を打ち上げると発表した。 2020年の春から夏にかけ、シャトル七機が次々と打ち上げられた。実は、無人シャトル六機には核弾頭が搭載され、太陽黒点にシャトルごと打ち込み、黒点の成長を阻止しようとするミッションだった。そして、このミッションを成功させる為には、誰かが太陽まで行かなければならなかった。選ばれたのは、身寄りの無い、60歳代の元アメリカ空軍パイロット。もう一人が20歳代の日本人自衛官だった。この、二人が搭乗した「エンデバー号」が2020年7月4日に打ち上げられたのだ。  本作は、太陽活動を題材とし創作しております。しかしながら、このコ○ナ禍で「コ○ナ」はNGワードとされており、入力できませんので文中では「プラズマ」と表現しておりますので御容赦ください。  この物語はフィクションです。実際に起きた事象や、現代の技術、現存する設備を参考に創作した物語です。登場する人物・企業・団体・名称等は、実在のものとは関係ありません。

父に虐げられてきた私。知らない人と婚約は嫌なので父を「ざまぁ」します

さくしゃ
ファンタジー
それは幼い日の記憶。 「いずれお前には俺のために役に立ってもらう」  もう10年前のことで鮮明に覚えているわけではない。 「逃げたければ逃げてもいい。が、その度に俺が力尽くで連れ戻す」  ただその時の父ーーマイクの醜悪な笑みと 「絶対に逃さないからな」  そんな父を強く拒絶する想いだった。 「俺の言うことが聞けないっていうなら……そうだな。『決闘』しかねえな」  父は酒をあおると、 「まあ、俺に勝てたらの話だけどな」  大剣を抜き放ち、切先で私のおでこを小突いた。 「っ!」  全く見えなかった抜剣の瞬間……気が付けば床に尻もちをついて鋭い切先が瞳に向けられていた。 「ぶははは!令嬢のくせに尻もちつくとかマナーがなってねえんじゃねえのか」  父は大剣の切先を私に向けたまま使用人が新しく持ってきた酒瓶を手にして笑った。  これは父に虐げられて来た私が10年の修練の末に父を「ざまぁ」する物語。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話

束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。 クライヴには想い人がいるという噂があった。 それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。 晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...