魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)

アンジェロ岩井

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第四部Ⅱ 『入江の中の海賊』

大阪・パニック!ーその①

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刈谷浩輔が海宮秀幸とキャンドール・コーブをめぐる争いを繰り広げているのと殆ど同じ時刻に中村孝太郎は長浜から徹夜で大阪城に向けて車をようやく目的の場所に到着させていた。
車が大阪城に着くなり、彼は聖杯の欠片の事を警備を担当していた警察官に尋ねた。警察官は目を白黒させ、顔を赤青くしていくと、彼は震える声でまだ来ていないと叫んだ。
孝太郎は礼を述べてから、三年程前に宇宙究明学会の赤川友信と欠片を争った場所へと向かう。
彼は他の仲間達に呼び掛け、この場所で敵を待つ事を決めた。
男女四人の仲間で聖杯の欠片を狙うユニオン帝国竜騎兵隊の面々を三年前に赤川友信と対峙した同じ畳の敷き詰められた大広間で靴を脱いで待ち構えていると、彼らの目の前に見覚えのある二人の女性が現れた。
二人組の女性のうちの一人は姫カットと言う髪を下ろしたヘアスタイルをした可憐なる顔立ちの女性で、彼女自身の素足を美しく見せるための肌色のストッキングを履いていた。もう片方の小柄な女性は美しい顔立ちでいかにも「娘」と言う言葉の似合う少女。彼女は葵のようにストッキングではなく黒色の靴下を履いていた。その美しい小柄な少女は周囲に人形を浮かび上がらせて、彼らの元に向かって来ていた。
姫カットの女性は右端を大きく吊り上げると、
「あらあら、随分お疲れのようだけれど、あなたもしかして休憩無しでこの場所にまでやって来たの?」
彼女は孝太郎の青い顔と荒く吐き出される糸を見てそう感じ取ったのだろう。
クスクスと笑う。
「どうかな、お前の手に手錠をかけるためには休んでなんていられねーからな」
「あらあら、随分と口が悪くなったわね。それとも、何かしら?犯罪者に舐められてはいけないからって少しキツい言葉を使っているのかしら?」
石川葵はもう一度口の下に人差し指を当ててクスクスと笑っていく。
彼女の笑顔は一切の邪気が見えない無邪気とも評する事のできる笑みであった。
と、ここで大樹寺雫が彼女の耳元で何やら囁く。
すると、彼女は笑顔のまま武器保存ウェポン・セーブから一本の光るナイフを取り出し、そのナイフの刃先を孝太郎に向ける。
「残念だけれど、お喋りをしている時間は無さそうね。シリウス隊長を怒らせては不味いもの」
「……ッ!シリウスッ!」
孝太郎の顔が真っ青になったのに気が付いたのだろう。葵はクスクスといたずらっ子のような笑顔を向けて孝太郎に向けて問い掛ける。
「確かあなたはシリウス隊長の征服王の計測ザ・ルーラーの前に無残にも敗北したのよね?アッハッハッハッ、傷をえぐちゃったのなら謝るわ、ごめんなさいネ」
謝罪の言葉を口にしながらも舌を出して謝っている事から彼女が反省していないのは明白だろう。
それを見兼ねたのか、ボブショートの青い髪の小柄な女性が大きく地面を踏んで葵に向かって軽機関銃の銃口を向ける。
「テメェ、頭本当に大丈夫か?正気とは思えないな、いや、実際に正気じゃあないぜ、あたしから見てもそんなガキみてーな真似するなんて」
だが、葵は聡子の挑発にも乗ろうとはしない。ただ口元に妖艶な笑みを浮かべているだけだ。
彼女は暫くの間、沈黙を保ってから、ようやく形の良い思わず口付けをしたくなるような唇を開き、
「やだわ、そんな風に思われていたなんて、お姉さん反省しなきゃね」
聡子は驚愕した。普通の女性ならばあれだけ罵倒されれば必ず怒りの感情と言うのを抱いているだろう。
だが、この畳の大広間において自分達の目の前で今年の日本を最も騒がせた元凶と一緒に畳の上で立っている女性は笑顔を浮かべたまま立っていたのだ。
そして、その小柄な少女が三体の人形を孝太郎に向かわせた事が開戦の合図となったらしい。
孝太郎は右手を振り上げて三体の人形を破壊していく。
孝太郎は人形を破壊してから、武器保存ウェポン・セーブから取り出したと思われる日本刀を取り出し、三体の人形を破壊していく。





香川県でも有名な観光名所でも季節のためか、蒸し暑い風が訪れた観光客やそこに住む人々の肌を容赦なく刺していた。
残る数が三人となったユニオン帝国竜騎兵隊の隊員は香川の港町に存在する町を囲うように存在しているコンクリートの壁にもたれかかりながら、今後の事を話し合っていた。
その中の一人、長い金髪の碧眼の美しい女性は兄にして隊長であるシリウスに向かって真っ直ぐな瞳を美しい瞳の中に宿しながらある事を問い掛ける。
「時にお尋ねしますが、お兄様……あのお二方に大坂城に存在する聖杯の欠片を求めても良かったのでしょうか?」
シャーロットの問い掛けにシリウスは右頬を僅かに吊り上げて、
「大丈夫さ、シャーロット。お前は何も心配する必要は無いんだ。あの二人ならば必ず聖杯の欠片を奪取する。何故なら、あの二人はこの国最大の敵なのだからな、他の隊員と比べても躊躇は無いだろう……」
「ですが、お兄様!万一の事というのがございますわ!あの二人がしくじりでもしたらーー」
シャーロットの主張をシリウスは右手の掌を掲げて静止させた。
それから、自らの口を開いて理由を説明していく。
「あの二人がしくじったとしても、聖杯の欠片を全て揃えるには高知城に向かわなければならん。最後の聖杯を揃えようと向かった所を待ち伏せる。あの中村の奴から聖杯の欠片を奪取し、我々は時を駆ける聖杯を作り上げるのだ」
シャーロットは兄がそこまで考えている事に感銘を受けたらしい。ハッと息を飲んでから、彼女の均整の取れた顔から黄金の輝きでも放つかのような笑みを浮かべて彼女は兄を賞賛していく。
「お兄様がまさかそこまで考えていらっしゃるんなんて!このシャーロット・Aアルタイル・ペンドラゴン!感激致しました!お兄様こそがまさしくこの世の王に相応しいお方!」
シリウスはシャーロットの華美な世辞にも不快感を感じる事なく、それどころか最愛の妹にそこまで褒められた事を嬉しく感じたのか、優しい微笑を浮かべて彼女の頭を優しく撫でていく。
「ありがとう、シャーロット。オレはお前さえいれば良い」
シリウスはずっと妹を抱き締めていたいと考えた。
だが、自分達二人をニヤニヤとした陰湿な目で見つめる老人の姿を垣間見て、妹から抱擁を放す。
シリウスはポケットに手を突っ込み老人を睨んでから、黙って囲いの壁の上にもたれかかった。
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