魔法刑事たちの事件簿Ｒ（リターンズ）

第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

征服王の懐刀ーその③

シャーロットは自らの手に持っている見えない刃を扱える自分に対して誇りを持っていた。アーサー王伝説に記されている聖剣エクスカリバーになぞらえて名付けられた自分の両手に握っている開発段階の武器を自分の手足のように自在に操れる事はシャーロットにとっての自慢であった。開発途中であるこの武器を扱える人間はユニオン帝国竜騎兵隊広しと言えども自分だけだろう。
その自負は彼女の心の奥底に存在していた。それ故に、自分とエクスカリバーの最強とも言えるコンビの前に勝てる人間などいないと思っていたのだ。
だが、目の前の八重歯を見せる勝気な小柄な体の少女は自分の自慢の武器を前時代的な武器で完璧に防ぎ、あろう事か意気揚々と反撃に転じていたのだ。
青い髪のボブショートの女性は口元を大きく歪めながら、彼女のライトセイバーに向かって斬りかかっていく。
シャーロットは少女の剣を自らのライトセイバーを縦に構えて、左右から斬りかかってくる刀を防ぐ。
シャーロットは何度も刀を振るう少女を強い眼孔で睨む。
そして、彼女の剣劇に答えるかのように、自分も激しい攻撃を繰り返していく。
両手に持っていたライトセイバーを大上段から構えて、聡子の面を割ろうと試む。
だが、聡子は自らの日本刀を横に動かし、頭上に構えて盾の代わりとして使用したためにシャーロットのライトセイバーを防ぐ。
シャーロットは一度、彼女から距離を取ると、もう一度強く彼女に向かって斬りかかっていく。今度の攻撃は左斜め下から斬り上げていく、剣道における逆袈裟懸けと呼ばれる攻撃を繰り出す。
彼女は鍛錬を行う際にはフェンシングだけではなく、剣道の心得も身に付けていた。
だから、逆袈裟懸けを行う事も可能と言えるだろう。
聡子は左斜め下に日本刀を構えて、彼女の攻撃に備えた。
日本刀と見えない刃がぶつかり合う。火花が散ったように思われたが、視覚で目視できるのは小柄な女性が持っている日本刀の方だけ。
シャーロットの剣からは火花こそ散っているものの、刃そのものは見えていない。
彼女は剣を引っ込め、今度は両手で塚を強く掴み、聡子に向かって大きく振り上げていく。
聡子はシャーロットの剣を微笑を浮かべて見守っていた。






「ご遺体の確認は済みましたか？」
全身に白色の服を纏った白いマスクで口元を覆い隠し、白い色の頭巾で頭の頭髪を隠した表情の見えない遺体安置所の職員はできる限り丁寧な口調で問い掛ける。職員の男性は全ての肉親を失い孤児となった哀れな中学生の少女に特別とも言える憐憫の情を向けていた。
彼女の年齢はまだ中学校の二年生か三年生だった筈なのだ。その年で孤児院へ行くと言うのも辛いだろう。
その上、彼女の死んだ母親は職員から見てもかなりの歳を取っていた。
さぞかし可愛がられていたに違いない。
職員が何か言葉を掛けようとした時だ。死体安置所の重い鉄の扉が開いたのを職員の男性は確認した。彼が振り向くとそこには長い茶髪の彼女そっくりの可愛らしい丸い瞳を宿した若い女性が現れた。
若い女性は両親と祖母の死体を茫然自失とした表情で眺めていた少女を優しく包み込む。
短い髪の女性は死体を眺めていた少女を優しく抱き締めながら、何度も何度も謝罪の言葉を叫ぶ。
それから、名前を尋ねる少女に向かって若い女性は自分は彼女に又従兄弟にあたる存在だと叫ぶ。
職員の男性は立ち聞きをするつもりはなかったが、話を統合すれば、彼女は死んだ彼女の母親の妹の娘で、ずっと彼女と彼女の母親に支援してきた存在らしい。
彼女は又従兄弟が父親と離れて、暮らしている事を知り、幸福に暮らしているとばかり思っていたらしいが、彼女が母親に何をされていたのかを彼女から事件の事情を聞いた警察から聞いたらしい。
彼女は両頬の瞳から小さくて丸い透明の液体を溢しながら、彼女に向かって謝り続けていた。
「ごめんね！ごめんね！あたしがあの家を嫌悪せずに近付いていれば、こんな事にはならなかったよね！本当にごめんね！」
感情的になって彼女を強く抱き締める又従兄弟の存在でさえも彼女にとってはどうでも良い存在だったらしい。
冷淡な表情で抱き締められている間、彼女は虚な視線を天井に向かわせていた。
それから、彼女は又従兄弟を名乗る女性に連れられ、死体安置所の扉を潜り抜け、地上へと戻っていく。
警察署を一度出る事を許可された二人は近くのうどん屋で遅めの昼食を取る事に決めたらしい。陽も大きく西に傾いている事から、正確に記すとするのなら「少し早い夕食」と表現するべきかもしれない。
ともかく、二人は食事を取るために、警察署の向かい側に存在するうどんチェーン店に足を踏み入れる。
彼女はチェーン店らしい安物のスチールの椅子に座って、目の前に現れたメニュー画面を動かし、かき揚げうどんを注文する。自分の又従兄弟を名乗る女性は明太子と生卵の入ったうどんを注文した。
少女はうどんが来るまでの暇を周りの景色を見回す事によって潰す事に決めたらしい。
うどん屋の隣に巨大な病院が立っていた。城下町であるため、あまり城の周辺の景観に影響しない端に立たざるを得ないのだろう。
日本列島が共和国と皇国に分離する以前から、古き良き時代の空間を保つための運動自体はあったので、現在のこの状況はかつての状況をなぞらえていると言っても良いだろう。
少女が何気無しにそんな事を考えていると、少女の隣に同じ年頃の少年が座っていく。
どちらも目を見張る程、美しい少年であった。下手をすれば女性と見間違う程の可愛らしい顔立ちの少年だ。
一人の少年が涙を流しており、もう片方の少年が優しく慰めていると言う奇妙な状況だった。
「だって、だって、兄さんは……兄さんは……」
二人の少年の中でもより一層可愛らしさの目立つ少年が涙を混ぜながら言葉を述べていく。
「……。ぼくには何もできない。けれど、ぼくは淳太くんの側に居たいんだ。それじゃあダメかな？」
浩輔の問い掛けに淳太は優しい笑顔を向けていく。それでも、彼の瞳からは涙が溢れていたからだ。
目の前の少年はもう片方の少年の背中を優しくさすっていた。
「本当にぼくじゃあ、何の役にも立てないと思うけど、それでも、キミと一緒にいたいって言う思いは本当だよ。キミの気持ちを分かりたいって言う思いだって本当だよ。だって、キミは大事な友達だから……」
「浩輔くん……そう言えば、キミもお兄さんを失ってたんだよね？」
淳太は自分で言った言葉で彼の手を強く握り締める。
淳太が礼を述べようとした時だ。二人の間に少女の又従兄弟を名乗る女性が割って入っていく。
「あの、間違いで無ければ、あなたは刈谷浩輔くんだよね？刈谷組の……」
浩輔は女性の問い掛けに面食らったらしく、目を丸くしていたものの、直ぐに首を縦に動かして彼女の考えを肯定した。