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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

大阪・パニック!ーその④

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孝太郎は目の前に差し出された少女の手を受け取ろうと自分自身右手を差し出そうとした時だ。
孝太郎の頭の中に激昂する言葉が聞こえた。老人は逞しいその右手で孝太郎の右手をしっかり掴む。
腕を掴まれる中で、孝太郎は自分の背後に現れた老人に視線を向ける。
老人は強い口調で皺の多い右手で孝太郎を責める。
「情けないぞ!お前はそんな奴の言いなりになるために、警察官になったのか!?違うだろう!?」
孝太郎は自分の右手を強く掴んだ老人に向かって首肯して見せた。力強く頷く孝太郎の顔に迷いは無い。
老人は白髪と白色の髭に覆われた顔で孝太郎の言葉に笑みを向ける。
「なら、お前はお前の役割を果たせ!お前は警察官だろう!?お前は刑事だろう!?ならば、人々を守るために悪を取り除け!」
老人はそれから優しい笑顔を向けて、孝太郎の両肩に大きな手を置く。
大きいが温かい。孝太郎が幼少期に抱いた祖父の印象と全く同じだった。
孝太郎はそこで12歳の少年に戻っていた。12歳の少年は久し振りに現れた祖父に優しく抱き付いていた。
そんな祖父は久し振りに現れた孝太郎を優しく抱き締めていく。
一通り抱擁が済んだ後には、優しく孝太郎から手を離して、よく晴れた春の日の丘の上に降り注ぐ太陽のような優しい眼差しを孝太郎に向けた。
それから、祖父は孝太郎の肩を強く叩いてもう一度送り出す。
「行ってこい!孝太郎!お前は儂のような警察官になるんだろう!?なら、その女をさっさと逮捕しろ!大衆の平和を守る警察官としてなッ!」
孝太郎は元の25歳の青年の姿に戻り、もう一度暗がりへと去って行こうとする祖父に向かって大きく親指を突き刺す。
孝太郎がもう一度目の前を振り返ると、自分を囲んでいた犯罪者達の姿は無い。
目の前の暗闇の空間には大量テロリストの大樹寺雫が口元に微笑を浮かべて立っていた。
「話は終わった?なら、わたしと組もうよ。あなたの『破壊』の魔法とわたしの頭脳があれば、世界はーー」
「ふざけるんじゃあねぇ」
孝太郎は冷たい声で雫の演説を遮っていく。
孝太郎は南極の氷のように冷たい視線で雫を睨む。「雫」と言う名前の通りに彼女の体全体が孝太郎の冷たい視線に凍らされてしまったかのように動かない。
それでも、孝太郎は思いっきり口を酸っぱくして、またあらん限りの毒舌を用いて目の前の少女を詰っていく。
そして、少女の体が怒りやら悔しさやらで我慢できずにプルプルと体を震わせた時に孝太郎はトドメとも言うべき一撃を彼女に喰らわせる。
「お前となんで組むか、イカレ女……」
すると、目の前の小柄な少女は態度を豹変させて暗闇に包まれた空間の中で孝太郎に殴り掛かって来ていた。
孝太郎は殴り掛かって来た大樹寺雫を右手を用いて消滅させた。
「あの世で殺した人間に詫び続けろォォォォ~!!!」
孝太郎の右手に触れられた雫はこの世から姿を消していく。
孝太郎による『破壊』の魔法は彼の精神を害していた悪魔の誘惑にも打ち勝ったらしい。
孝太郎は両目を開き、迷いの無い視線を向ける。
彼の両目は広い部屋の中を映し出していた。広い部屋にはルガーピストルを柿谷淳一に構えている大樹寺雫の姿があった。孝太郎は部屋全体が揺れるような大きな声で叫ぶ。
大樹寺雫は孝太郎を見つめた。彼女の瞳が丸くなっている事が遠目からでも分かる。
孝太郎は武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる六連発式のリボルバーを突き付けながら言った。
「どうやら、お前はおれの友達まで殺すつもりだったらしいな?だが、もうそれ以上はおれが許さない。お前の手にこれ以上犠牲者が出る前にお前を連行していくッ!」
大樹寺雫は驚愕していたらしかったが、手に持っていたルガーピストルを西部劇に登場するガンマンのように銃口をグルグルと回す。
そうして一回転し終えたピストルを構えながら雫は言った。
「どうかな?あなたにできるかな?わたしの魔法は強力だよ。それに、あなたを殺したく無いと思うあたしもいる。だからこそ、こんな手段を使わずとも、あなたがあたしのーー」
「なるとでも思っていたのか?言っておくが、何人もの人間を虫ケラみたいに殺す教祖を拝めるなんておれは嫌だね」
孝太郎の言葉に雫の両眉が微かに眉間に寄ったのを確認した。
だが、彼女は火種のような小さな怒りの炎を直ぐに揉み消し、いつも通りのぼんやりとした顔を浮かべて言った。
「残念だよ」
雫は孝太郎に向かって何の躊躇いも無く引き金を引く。幸にして銃弾は孝太郎の近くの畳を撃ち抜いただけであったが、それが合図となったのか、雫の周りを囲っていたアナベル人形の数々が孝太郎に向かって飛んでいく。
孝太郎はアナベル人形達に向かって銃口を構えて発砲していく。
孝太郎の射撃技術は確かだったらしい。大きなアナベル人形は額に穴を開けて空中で轟音を立てて爆発の際に生じる小さな白い光を見せていく。
孝太郎は弾倉に詰めていた銃弾が無くなるのと同時に、銃を背広のポケットの中に仕舞い、予備の弾丸を亜空間の武器庫の中から取り出すよりも前に、自分の右手の掌を構えて大樹寺雫の忠実なる手下を破壊していく。
彼らにとって破壊されればもう意味が無い。次々と手下は無力化していく。
雫は唇を噛み締めながら、目の前の孝太郎に向かってルガーピストルの銃口を構えるが、彼は雫が引き金を引くよりも前に雫に向かって銃口を向けた。
そして、彼は躊躇う事なく彼女の腹に向けて銃口を構えた。
この時の孝太郎の感覚としては正当防衛であったのか、はたまた殺す気で撃ったのかは正確には分からない。
ただ、どちらの事情にしろ孝太郎には大樹寺雫は生きていては不味い人間だと言う考えがあった事だ。
彼は大衆を守る警察官としてまた、凶悪犯を追い詰める刑事として当然の事をしたと考えていたからこそ、叫び声を上げて引き金を引いたのだろうか。
だが、八百万の神々の中には目の前の鬼畜に関して何処までも庇いたがる神もいるのかもしれない。
大樹寺雫は孝太郎の銃弾が届こうとするなり、体を捻る事によって弾丸に空を切らせる事に成功したらしい。
彼女は孝太郎の目の前で大きく口元を歪める。そして、もう一度ルガーの銃口を向ける。
「さようなら、孝太郎さん……」
孝太郎はダメ元で彼女と『OK牧場の決闘』をやらかそうと考えた所、大きな体が彼女の体に向かって思いっきり抱き付いていく。
雫は大きな体のために孝太郎に向かって妨害する機会を失ったらしい。
彼女はゴロゴロと畳の上を転がっていく。
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