魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

征服王の懐刀ーその⑧

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時間は孝太郎とシリウスが最終決戦を仕掛ける二日前の日、大阪にて彼らが大樹寺雫と石川葵の両名と対峙した日にまで遡っていく。
大きな会議室の中で、低い声が漏れて、部屋全体に響いていく。
「まんまとしてやられたと言う事か……」
スティール・P・オールディスンは集まった重役や株主達の前で無遠慮に言い放ったらしい。彼は即座に口を紡ぎ、暫くは自分の言葉から発したと思われる反省大会の聞き手役に徹する事を誓う。
様々な人々が愚痴を溢し合う中で、その流れを止めたのは顔に例の傷が入った社長だった。彼はシリウス批判や現地の警察批判の流れを全く別の人物へと変える事に成功したのだった。
「全くだ。全てはシリウスなんて言う小僧を信じたいオールディスン社長に全て非があると言っても良いだろう。我々がこの計画に算出したために、我が社は少しばかり損を被った。こうなれば、ロサンゼルス伯の地位を返還し、損害を被った株主たちに金を支払うのが筋なのでは無いかね?」
スティールは一瞬耳を疑ってしまう。自身の左隣の革張りの椅子に座るギルフォードから発せられた言葉は明らかに彼を弾劾する発言だったからだ。
若い第三の軍の最高司令官の言葉に他の株主達も同調し、スティール社長に向かって次々と弾劾の言葉を浴びせていく。
「違う……私はッ!」
「シリウスの奴を信頼していただけだと言いたいのだろう?卿が騙されていた事には我々は同情はするが、それでも卿は一企業のトップであり、他ならぬ『キャンドール・コーブ』の発案者だ。今更、作戦が失敗したので、金は返金できませんでは我々も納得せん。我々に損害分の金を渡せば、卿は必ず破産する額だろうがな、卿が払うのは義務だ」
スティールは否定できない。その証拠に彼の脂ぎった肌から冷や汗が何筋も流れていく。スティールは汗が流れる度に株主や重役達の前で高価な絹のハンカチを使用し、拭っていく。
その哀れとも言える姿を見て、ギルフォードは確実に楽しんでいた。
ギルフォードは彼とは対照的に笑顔まで浮かべて彼に話し掛けていた。
『窮鼠猫を噛む』と言う言葉はこの時のためにあったのかもしれない。スティールは株主総会のために用意された巨大な机を強く叩いて、株主や重役達に向かって演説を奮っていく。
「ま、待ってください!我が社だけに損害を被らせるのは些か、酷と言う物ではない無いでしょうか!?」
スティールの言葉に重役や株主達の冷たい視線が刺さっていく。
重役からは追い詰められた社長を労わる憐憫の目が。株主達からは教師が問題児を見捨てるかのような冷徹な目が。
スティールはそれでも太鼓腹を鳴らすかのように大きな声で演説を繰り出していく。
「我が社は株主の皆様に破綻した『キャンドール・コーブ』に代わる新たな計画を提示させていただきます!」
その言葉に憐憫やら怒りやらの視線が瞬時に好奇心の目に変わっていく。
ギルフォードは両手を組みながら、「言ってみろ」と呟く。
スティールは社運を掛けた作戦を発表していく。
作戦としては日本支社からの連絡を頼りに自分達を裏切ったペンドラゴン兄妹と自分達の計画を尽く邪魔したヤクザの少年。それに、大事な計画を潰した忌々しい刑事達の三勢力が一気に集まる場所があると言う。
彼は机の下のスイッチを押し、日本列島の地図を表したホログラフを集まった人物達の前に広げていく。
空中に現れた日本列島の中の一番小さな島の海に近い場所に赤い点滅が現れた。
スティールはもう一度机を叩き、現れる場所を重役達に教えていく。
「この場所に奴らは現れます。そこに私が所有するロサンゼルス伯の持つ私兵を投入し、彼らを数の暴力によって駆逐します!」
スティールは身振りや手振りなどの大袈裟な動作とホログラフを使用しての私兵の数の多さや装備の充実性などを説明していく。
その結果に重役達は満足したらしく、全員が罵声や野次を飛ばすのを控えていた。
ただ一人を除いて……。スティールは自分の演説を終えても尚、腕を組んだままのギルフォードの姿が気になり、彼に向かって言葉を投げ掛ける。
「ギルフォード社長……何か至らぬ点でも?」
ギルフォードは人差し指を掲げて言った。
「一点だけある。キミの私兵だと言う限りはキミが選んだ隊長が指示を出すのだろう?」
スティールは両眉を上げたい衝動を必死に宥めて、ギルフォードの考えを首肯する。
「聞いた話によれば、卿の隊長を務めているのは実戦経験が無い士官学校を出たばかりの若造らしいな、私が卿ならばこんな人物は採用せん」
「ならば、ギルフォード社長はどのような人物を採用なさるおつもりで?」
言葉を吃らせながらスティールは尋ねる。ギルフォードは彼の言葉に答えること無く、無言で携帯端末を操作し、操作し終えた後の端末を会社のテーブルの上に置いて、ホログロフを映し出す。
「この人物だ。彼の名前はジョージ・クレイ。ユニオン帝国竜騎兵隊前隊長だ。不名誉除隊をした後に、私の有する部隊の中に招き入れた」
スティールはいや、他の株主や重役達は目を丸くしてしまう。何故なら、彼の顔は明らかに有色人種であったからだ。
中には怒りに支配され、「信じられない!」と叫び続ける人間がいた。
「クレイなる人物に我が軍を任せろと仰るのですか!?」
スティールも他の社長に倣いギルフォードを責めたが、ギルフォードは済ました顔で、
「嫌なら、いいんだぞ……その代わり、お前の雇っている隊長がヘマをやらかしても、我々は冷徹に卿の会社から補償金を責め立てるがな……」
ギルフォードの言葉にスティールは沈黙し、彼の案を容認した。
ここに新たなる作戦はかつての海賊が暴れ回った時代に入江の中に集まった海賊達を殲滅したイギリス海軍の戦略に準えて、『入江の中の海賊作戦』と名付けられた。






「いいか、この作戦に失敗は許されん!我々は直ちに四国城に集まった人間どもを一人残らず殲滅させ、オーディスン社長の面目を晴らし、そして、ギルフォード社長のお役に立つのだッ!」
黒色の隊長ことジョージ・クレイの言葉に他の兵士達も高揚され、手に持っていたビームライフルや突撃銃を掲げていく。
迷彩服と防弾ベストを着込んだ彼らは物騒な装備を携えて高知城の周辺に接近していく。
辺りは既に夜になっており、彼らが紛れるのには絶好の時間帯だったと言えるだろう。
彼らは夜の闇に紛れながら、先程の斥候から得た情報を纏めて、未だに戦いを繰り広げている高知城の広場へと向かって行く。
白籠市のアンタッチャブルの面々と残るユニオン帝国竜騎兵隊の面々は迫る足音に気付かずに、争いを繰り広げ続けていた。
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