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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

征服王の懐刀ーその④

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少女は新たな自分の引き取り手の女性がどう見ても自分と同じ年頃の少年に向かって頭を下げた姿がよく分からない。
彼女が首を傾げていると、又従兄弟は彼女に向かって事情を始めた。
どうやら、刈谷浩輔は白籠市の裏社会を支配し、裏から自分達を守ってくれている守護者的存在らしい。
少女が苦言を呈そうとすると、彼女は自分の引き取る相手の少女にこれまで語られなかった事情の事を話す。
彼女は一年前に闇金融から借金をして、そのバックに付いている小規模のヤクザの前に手も足も出なかったらしいが、噂を聞いた刈谷浩輔が闇金融の事務所に乗り込み、噂に聞く雷の魔法で闇金を支配するヤクザ達を殲滅させたらしい。
少女がふーんと納得の言葉を上げていると、少女から見ても“美しい”と思わされるような端正な顔の美少年は彼女に向かって大きく頭を下げた。
「どうも、こんにちは……。刈谷浩輔です。よろしく……」
彼は途切れ途切れに言葉を発していた事から、この事情は予想外の事態であったに違いない。しみどもろな声で上手く言葉を繋ごうとしているのが見えた。
言葉に詰まっている浩輔の姿が哀れに見えたのだろう。少女は彼に向かって助け舟を出す。
「どうも、橋本裕子って言います。こちらこそ、よろしく……」
「あっ、うん、よろしくね……」
だが、浩輔はこの後の言葉に詰まってしまっているらしい。彼女がどうしようかと考えて、この三人の会話から生じたと思われる店全体から漂う気不味い雰囲気から逃れるために、彼女がふと外の景色を眺めると、高知城の前の広場から何万もの剣が広がっている事に気が付く。
異変に気が付いた裕子は高知城に向かっていると言っていた刑事達と両親と祖母を殺した犯罪者の事を思い返す。
そして、相変わらず何を言っていいのか分からないとばかりに苦笑をしていた刈谷浩輔に向かって詰め寄っていく。
「ねぇ、あなたヤクザの組長さん何ですよね?みんなを助けてくれる。顔役……違いますか?」
「う、うんそうだけれど……」
浩輔は面食らった表情を浮かべて可愛らしい瞳をパチクリと動かしていた。
裕子は彼の事情など構う事なく、彼の手を握りながら要請を出す。
「お願いします!あたしの両親と祖母の仇を討って!そして、あの刑事さん達を助けて!」
浩輔はもう一度目をパチクリとさせようとしたが、彼女が真剣な瞳を浮かべて彼の顔を捉えている事から、彼自身も真剣な瞳を浮かべて、彼女に応対する。
浩輔は裕子の話を聞くにつれて、高知城で今起きていると思われる事を推測していく。
浩輔は高知城の広間で戦っているのは自分の親友の刑事とその仲間、そして、空港でCIAの捜査官、ジョン・マクドナルドを捕らえに向かった際に、自分達と対決したユニオン帝国竜騎兵隊の隊長とその手下であるだろうと断定した。
浩輔は裕子の話を聞くと、安物のスチール椅子から立ち上がり、彼の私服の真夏の日の南国の海を思わせるような綺麗な青色のジャケットの懐から、小さな黒革の財布を取り出し、スチール席で話し合いに加わらずに、出来上がったばかりの素うどんを啜っていた友人に突き出す。
流石の友人も親友の小遣いの全てが入った財布を押し付けられて、どう対処していよいのか分からなかったらしく、沈んでいた表情を引っ込め、代わりに細くて綺麗な両眉を上げていた。
「ど、どうしたの?急に立ち上がったりして?」
友人はごく当然の質問を投げ掛けたが、その質問に対し友人は素っ気ない調子で「用事が出来た!」とだけ言い残して、慌てて店を飛び出していく。
後には沈んだ表情から困惑した表情を顔に引っ付けた美少年と同じような顔をした若い女性。それに、何かを悟ったように胸元を右手で掴んでいた少女だけが残された。





「さてと、どうやら、彼の攻撃は既に第四段階に突入したらしいが、お前に彼の攻撃を防ぎ切れるかな?」
シリウスは互いに目と鼻の先で拳銃の銃口を突き付け合いながら、彼に向かって問い掛ける。
孝太郎としても背後で何度も攻撃を魔法で防いでいる姉と計算係の防御力を信じさせるしかない。
単純な撃ち合いに発展してから、どのくらいの時間が過ぎたのかは孝太郎は分からなかったが、少なくとも陽が西に傾いていると言う事は最初に彼と遭遇してから、かなりの時間が経っていると言う事だろう。
と、ここで孝太郎の体が大きく揺れ動くのを感じた。足下がふらつくような感覚に陥ったような気がした。
どうやら、体の方に疲労が蓄積されているらしい。
孝太郎がこの状況を打破しようかと考えていると、シリウスは口元を大きく歪めて、彼の手に持っていた軍用の自動拳銃の引き金を引く。
孝太郎は咄嗟に鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールを使用し、シリウスの銃弾が跳ね返るのを確認したが、彼は今度は見えない膜に覆われている孝太郎に向かって軍人らしい鍛え上げられた大きな腕で彼に向かって殴り掛かっていた。
シリウスは膜に自分の拳が跳ね返されるのを確認すると、もう一度距離を取る。
そして、彼は征服王の計測ザ・ルーラーを使用し、鋼鉄の将軍ジェネラル・オブ・スティールを使用し終えた後の中村孝太郎の姿を探っていく。
彼はかなり長い時間例の魔法を使用していたらしい。シリウスが五分後の中村孝太郎の姿を見つけて、彼の心臓に軍用の自動拳銃の銃口を定めた時だ。五分後の彼の右手がシリウスの右手を掴む。
シリウスは大きな声を上げて目の前の刑事が自分だけの時間、いや、正確には空間に入門した事に戦慄してしまう。彼の首筋から冷や汗が垂れたようにも感じられた。
はちゃんと口を開き、のだ。
「掴んだぜ、お前の最強の魔法『征服王の計測ザ・ルーラー』の正体が、まさか、時間と空間の両方を意のままに操作できるようなチート能力だったとはな……驚いた」
孝太郎による自身の魔法の簡単な解説も彼の耳には届かないらしい。彼は口から小さな吐息を吐きながら、震える手で彼に向かって指を突き付けながら、
「き、貴様……どうして我が世界にした!?」
「オレの破壊の右手さ」
五分後の孝太郎は自分の自慢の右手を動かしてみせた。シリウスは冷や汗をかきながら、目の前の出来事を推測し、順序を組み立てていく。
どうやら、彼は全ての物質や魔法原理を『破壊』できる自分の魔法で空間と時間の距離を突破し、この世界に入門し、同時にこの世界で渡り合えているのだろう。
シリウスはそれでも自分が有利だとばかりに、握っていた軍用の自動拳銃を握り直し、彼に向かって銃口を向ける。
すると、五分後の中村孝太郎も同時に自分に向かって銃口を向け直す。
二つの銃口が時間と空間を支配できる空間の中で向かい合う。
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